表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凶獣の王(R15版)  作者: ナナシ
第二章 タパパ村の青年
52/117

第51話 タパパ村

「悪い、逃がした! 頼む、レクス!」


 男が叫ぶ。男の脇をすり抜けるようにして、一匹のシカが走る。そのシカの前に立つは一人の青年――レクスは、大剣を構える。その剣は成人の背丈ぐらいの大きさがあった。

 

 シカがレクスに迫ってきていた。どうやら興奮しているらしく、レクスをよけようともしない。レクスとシカが接触する、というタイミングでレクスは大剣を片手で軽々と持ち上げて、振るった。


 シカの首が飛び、行き場をなくした胴体が倒れた。それを見届けて、レクスは大剣をぶん、と振った。とんだ血が生えていた草の色を赤に染める。


 拍手をして、調子のいい笑顔を浮かべる男。


「いやあ、やっぱりすげえわ、お前」


「ウキ、今、わざと逃がさなかった?」


「えへ、ばれちゃった」


 舌をぺろっと出して笑うウキに、レクスは苦笑した。


 ウキはレクスと同じ十八歳の若者だ。同い年なので、よく狩りに同行するのだがよくさぼる。本来なら怒ってしかるべきなのだが、そこは彼の愛想がいいのかどうにも憎めない男であった。


「まったく、この獲物を運ぶのは手伝ってね」


「わかってますって、隊長!」


 びしり、とレクスに敬礼をするウキを見て、レクスは調子いいなあ、と思う。木で作った四輪車にシカの死体を乗せていたときであった。


 レクスは急に茂みを見た。それを不審に思ったウキが、声をかけた。


「どうした、レクス? 怖い顔して」


「ウキ、静かにして。囲まれてる」


「囲まれてるって、何に?」


「――来るよ」


 がさり、と茂みを揺らして姿を現したのは白い毛皮をした生物であった。大きさは人の膝ぐらい、後ろ脚が発達しているのか、太く、横長の耳が特徴的だ。ウサギに酷似している。が、一つ違うのはその獰猛な赤い瞳だ。まるで人を殺さんばかりに見つめる瞳はあの生物しかいない。


「凶獣だあああああああ!」


 ウキが錯乱したように叫んだ。


「俺の後ろに隠れてて!」


 レクスはウキに言い含めて、ウキを守るように前に立つ。数は三匹。凶獣は低いうなり声をあげて、いきなりレクスに飛びかかってきた。凶獣が口をあげて、牙がレクスの喉笛を食いちぎらんとしている。そのスピードは速く、まるで矢のようだ。常人ならば、気づいたときには食いちぎられているだろう。


 ()()()()()()()()()()


 レクスはその動きをいとも簡単に見切って、足をわずかに移動させてかわす。すれ違いざまに大剣を真上から振り下ろした。右と左、別々の半身がいずこかへと飛んでいく。


 自分には普通の人にはない力があった。意識を右腕に集中させると、なぜか体が力があふれてみなぎる感覚があった。感覚だけでなく、実際に力は向上する。誰かに教えられたわけではない。人が歩くのと同じような感覚で、レクスは力を使えた。


 残った二匹がレクスに恐怖したかのように、同時に飛び上がってきた。レクスは大剣を真横に振って凶獣を斬り捨てた。全ての凶獣を倒して、レクスは周囲を見渡した。凶獣の気配はない。


 どうやら、これだけだったようだ。


「ウキ、もう大丈夫だよ」


 レクスが振り返り、眉を顰める。


「ウキー?」


 声を上げるが、出てこない。これは、まさか。


「一人で逃げたな……」


 レクスは嘆息し、肩を落とした。以前から何度か、こういうことはあった。二人で狩猟に出て凶獣に出くわすと、ウキは高確率で逃走してしまうのだ。凶獣は人を襲い食う。ゆえに恐れるのはわかる。わかるのだが。


「怪我したらどうするんだよ」


 この周辺はまれにではあるが、凶獣が出没する。レクスが倒したとはいえ、他の凶獣に襲われないとも限らないのだ。そうしたら、ウキは命の危険にさらされてしまう。だからこそ、自分の傍を離れてほしくはないのだ。

 

 それを考えると、レクスはそわそわしてしまう。ウキの身に何かあったのではないか、と心配してしまう。


「ウキを探さないといけないな」


 レクスは四輪車を引いて、ウキを探しつつ村へ戻ることにした。


 ♢


 レクスが村にたどり着いたころには、すでに夕暮れが村を照らしていた。レクスが住むこのタパパ村は人口五十人に満たない小さな村だ。農作物や狩猟でとった動物の毛皮、そして、レクスの狩った凶獣の心臓である魔核を売ることで生活が成り立っている。


「おーい、レクス。へへ、おかえりー」


 ウキが笑顔で、レクスを出迎えてくれた。そんなウキをレクスはジト目で見た。


「お願いだから、俺から離れないで。心配するから、凶獣に襲われてないかって」


「わりー、わりー」


 照れた様に頭をかくウキ。これは絶対にまたやらかすな。もう何度かは注意しているのだが。そう思ったところで、レクスはあることに気づいた。


「ウキ、それ、どうしたの」


 レクスが視線を向けたのは、ウキの顔だ。右頬が赤くなっている。きれいな紅葉の形をしていた。言われたウキはバツの悪そうな顔になり、


「ああ、これは――」


「レクス、帰ってきたんだね! ごめんね、この人がいつも迷惑かけて!」


 目の前の家から一人の少女が出てきた。浅黒い肌をした彼女はウキの嫁で、クメという。タパパ村では十六でだいたい結婚することが多い。あいにくとレクスには相手がいない。


 クメは走ってくるなり、いきなりウキにドロップキックをかました。

 

 吹っ飛ばされたウキの耳を取り、一緒に頭を下げるクメ。


「いつも勝手に逃げてほんとに情けない男だよ、レクスに迷惑かけて」


 レクスに深々と頭を下げるウキとクメを見ていると、逆にレクスはひどくいたたまれない気持ちになった。


「いいよ、クメ。俺はウキと一緒に狩猟していて楽しいからさ。ただ、俺の傍から離れないでほしいとは思うかな。危ないから」


「もう、レクスは人が良すぎるよ」


 クメがあいまいに笑い、ウキがほらみろ、と言いたげな表情をしている。そのウキの頭にげんこつが降ってきた。のたうち回っているウキを見て、レクスが笑う。すると、その騒ぎに村人が集まってきた。


「おう、レクス。今日も凶獣をしとめたか。しっかし、背が伸びたな。ここに来た頃はあんなに小さかったのにな」


「わたしがあと五十歳若かったら、手ごめにするんだけどねえ」


 わはは、と村人たちが笑っている。ここの人たちは本当に優しい。居心地がよくて、とても幸せだ。だが、レクスの心は何かひっかかるものがあった。それは喉に刺さった魚のとげのように。


 村人たちと談笑をかわしていると、いつの間にかすでに空が暗くなっていた。各々が家に帰宅し、レクスも家に帰る。


「ただいま」


 レクスがドアを開けると、


「お帰り」


 と、優しく笑みを浮かべる老婆の姿があった。レクスが老婆に笑うと、老婆が目を細めた。


「なんか、悩み事かい?」


 ぎくり、とレクスは身をこわばらせた。困った。表情に出したつもりはなかったのだが。老婆はそんなレクスの心中を見透かしたように、言った。


「あんたが悩むなんて一つしかないね」


 老婆はレクスを見て、言った。


「まだ記憶は戻ってないのかい?」


 その言葉に、レクスは頷いた。

 


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ