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凶獣の王(R15版)  作者: ナナシ
第二章 タパパ村の青年
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第74話 汚職

 サガトにある建物の一室。空調の効いた部屋に、男が三人いた。男二人と、男一人がテーブルで向かい合う形で座っている。どことなく部屋には緊張した雰囲気が漂っていた。肌寒いのは空調のせいだけないだろう。男たちの表情はどこか硬かった。


「本当によろしいのですね、トムソンさん」


 相手の顔色を窺うように尋ねる男に、トムソンは硬い雰囲気の中で優雅に頷いた。ほほ笑みすらたたえながら。


「失敗すれば、とんでもないことになりますよ。下手をすれば、サガトは――」


「かといって、このままというわけにもいくまい。いずれは、やらなければならないことじゃ」


 トムソンの言葉に、男は押し黙った。


「問題の一つは、こ奴がいるから大丈夫じゃろう。のう?」


 冗談交じりにトムソンが隣にいる男を肘でつつくと、男はひどくあいまいな笑みを浮かべて、へりくだる様に頭を下げている。男の顔は気の毒になるほど青ざめて土気色をしており、まるで死人のようだ。


「そちらはわたしも心配はしておりません。ただ、大きな問題の方が……」


「皆の力を信じるしかあるまい、こればかりは、な」


 そう言って、トムソンは立ち上がった。


「どちらへ?」


「少しばかり、野暮用じゃよ」


 トムソンは手を上げて、部屋から出て行った。


 ♢


「うー」


 ヤメクはうなり声をあげて、室内を歩き回っていた。今まで生きてきてこういった部屋に泊まったことは、数えるほどしかない。おまけに、こんな豪華な部屋をきては、とても落ち着くことなどできなかった。


 が、それよりもそれ以上に気がかりなことがヤメクにはあった。


「おとう、さん……」


 ヤメクにとってたった一人の家族。いつも一緒にいて、落ち着ける人。その人がいない。二日も。もし、このまま会えなかったら。


 最悪の想像が頭をよぎり、ヤメクは頭をかきむしる。


 嫌だ、嫌だ。嫌だ。


 目に涙がにじむ。こんなところで待っているだけでいいのか。自分でできることをしないといけないのではないか。父を失うのではないかという、不安がヤメクの胸中を満たしていく。


 探さないと。


 ヤメクは部屋を出ようとして――ここで待っててね。ルカに言われた言葉を思い出した。


「う、うー」


 頭を抱えるヤメク。ルカの言う通りにしていた方がいいのだろうか。いや、しかしお父さんのことが心配だ。でも、正直ルカは怖い。親切な人だと思うが、自分を怖い目にあわせるといった。もし、約束をたがえればひどい目にあわされるのではないか。そう考えると、躊躇してしまう。

 

 さんざん悩んだ挙句、ヤメクは決めた。


 お父さんを、探しにいく。


 たとえ、怖くても自分のお父さんは自分で探さないと。そう決めたヤメクは扉に手をかけて――ドアノブが一人で回った。扉を開けて立っていたのは、見知らぬ男であった。


 知らない人だ。


 ヤメクは後ずさり、かたかたと震えた。その様子を見て、男は笑みを浮かべた。


 ♢


「ここだね」


 ルカは目の前にある建物を見上げて、そうつぶやいた。その建物は他の建物と比較して、ひと際大きかった。外観が磨き上げられており、清掃が行き届いている。


 ハンター協会は、凶獣の退治の他にも魔核の換金業務なども行っている。適応者や適応器を持たない人々は、一般的にハンターに頼らなければ凶獣の脅威に対処できない。しかも、協会は魔核の換金業務も行っているために頻繁にお金が流れる。


 要するに儲かっているのだ、ハンター協会は。


 人々を助けることでお金を得ているので、それ自体は社会貢献を兼ねているので批判されることではないのだが、あまりにもお金を儲けているので毛嫌いする人も多い。


 そんな協会の中へルカは入る。床は自分の顔が映るほどに磨かれており、彼女を見た受付嬢がにっこりと営業スマイルを浮かべた。その受付嬢に協会長に会いたい旨を伝える。渋い表情を浮かべる受付嬢であったが、ルカの胸元に下げられているペンダントを見たとたんに、表情を変えた。


 受話器を取り出して、何やら話をしている。それが三十秒ほど続いただろうか。


「どうぞ」


 そう言ってルカは受付嬢に協会長室へと案内される。通常であれば、会うのに予約が必要なのだが、階級が上のクラスになるとある程度融通が利く。


 協会室の扉を受付嬢が、開けた。目に飛び込んできた光景を見た瞬間、ルカは思わず目を細めた。


 部屋の広さは、幸福願望団の部屋の三倍はあった。机と椅子、観葉植物などが置いてある。それ自体は、別に目を引くものではない。


 問題なのは、部屋のすべてが金色なことだ。机、椅子、床、すべてが金色に輝いている部屋はルカも初めてだ。第一印象としては、とても悪趣味だ、と思った。ぴかぴかと黄金色の輝くこの部屋は、いるだけで目が痛くなる。


 すでにルカはここから帰りたい気持ちでいっぱいだった。この部屋の装飾を見るだけで、いかにここの会長が自己顕示欲が強い人間だということを証明しているように思えた。


「どうだね、この部屋は。素晴らしいだろう」


 男の高い声が奥から聞こえた。自己愛が強いナルシストを想起させる声だ。くるり、と部屋の最奥に座る男は金ぴかの椅子を回転させてルカの方を見た。その姿を見て、思わずルカは目を丸くした。


 なんと着ている服も金色であった。ぴかぴかと輝くバスローブ風の服を着た男は、口に葉巻を加えている。さすがに葉巻は金ぴかではなかった。サングラスをかけた男の頭髪は禿げ上がっており、顔は蛙に似ていた。金ぴか男の隣には、顔が髭に覆われた男が立っていた。


 胸には黄色のペンダントが下げられていることから、この男はルカと同じく同業者なのだろう。


「んー、ぼくちゃんはここの協会長であるサカチ。で、こっちの男がタチだ。さて、ぼくちゃんは大変忙しいのだが、わざわざ黒階級のハンターが会いたいというので時間を割いてやっている。なんの用かな?」


 ひどくねばつく声だ。男がふざけて女の声を出しているのかと思えるほど、耳障りな声。ふざけているのか、と思うがきっと本人にはそういうつもりはないのだろう。そんなことを考えていることなど一切表情に出さずに、ルカは開口一番こういった。


「幸福願望団を潰してください」

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