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凶獣の王(R15版)  作者: ナナシ
第二章 タパパ村の青年
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第79話 潜入 2

「潜入する、だと!?」


「そっ」


 驚いているタチとは対照的に、ルカは何でもないことのように頷いた。


「幸福願望団はゲオタヤとつながっている。人々を騙して人を集めさせて、彼らにお金を渡している。どうしてゲオタヤが人を集めているのかはわからないけど、人を集めていることだけは確か。だから、わたしがその人たちに中に紛れ込んで研究所の場所を突き止める」


 それを聞いたタチは「うーむ」と、顎に手を当てて渋い顔をしている。


「ペタ山に行っても、濃霧のせいで研究所の場所がわからない。でもさ、研究所の連中はその霧をものともせずに研究所の帰ることが出来ている。それなら、何らかの方法で研究所に行く手段があるってこと。だから、彼らが研究所から出て人々を研究所に連れていくタイミングで潜り込む。それしか、方法ないんじゃない?」


「……君の言いたいことはわかる。その方法は我々も考えたことはあるのだ。だが、それは危険だと考えてやめた」


 ゲオタヤの研究所に潜り込む。それは、敵の本拠地で裸で乗り込むことと同義だろう。どれぐらいの兵がいるか、どんな設備があるかわからない。みすみす自らを危険にさらす行為を容認できるわけがないのだ。


 それに、あの研究所には例の鎧型の凶獣がいる。遭遇すれば返り討ちにあうのは火を見るよりも明らかなことといえた。


「危険すぎる、自殺行為だ。君はそれをわかって――」


「もちろん」


 タチの目を真っ向から見据えて、ルカは言った。


「危険は承知の上。でも、これしか方法がないならやるしかないよ。目的を果たすために代償は必要でしょう?」

 

 冗談、を言っているわけではなさそうだ。それはこの少女の目を見ればわかる。だが、同時にタチの中にある種の疑問が生まれていた。


「どうして、君はそこまでする? 君はこのサガトの人間でもないのに」


「約束、したから」


 そう言って、ルカは部屋にいるヤメクの元へ歩いてその頭を撫でた。


「絶対にお父さんを助けてあげるからね」


「ルカさん、あ、危ないこと、する? 駄目、だ、よ」


 潤んだ目でヤメクがルカを見上げている。


 優しい子だ、と思う。父親の身が心配だろうに、自分のことも心配してくれるとは。


「ありがとう。でも、ヤメクちゃんはお父さんを連れ帰ったときのことを考えたほうがいいよ。ふふふふ」


 妖しくルカが笑うと、「ひっ」と怯えた声を上げてトムソンの背後に隠れた。びくびくとした様子で、ヤメクはルカの様子をうかがうように見ている。それを見て、トムソンは苦笑を浮かべた。


「これ、幼子を脅かすでないわ」


「やだな、ちょっとした冗談よ」


 ペロッとルカは舌を出し、トムソンはやれやれと言った風に肩をすくめた。


「ふむ、以前会話した時よりもよくなったようじゃな」


「おかげさまで」


「わしがここで止めても、お主は勝手に行くつもりなのじゃろう」


 やはり、見抜かれていたか。仮にここで引き止められたところで、ルカは勝手に行動するつもりだった。


 もちろん、研究所に行くのはヤメクの父を助けることもだが、理由はそれだけではない。レクスが自分を庇い死んだ。それなら、ルカとして彼にできることはもはや研究所を潰すことしかない。


 生きているとき、レクスはそれを望んでいたのだから。


 できれば、レクスの夢の中で会う人も探してあげたいところではあるが、あいにくとルカは彼女の顔を知らない。なので、それは叶えてあげられないのは残念だった。


「お主が決めたなら、わしは口出しをする気はない。が、必ず生きて帰ってこい。それが条件じゃ」


「わ、わたし、も、です。お父さん、とルカ、さん一緒に帰ってこないといや」


 二人に対して、ルカは強く頷く。彼女としても、こんなところでみすみす死ぬつもりはない。研究所に乗り込んでヤメクの父をサガトへ連れ帰るつもりだ。


「サガトの人間でもない君にこんな危険なことをさせるのは心苦しいが、こちらとしては非常に助かる。礼を言わせてくれ」


 と、タチがルカに頭を下げた。それから、言葉を続ける。


「君が研究所に乗り込んでいる間に、わたしは街のハンターを研究所の周囲に集めておく。それで、霧が晴れたら研究所に突撃する。プランとしては、これで問題はないか?」


「うん、それでいいよ」


 ルカがペタ山にある濃霧を解除する。解除次第、タチたちが研究所になだれ込んで教団兵たちを殲滅する。計画としてはこれでいいはずだ。とはいえ、一番の問題は自分が濃霧をどうにかできるかだ。


 これができなければ、お話にならない。作戦の成否は自分にかかっているといっていいだろう。


 よし、と気合を入れて彼女は幸福願望団の元へ向かった。


 ♢


 階段の前ではルカがのした教団兵が、白目をむいていた。起き上がる気配はない。この様子だと、しばらくは動けないだろう。彼女は教団兵の前で屈んでごそごそと、服を漁った。


 目的のものはすぐに見つかった。


 それは、ぱっと見た感じサングラスに見えた。が、横にあるスイッチを押すとサングラスに文字が浮かび上がった。ルカは思わず、ぐっと手を握る。おそらくこのサングラスがあれば、あの濃霧の中でも視界を遮られることがないのだろう。


 このサングラスを使って、タチたちをさきほど自分たちが連れてこられた時と同じようにロープを使えば一気に教団兵を殲滅できる。


 そうルカが考えていると。


 パスワードを入力してください。


 サングラスから空中に光が投影されて、何やら数字が出現していた。状況から察するにこの数字を打ち込めということなのだろうが、もちろんルカはパスワードなど知るわけもない。


 なので、ひとまず適当に数字を打ち込んでみる。すると、サングラスが赤くなりエラー表示が出た。


 思わず、ルカは頭を抱えた。パスワードを打ち込もうにもそれを知っている人間は目の前で気絶している。まさか、起きるまで待つわけにもいかない。そうなってくると、必然的にとる手段は一つしかなくなってくる。


「あんた、さっきから何してるんだ?」


 男が、ルカに声をかけた。顔を上げると、連れてこられた人たちはみな一様に怪訝な表情を浮かべてルカを見ていた。それは、ここにいる人間なら当然の反応と言えた。彼らは美味い話に乗せられて、ここに来ただけなのだから。


 いきなり、ルカが教団兵をぶちのめすのを見たならば困惑して当然といえた。


「わたしは、ハンターのルカと言います。あなた達を助けにきました」


「それは、どういうことだ?」


「みなさんは幸福願望団の話を聞いて、ここに来たと思いますがあれは嘘です」


 それを聞いて人々にざわめきが広がっていく。ルカは口に手を当てる。騒がれると、教団兵が来てしまうからだ。その考えを察した人々は、押し黙った。


「あれはここにいる人たちを集めるためにあえて、そういうお話を作っただけです。実際はここに入ったら出られなくなります」


「どうして、そう言い切れるんだ。本当にいい話があるかもしれないだろう」


「では、ここへ来てからサガトへ戻ったという人が今までにいますか」


 ルカがそう言うと、人々は考え込むようにして宙を見る。が、やがて、ゆっくりと首を振った。


「そういうことです。そうそうおいしい話は転がってないんです」


「だ、だが、お前の言う話も嘘かもしれないじゃないか!」


 それでも、諦めきれないのか一人の男が叫んだ。


「この得体の知れない場所でどんな目にあうかもわからないのと、ここでサガトへ帰ること。どちらがいいと思いますか?」


 ルカに見つめられて、男はたじろぎ――その場に崩れ落ちるように膝をついた。

 

 心が痛むが、現実を受け入れてもらう他ないだろう。


「これから、わたしはここへ潜入するのでみなさんはわたしの仲間が来るまで濃霧に入らないように隠れてください」


 反抗する人間がいるかと思ったが、もはやそんな気力もないらしく、人々は力のない足取りでとぼとぼと移動した。それを見届けたルカは、教団兵の服をはぎ取ってそれを着る。


 二人の体を木に縛り付けて、ルカは階段の下へと降りていった。

 

 

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