第66話 最強のハンター?
レクスとルカは声がした方へと振り向く。
そこに立っていたのは二人組の男であった。頭髪の中央部分以外は毛がなく、ニワトリのトサカに見える。いわゆるモヒカンヘアーという奴だろう。髪の毛の色は赤と緑で、二人ともレクスよりも頭一つ分は背が高い。
上半身は服を着ていないが、肩には何やらトゲがついたショルダーパッドを装着している。腕の筋肉などは成人男性の太ももぐらいあり、屈強な体格をしている。
レクスたちとの距離は十メートルほどであろうか。声をかけた男たちは不敵な笑みを浮かべて、腕を組むのみ。レクスたちを呼び止めてからは、言葉を発しない。
呆気にとられるレクスであったが、そろそろこの人たちの正体を聞かないとと思ったところで、
「俺はゴバ!!」
急に叫んだので、レクスはびくり、と身を震わせた。
「俺はリン!!」
もう一人の男が同じぐらいの声量で叫ぶ。ルカの目は点になっている。
「最強無敵のハンター、ゴバリン兄弟推参!!!」
ゴバはYのポーズをとり、リンはAのポーズをとっている。幻か幻聴の類であろうか。二人がポーズを決めた瞬間、レクスは二人の背後で火柱が上がり、その爆発音が聞こえた気がした。
ヒュー、と風が吹く。レクスとルカの顔からは感情が抜け落ちていた。無表情でゴバリン兄弟を見ている。対する兄弟はとてもいい笑顔でレクスたちを見ていた。
「…………えっと、ルカの知り合い?」
「違うよ、レクス。それはさすがにわたしを侮辱してるよ?」
「でも、ハンターって……」
兄弟の胸には黄色のペンダントがあった。ルカが話していた通りなら、この二人はハンターなのだろう。しかし、一体自分たちに何の用があるのだろうか。
「すいません、俺たちに何か御用でしょうか?」
お辞儀をしてから、レクスはゴバリン兄弟へ話しかけた。
「よくぞ聞いた!!」
くわっ、と目を見開き叫ぶゴバ。再び、のけぞるレクス。無駄に声がでかいので、大変、心臓に悪い兄弟だ。
「俺たちはこのコナリ砂丘にて奉仕活動をしている。見ろ、これを」
ゴバが手を出すと、リンが何かを置く。それは何かの容器だろうか、ゴミのように見えた。
「この砂丘にゴミを捨てる輩がいる。このような景観を損なう行為を俺たちは許せない。なので、こうしてこの砂丘の景観を守るために俺たちは日々、奉仕活動をしているのだ。だが!!」
そこで大きく目を見開くゴバの話の続きをリンが引き継ぐ。
「俺たちは人々を守るためのハンター。ひまではない。ゆえに、ここを通る者たちから物品を徴収している。なおこれらは慈善活動の一環として――」
「要するにここを通る人からお金をふんだくってるコソ泥ってことね。ばかばかしい、時間を無駄にした。さあ、行きましょう、って、レクス!?」
ルカが素っ頓狂な声を上げた。というのも、レクスは収集した魔核をゴバリン兄弟へと渡そうとしていたのだ。
「なっ、なにしてんの、レクス!? 正気、気は確か?」
「えっ、だってこの人たちは自然を守るために活動してるんでしょ? 俺も自然はすごい好きだから、気持ちはわかるんだ。だから、これで活動の足しになればいいかなって……」
「そんなのこいつらの嘘に決まってるじゃない。見るからにあやしい奴らなのに」
「見た目で判断したらいけないって、じいちゃんとばあちゃんが言ってた。あっ、ところでルカ、あれは何?」
レクスが指さす方向には箱型の機械があった。それには四つの車輪がついている。
「あれは魔動車ね。人が乗る機械よ」
その説明を聞いて、レクスは目を輝かせた。
「あれ、ほしい! あれに乗れば旅も楽になるんじゃない?」
「あのね、レクス。魔動車はそんなにいいものじゃないの。本体の値段は高いし、動かすのに大量の魔核が必要になるし、持ってるのはよほどの金持ちか、趣味に走る人かのどちらか……そっか」
ルカは合点がいったというように頷く。
「あなたたち、その魔動車を動かすのにお金が必要だから盗人してるんでしょう?」
その言葉に、ゴバリン兄弟はびくん、と体を震わせた。
「なるほど、この砂丘に近づくなっていうのもあなたたちがいるからってことね。ちょっとばかり、おいたが過ぎたみたいね。懲らしめてあげましょう、レクス」
「信じてたのに……。俺をだましたんだね。悪さをしないように痛い目を見てもらうよ」
レクスとルカはゴバリン兄弟に向けて、戦闘態勢をとる。ゴバリン兄弟はわなわなと体を震わせて――ぴかっ、と目を光らせた。
「俺たちを愚弄しおって、許せん! 罰を受けるのはお前たちだ。受けてみよ、わが最終奥義を!」
リンはそういうや否や、全身に力を入れる。みるみるうちに体中の筋肉が膨れ上がり、体格が二倍以上へと膨張している。すさまじい気迫だ。顔には血管が浮いていた。何か攻撃をしてくる気だ。
阻止しようとして、レクスは動きを止めた。もしかしたら、キュクロスのように攻撃を吸収されるかもしれない。そんな考えが頭をよぎり、その判断の迷いが致命的だった。
「はあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
リンは右腕を高く上げて、膨れ上がった筋肉と共にその力を砂地へと叩きつけた。激しい衝撃と共に、砂が天高く舞い上がる。砂地には大きな穴が出来ていた。がくり、と元の体型に戻ったリンは砂地へと仰向けに倒れた。心なしか、体が白くなっているように見えた。
「この技は俺の……全力と引き換え……。もう、動けない。後は頼む、兄者……」
ばたり、と力を失ったようにうなだれるリン。それを抱えてゴバは叫んだ。
「リンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン!!」
目に涙を浮かべてリンの体を抱き上げるゴバ。
そのある意味壮絶な光景を見てレクスとルカの感情は完全に消失していた。
「………………レクス、やっぱり放置して帰ろうか」
ひどく疲れた声でルカが言った。その言葉に同意しかけるレクスは、それを振り払うかのように首を振る。
「駄目だよ、ルカ。困ってる人たちがいるんだから、助けてあげないと」
「えー、もうわたし、疲れたんだよー」
ルカは不満の声を上げて、がっくりと肩を落とす。気持ちは理解できるのだが、放置するわけにもいかないだろう。
そんなレクスたちにゴバは鋭い視線を向けた。
「許さんぞ、貴様ら。俺の怒りを思い知るがいい!!」
ゴバが憤怒の形相を浮かべたときだ。砂地が大きく揺れた。あまりの揺れの大きさにレクスとルカもバランスを崩す。揺れが収まってから、ルカは大仰に溜息をついた。
「あのさー、妙な攻撃はやめてほしんだけど」
「俺は何もしてないぞ」
「はあ? あなた以外に誰がこんな芸当するの」
じろり、と睨むルカに対してゴバは困惑している。あの様子だと、本当に今の揺れはゴバのせいではないのかもしれない。なら、今の揺れは――また、揺れた。今度はさっきよりも大きい。
そして、レクスはそれを見た。
砂が盛り上がり、やけに生物的な丸い物体が出てきていた。物体はレクスを見て、一瞬だけ、皮が覆い、また元の状態に戻った。
もしかして、これは目なのか。
しかし、そうだとすれば大きさが異常ではなかろうか。なぜなら、レクスの考えていることが正しいとすれば、それは――突拍子もない考えだった。が、その考えが間違いではないとレクスの本能が警鐘を鳴らしている。
「ルカ!」
レクスは慌ててルカの手を握る。ルカはきょとんとした表情でレクスを見ている。それから間もなくであった。砂地が異常に盛り上がっていく。大量の砂が宙を舞い、視界が見えなくなる。レクスとルカは砂が目に入らないように手で押さえる。
やがて、砂塵がなくなったタイミングでレクスは手をどけた。視界が徐々に鮮明になり、レクスはそれを見て息を呑んだ。
「どうしたの、レク――」
ルカもその存在に気づいたのだろう。目を大きく見開き、言葉を失う。
それは全長五十メートルはあるまるで鎧のような固い鱗に覆われた竜、であった。おとぎ話とされ、空想上の生物とされている竜。その存在が圧倒的な存在感を持って、レクスの目の前にいる。
「こいつは、やばいぜ! あばよ、今日は勘弁してやる!」
ゴバは倒れたリンを魔動車に乗せて、全速力で離脱していく。それを見てルカが非難の声を上げた。
「あーっ! あいつら、逃げたよ! 向こうから仕掛けてきたのに!」
ルカはゴバリン兄弟の去っていた方角を恨みがましい目で見ていたが、さっと思考を切り替える。
その竜の姿を彼女は信じられない思いで見ていた。おとぎ話だとばかり思っていた神話上の存在が目の前に存在しているのだから。かつて凶獣を率いていた四体の王種。そのうちの一体。
「わたしたちも、さっさと逃げるよレクス。多分、こいつ赤い竜だからウェスタだ。本物の王種かどうかは知らないけど、手に負える相手じゃない」
「……無理かもしれない」
「え?」
ウェスナの目は、ずっとレクスを見ている。完全に自分たちの存在を認識している。レクスを見ていたウェスナは右手を宙に掲げた。すると、十メートルはある巨大な十字架をした炎が宙から何本も降ってきた。それは砂地へ刺さると、燃え広がりウェスナの周囲百メートルを覆った。
「逃がしてくれる気はないみたい」
レクスとルカは灼熱の檻に閉じ込められた。




