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凶獣の王(R15版)  作者: ナナシ
第二章 タパパ村の青年
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第55話 お泊り

 アラメは回転イスに座り、椅子を回転させて歌っていた。こんな辺境に追いやられた自分ではあるが、むしろアラメにとっては好都合であった。何よりも仕事がない。


 それは教団から無能の烙印を押されたに等しいことであるが、アラメにとっては何のダメージもなかった。もとより、教団への忠誠心などほとんどない。重要なのはいかに楽をして生きるか、その一点である。もっとも、そういう性格を見抜かれたらこそ、こんな辺境に飛ばされたことを彼は考えももしていない。


「失礼します」


 教団兵が扉から入ってきた。が、アラメは特に椅子の回転を止めることなくそのまま回り続ける。


「ユー、報告したいことがありそうな顔をしてるぜ。そのお前の情熱、俺にぶつけてみろよ、ヒウイゴー」


「はい。カルハ山に逃げた凶獣ですが、倒されました」


 アラメは椅子の動きを止めた。


「マジで? やられたっての、あいつら? なんてこったい、インヘブン。だれだれだれがやったの、ミートインパイレーツ」


「ここ数日、カルハ山に妙な女が目撃されています。おそらく、その女かと」


「足取りはわかっているのかい、ボーイズラブ」


「どうにも、タパパ村という村へ向かったようです」


「耳からウォーター。聞いたことがないぜ、そんな村。ん、そういや、あの辺の凶獣の数って減ってねえかい、ガール?」


「ええ。あの辺りの凶獣の数は減少しています。もしかすると、村にメリトか適応者がいるのかもしれません」


「オーケイ。村に兵士を差し向けな、パンサー。オールイン村人殺し。材料手に入れて、俺たちウッハウッハ。最高、至高、俺最高」


「わかりました」


 教団兵は頭を下げて、部屋から出た。そして、深いため息を吐く。


「もっと、まともな上司がよかったな……」


 教団兵はぽつり、とつぶやいた。


 ♢


「さあ、じゃんじゃん食べてねー」


 テーブルには皿が落ちそうなほど、料理が並べられていた。どうやらエダは相当気合を入れて作ったらしい。


 あの後、レクスとルカはタパパ村へとやってきていた。家に入るなり、オガとエダは目を丸くしていた。事情を説明すると、二人は快くルカを迎えた。


 ルカの方もまんざらでもないらしく、オガとエダ、二人と楽しく話をしている。


「この子ったら、浮いた話が全然ないのよ、どうルカちゃん。この子は?」


「そうですね、とてもいいと思います。結婚したら素敵なおじさまとおばさまと暮らせますからね」


「はっはっはっ! なかなか、口がうまいな君は!」


 話ははずみ、食事を終えたレクスとルカはレクスの部屋へ移動した。


「優しくていい人たちだね」


「俺を育ててくれた人たちだから、気に入ってもらえたようで何よりだよ」


 ルカはそう言って、壁に背中を預ける。


「いいよ、ルカはベッドで寝なよ。俺が床で寝る」


「ここまでしてもらって、そういうわけにはいかないよ。それとも、一緒に寝る?」

 

 いたずらをする子供のような表情でルカが言うと、レクスは目を逸らす。


「そういうのは、ちょっと……」


「あはは、一緒に寝るのは恥ずかしいんだ」

 

 けらけらと、ルカが笑う。


「ルカは、今まで野宿だったんだろ。いろいろと神経はって疲れてるんじゃない? 俺はそんなに疲れてないから、遠慮しないでいいよ」


 レクスがそう言うと、ルカはまじまじとレクスを見る。


「な、なに?」


「優しい人だね、君は。そんなに言うなら、寝させてもらおうかな。このまま意地張られても困るだろうから」


 今度はレクスが壁に背中を預けて、ルカがベッドに座る。


「はは、久しぶりだなー。ちゃんと寝るのは」


「ルカはさ、何の仕事してる人? ただの人じゃないよね」


「わたしはハンターで凶獣の魔核を売ったりしてるよ。ランクの高い凶獣を倒すと旅には全然困らないぐらい稼げるからね」


「ランク? 凶獣にランクがあるの?」


「うん、上からS、A、B、C、て危険度によって決められてるんだ。Sは会ったことないかな、わたしも。Bランクぐらいなら一人で倒せるけど」


「すごいね。ちなみにこの辺の凶獣はランクは何になるの?」


「ここら辺はCじゃない。Cでも普通の人からしたら、そうとう厄介だけどね」


 タパパ村周辺の凶獣はCランクなのか。レクスはこの辺の凶獣なら楽に倒せるが、それ以上となるとわからない。となれば、ルカは相当な使い手ということになる。レクスは気になっていたことを、ルカに聞くことにした。


「ルカも俺と同じで不思議な能力が使えるんだよね?」


「不思議な能力?」


 ルカは眉をひそめて、レクスの顔をじろじろと見た。


「レクスって、適応者? へー、珍しいね。わたし、初めて会ったよ」


「ごめん、その適応者っていうのは?」


 レクスが聞くと、ルカは腕を上げた。その腕には手首に銀色のアクセサリーが巻かれている。


「わたしみたいな能力のない普通の人は、この適応器で能力をあつかえるようになるんだ。で、君は適応器なしで能力を扱えるから、そういう人は適応者って呼んでいるの」


「そうなんだ。さっき、山でルカが凶獣を燃やしたのも能力の一種なのかい?」


「そう。わたしは銃弾を創る能力を持ってるからね」


 ルカが手を広げる。ぱっと光ったと思ったら、そこには銃弾があった。


「すごい、手品みたいだ!」


「そんなに驚いてくれると、うれしいな。いろいろとこの能力には汎用性があってね。おかげで助かってる」


「ハンターってことは、ルカはこの世界を回ってるってことだよね。もっと、いろいろ話を聞かせてほしい」


 レクスが話をねだると、ルカは嬉々として自分が経験したいろいろな話を聞かせてくれた。中でも、レクスが興味を抱いたのは凶獣の王と呼ばれる存在だ。


 はるか昔に存在したとされる四種の凶獣。


 プロセルピナ、ウルカヌス、ケレース、ウェスタ。


 その大きさは天にも迫る大きさで、強大な力を持ち、竜と呼ばれていたという。


「見てみたいなあ」


 目を輝かすレクスをルカがたしなめる。


「もうずっと前の話だから、きっと色々と脚色が加えられてるだろうね。わたしは話の尾ひれがついた、空想上の存在だと思うよ」


「夢がないな、ルカは。いると信じてたら会えるかもしれないじゃないか」


「レクスはロマンチストだね。ねえ、わたしの話面白かった?」


「聞いてて楽しかったよ。もっと聞きたいぐらい。世界って広いんだね」


「ならさ、わたしと一緒に旅してみない?」


 レクスは目を瞬かせた。冗談を言っているかと思ったが、思いのほかルカの目は真剣だった。


「君ぐらいの歳だと、村から出たいんじゃない? わたしも住んでいるところ田舎だったから、出たかったんだよね。適応者だから腕が立ちそうだし、君が見たい景色をわたしが見せてあげられると思うんだけど、どうかな?」


 しばしレクスは逡巡し、首を振った。


「そっか。おじさんとおばさんを置いてくのも、気が引けそうだもんね」


 ルカは断られたことなど、気にした様子もない。


 そのあとも、話をしてから二人は横になった。


 部屋が暗くなってから、レクスは天井を見ながら考える。


 ルカの誘い、断ったが心を動かされたのも事実だ。ルカの話は大変興味深かったし、いろいろな世界を見て回りたい気持ちも確かにある。だが、レクスが村を出れば凶獣を退治する人間がいなくなってしまう。凶獣の数は少ないが、危険なことは事実である。そう考えると、レクスは村を出てしまうことに躊躇してしまう。


 だから、自分のした選択は正しい、はずだ。そうは思うのだが――レクスの脳裏に夢で見る女性がよぎる。顔も名前も知らない女の人。だが、すごく気になる人。


 もし、自分がルカと旅をしていたらあの人に会えるのだろうか。


 まどろんでいく意識の中で、レクスはそんなことを考えていた。

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