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凶獣の王(R15版)  作者: ナナシ
第二章 タパパ村の青年
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第73話 協会

 突然の来訪者にぽかんとしていた幸福願望団の団員達であったが、やがて、はっと我に返った。


「悪いが、あんた俺たちに会う予約はとったかい? ないなら帰りな」

 

 団員の男がしっしっ、と虫でも払うかのように言った。それに対して、ルカは表情を変えずに言い返す。


「もし、言うことを聞かなかったら、どうなるの?」


 そのルカの言葉に目を丸くした団員は、口をゆがめて立ち上がる。手の骨をぽきぽきと鳴らしながら、ゆっくりとルカに近づいていく。


「物の道理がわからない奴には、少々痛い目を見てもらわないといけないな」


 団員たちは剣呑な雰囲気を発している。嗜虐性をたたえた笑みを浮かべる、男にルカは銃を撃った。男は白目をむいて、ばたり、と倒れた。倒れた男の姿を見て、唖然とする団員達。そして、突如怒号を上げた。


 ルカにつかみかかろうとする団員たちに向けて、ルカは二挺の拳銃を放った。常人には反応すらできなかっただろう。

 

 全員が眉間を撃ち抜かれて、白目をむいて倒れている。力を加減したので、殺してはいない。それは一秒にも満たない時間であった。団員が倒れたのを見て、細目の男がくつくつと笑い声を上げた。


「ずいぶんと余裕じゃない? もう、あなたひとりだよ」


「いや、失礼。あまりにも見事なものだったんでね。見惚れてしまったよ、腕の立つハンターのようだな」


 細目の男は感嘆するように表情をほころばせている。ルカはその男の顔を見て、はっとした。トムソンを介抱したときに、じっとトムソンを見ていた男だ。この男は幸福願望団の人間だったのか。向こうも、ルカに気づいたようだった。


「お前はあのときの娘か。奇遇だな、こんなところで会うとは。どうだ、再会を祝して乾杯は」


 にやり、とねばついた笑みを浮かべる男の言葉を無視して、ルカは男の額に銃を構えた。そのとき、男の胸に白色のペンダントが見えた。


「あなた、ハンター崩れ?」


 ハンター崩れとは、ハンターをやめて犯罪に加担する者たちのことだ。凶獣との闘いで命を懸けるのが嫌になったもの、けがをしたもの、理由は様々だがハンターをやめて、その力を悪用する者たちである。


 崩れとはいえメリトであるために、その力をもって人々に迷惑をかける輩が多い。ゆえに、ルカのような通常のハンターからは嫌われている。


「凶獣と命をとりあうなんて、ばかばかしくてね。もっと楽に稼げる方法があればそちらに鞍替えするのが、賢明な人間というものだろう?」


「そう、いずれあなたは協会に突き出すとして、今はいい。それよりも、聞きたいことがある。あなたが集めた人間の中に、娘がいる人はいない?」


 ルカの問いに細目の男は視線を宙に漂わせ――やがて、思い出したとでもいうかのように頷いた。


「いたな、一人。娘に楽をさせてやるんだー、とかこれで生活が楽になるとかバカみたいな絵空事を言っていた男が」


「その人は、どこにいった」


「さあて、どこへ行ったかな。もう黄泉の川を渡ったかもしれないな」


 ぐり、とルカは男の額に乱暴に銃を押し当てる。


「話しなさい。でないと、あなたの頭を吹き飛ばす」


「できるか、小娘のお前に?」


「あまり侮らないほうがいいよ。これでも荒事は慣れてるんだから」


 ルカは目に殺気を込めた。そんなルカの目を見て、男はやれやれというように両手を上げた。


「怖い娘さんだ。わかったよ」

 

 男は観念したように首を振って、口を動かそうとして――突如、立ち上がってルカの銃を握った。


「喋るとでも思ったか?」


 男の目はどこか常軌を逸しているように見えた。とてもまともとは思えない。そもそもまともな人間はこんな行動をとらないはずだ。


「もしかして、甘く見てる。わたしは本当に――」


「やってみろ」


 男は凄み、ルカを睨む。実力はルカが完全に男を上回っている。引き金を引けば、ルカは男を殺せる。それでも、ルカは気圧された。男の迫力に。


「怖く、ないの? 死ぬことが」


「怖いさ。だが、銃に頭を撃たれて死ぬだけならまだマシだ。死ぬより恐ろしい目にあうよりはな」


 一歩、男はルカに向けて歩いた。銃を額に当てられた状態で、だ。男はルカが自分を殺さない、と思っている様子ではない。本当に自分が死ぬつもりで、ルカに迫っている。そこには、男の強靭な意志が介在しているように思えた。


 駄目だ、この男は本当にしゃべらない。


 おそらくルカが男を痛めつけようが、決してこの男は口を割らないだろう。それだけの異常さを、ルカはこの男から感じ取っていた。


 溜息をついて、ルカは男から銃を引いた。男の方は特に安堵の表情を浮かべることもなく、淡々としている。


「冷静だな、俺が決して話さないと判断したか。さすがは黒階級のハンター、なかなかの判断力を持っている」


「褒めてくれて、どうも」


 くるり、とルカは男に向けて背を向けた。ここに来れば、何かがわかると思っていた。が、とんだ無駄足だったのかもしれない。力は完全に上だったにもかかわらず、ルカ自身は敗北感を覚えていた。そんな思いに囚われつつ、部屋から出ていこうとしたところでルカは振り返った。


「あなたのことは、ハンター協会に伝えさせてもらう。叩けばいくらでもホコリが出てきそうだからね」


「好きにしろ」


 ふん、と男は鼻で笑う。


「あなたが捕まれば他の仲間も芋づる式に捕まるでしょうし、幸福願望団の仕事もできなくなる。そうなったら、困るんじゃない?」


 それを聞いた男は、くくく、と口をゆがめて笑っている。まるでおかしなことでも聞いたかというように。腑に落ちない態度にルカは眉をひそめて、男を見る。やがて、男は言った。


「そうはならんよ」


 男は自信ありげに言った。その言葉の意味が分からずに、ルカは首をかしげる。


「どういう意味?」


「さて、な。協会に行ってみればわかるんじゃないか?」


 口をゆがめて、男は笑っている。何やら不気味なものを感じたが、これ以上聞いても無駄だと判断してルカは今度こそ部屋を出た。


 幸福願望団の建物を出る際に、ルカの脳裏には男の笑いが浮かんでいた。

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