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凶獣の王(R15版)  作者: ナナシ
第二章 タパパ村の青年
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第82話 潜入 5

「ここね」


 ルカは端末を片手に、制御室の前に立っていた。端末の操作自体はさして難しいものでもなく、すぐに使えるようになった。これがあれば研究所内で迷子になることはないだろう。


 潜入した時はどうなることか不安であったが、思ったよりは楽に事が運びそうだ。


 部屋に入ると、ごうん、という重低音が聞こえてきた。そこはルカが見たことのない計器類やら、操作パネルやらがあった。そして、部屋の中央には一際大きい四角の形をした機械が部屋の主であるかのように鎮座していた。


 耳に聞こえてくる重低音はあの機械から発せられている。きっと、あれがミストクリエイターなのだろう。これを止めれば、霧がなくなり外にいるハンターたちがここの研究所を攻められる。


 幸いなことに現在、ルカ以外に人はいない。こんな重要設備に人がいないのもどうかと思うが、それも彼女からすればありがたいことであった。早速ミストクリエイター付近にある装置を操作しようとして――扉が開いた。


 入ってきたのは、茶髪で白衣を着崩したいかにも軽薄そうな男であった。男はルカの姿を見て、


「ホワッツ? ワークしてるの? ユー?」


 と、意味の分からない言語を発しながらルカの近くに座った。


 思わず、ルカは内心で舌打ちをした。ここまで順調だったのに。


「そんなところです。ところで、あなたは?」


 聞き返すと、男がぴょん、とカエルのように飛び跳ねた。突然の奇行にルカはびくり、と身をこわばらせた。


「オー、マジマジリアリー? 俺のこと知らねーとか、さては、ユー、ネオソルジャーか? なら、俺の自己紹介、ヒウイゴー。俺、ここの所長、アラメ。最高、至高、俺最高」


 リズムよく言葉を発したアラメは両手を斜め上に水平にして固まっている。おそらくは決めポーズなのだろう。そのあまりのキャラの濃さにルカは固まった。そして、遅れて相手が聞き捨てならないことを言ったことに気づいた。


 えっ? ここの所長ってことは……この人がここの最高責任者ってこと!?


 思わずルカは奇天烈なポーズを決めているアラメをまじまじと見た。


 下が下なら上も上、ということだろうか。大丈夫か、ゲオタヤ?


 人材不足にもほどがあるだろう、とルカはゲオタヤを心配した。


「……す、素敵なポーズですね……」


「ユーも」


「へ?」


「ユーも」


 それは有無を言わせぬ力強い目であった。断る、という選択肢はなさそうだった。仕方なくルカはアラメと同じポーズをとった。ぱちぱち、とアラメから賞賛の拍手が送られる。


 なんだろう。人生で一番うれしくない拍手であった。


 おまけに敵の基地に潜入している緊張とは別の意味で、ルカは激しく汗をかいた。アラメはうんうん、と満足したように頷き回転椅子でくるくると回り始める。この男に付き合っていると、時間がいくらあっても足りない。


 ルカはそう判断して、操作パネルをカタカタと操作する。とりあえずは、機械の操作を覚えてアラメがいなくなってから、本格的に制御装置を止めるとしよう。そう決めたところで、アラメがルカに声をかけた。


「そういえば、ユーのネームは何て言うんだ?」


「わたしはエメルと言います」


 とっさに思いついた偽名であった。特に問題はないだろう。


「エメル、ねえ」


 くるくるとアラメは椅子を回転させ、


「――知らない名前だな」


 アラメが銃口を彼女に向けて放つのと、ルカが飛びのくのは同時であった。銃弾をかわしたルカの頬から、血がかすかににじんだ。


「自慢じゃないが、俺はここの職員のネームはオールメモリーしてる。ネオソルジャーの話は聞いていたが、そのネームじゃなかったぜ」


 ルカは歯噛みする。奇天烈な行動で油断した。腐っても、ゲオタヤの幹部ということか。


「ユーはもしかして、湿原でキュクロスからエスケープしたハンターの一人か? ここにリベンジでもしに来たかい」


「そうなら、どうだっていうの!」


 銃撃を放つルカ。狙いはアラメの眉間だ。銃弾は額へまっすぐに飛んでいったが、それがアラメの脳天を撃ち抜くことはなかった。その前にアラメが白衣で自らの顔を覆ったからだ。


 それを見て彼女は目を細める。あの白衣、ただの白衣じゃない。強化された服装のようだ。


「オー、外のヒューマンはバーブレスだね。ここがユーのセメタリーだ。ゆっくりしていきなよ、ヒウイゴー」


 アラメは捨て台詞を吐いて、部屋から出ていく。そして、間もなく耳をつんざくようなサイレンが鳴った。どうやら、完全にここに潜入したことがばれたようだ。もはや、一刻の猶予もない。


 ルカは機械を操作する。そして、現れるパスワードを入力してくださいの文字。またか、とルカは思う。試しにアラメと打ち込んでみるが弾かれる。端末にないか見てみるが、そんな情報はなかった。


 こんなことになるなら、さっきの人に聞いておくんだった、と後悔するが後の祭りだ。どうする、どうする。頭上で響くサイレンが、否応なくルカを焦らせる。うかうかしていると、ここに教団兵がなだれ込んでくるのは明らかだ。


 こうして悩んでいる間にも、時間は一刻一刻と過ぎていく。悩んだ挙句にルカは、思い切り機械を叩いた。


「こうなったら、最終手段をとるしかないようね」


 すう、と息を吐いてルカは銃を構えた。そして、銃弾を放った。ミストクリエイター本体に。一発、二発、三発――なんども絶え間なく放たれる銃撃。やがて、ミストクリエイターが青白い電気を発し、あの重低音が聞こえなくなった。


「これでよし」


 ルカは制御室から急いで出て行った。


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