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凶獣の王(R15版)  作者: ナナシ
第二章 タパパ村の青年
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第75話 汚職 2

 ルカの言葉を受けて、タチはぴくり、と表情が動いた。一方で、サカチは全く表情を変えない。おかげで何を考えているか一切読み取れない。何か反応があると思っていたのだが。構わずにルカは話を続けることにする。


「幸福願望団は甘言で人を集めて、その人たちを売り、そのお金であいつらは好き勝手やってる。これはサガトのハンター協会としては取り締まるべきだと思う」


「証拠はあるのー?」


「そんなもの住民の人たちに聞けば、すぐわかるよ。幸福願望団自体を調査するのでもいいと思うけどね」


「んー、なるほどね。君は幸福願望団が人を売ってると言っているが、一体誰に売ってると思っているのー?」


「それは、ゲオタヤでしょうね」


 淡々と、ルカは言った。


 幸福願望団のアジトへ行ったときに、あの男はルカの脅しに屈しなかった。それどころか、死ぬよりも怖いことがあると言った。あの男の言動を考えると、死ぬことよりも怖いことを与える人間がいると考えられる。


 人を買い十分な資金を与えることを考えると背後に巨大な組織がいることはずだ。そんなことができる組織といえば、ゲオタヤしか考えられない。


 幸福願望団は人をゲオタヤに売って、お金を得ている。それは筋書きとしてはありえないことではないように思えた。そして、きっと、いや、必ずゲオタヤの研究所がこの件に関わっているはずだ。


「んー、ほうほうなるほどねー。面白いことを考えるね、君。創作としてはだけど、ね。でも、証拠も何もない憶測でしょ?」


「だから、幸福願望団を調べればゲオタヤにつながるのよ」


「んー、でも証拠がねー」


「何度も言わせないで。そんなのは住民に聞けばいくらでも――」


 ルカはその先の言葉が出てこなかった。


 なぜなら、サカチは手を組み合わせてルカの顔を見ながら、口を醜くゆがめていたからだ。それはまるで無知な人間を馬鹿にするかのように思えて。


 そこで、ルカはある一つの考えがよぎった。まさか――


「あなた、もしかして知ってて()()()()()()?」


 それを聞いたサカチは、にちゃあ、と口を大きくゆがませた。


 その表情を見て、ルカは自分の考えた最悪の想像が的中してしまったことを悟った。


「正気? 街の人がさらわれて、殺されているかもしれないんだよ? ハンター協会としては、街の人を守るために活動をするべきでしょう?」


「街の人? いやあー、街の人は一人もさらわれてないよ」


 サカチの言っていることの意味が理解できずに、ルカは眉根を寄せる。


「サガトに住む人ってのはさ、ちゃんと生活している一般の人のことなんだよねー。だから、貧民はそれには含まれないわけー」


 ルカは絶句する。本気で言っているのだろうか。そう思うが、サカチはそんなルカを面白い玩具を見るかのように笑っている。


「貧民の奴らはさー、汚い格好して臭いし、ろくに働かず文句ばかり言うんだよ。君も街の人が悪口言ってるの聞いたことない?」


 サカチに言われて、ルカは酒場の男のことを思い出した。確かにあの男も貧民の人のことを悪く言っていた。それに、ヤメクが助けを求めても街の人は誰も耳を貸さなかった。しかし、だからといって。


「見殺しにしていい理由にはならないよ。あなたはゲオタヤと幸福願望団がかかわりを持っていることを知っている。それを見ないふりをしているなら、それは間接的には人を殺してることになる」


「それのなにがいけないの?」


 小首をかしげるその仕草はまるで幼子のようですらあった。それはまるで本当にわからないとでもいうかのような挙動だ。


「幸福願望団が貧民をさらって、街の景観をよくする。それで、お金を得る。その得たお金を幸福願望団はサガトで使うことによって、お金を回ってるでしょう? ゲオタヤとサガト、ウィンウィンな関係だね」


 サカチはダブルピースをしている。その様子は実に楽しげだ。


「それにさー、ゲオタヤに喧嘩売るなんて馬鹿の極致でしょ? 相手、世界最強の国だよ。わざわざ貧民ごときのために、リスクを冒すのは愚か者のすることだよー。ぼくちゃんは賢いからそんなことはしないの」


「あなた、人の命を何だと思ってるの?」


「貧民はゴミ以下」


 迷わず、サカチは言い放った。


「ゲオタヤは清掃人だよ。このサガトを綺麗にしてくれる。しかも、仕事をしてお金までくれる。まさに天使だよー、あはは」


 サカチはにこやかに耳障りな高笑いを上げている。


 誤算、だった。


 ルカとしては、ここの協会で自分に協力してくれるハンターを集めるつもりでいた。ゲオタヤの研究所を潰すのが目的ならば、ルカひとりでは不可能だからだ。よって、協会の協力を得てハンターを収集してから研究所を襲撃するつもりだった。


 が、サカチはルカに協力するつもりは一切ないだろう。仮にルカがハンターを集めようとしても、協会長であるサカチが圧力をかければ人では集まらない可能性が高い。どうすればいいのだろう。


 ルカは力強くこぶしを握る。


 まさか、ハンター協会がこんなにも腐敗しているとは思いもしなかった。これではレクスのために研究所を潰すことはできないばかりか、ヤメクの父親を助けることもできないかもしれない。


 この状況を打開するにはどうしたらいい。


 そんなルカを見てサカチは手を組み合わせて、にやにやと笑っている。


「いやー、無駄足だったねー。ぼくちゃんの協力が得られなくて残念だったねー。あ、でもさ、君」


 そこでサカチは何かに気づいたようにぽん、と手を叩いた。


「いろいろと君、知りすぎてるよねー。正直、邪魔」


 ぱちん、とサカチが指を鳴らす。すると、扉を開けて入ってきたのは十を超える男女であった。


「邪魔な虫は処分しとかないとね」


 そう言って、サカチは部屋中に響くほどの哄笑を上げた。

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