第50話 プロローグ
そこは砂に覆われた場所であった。頭上には太陽がぎらぎらと輝いており、容赦なく青年の水分を奪っていく。額から汗が滴り落ちている。通常であれば、あまりの暑さに音を上げてしまうだろう。
が、青年――レクスはそれとは真逆の感想を持っていた。
とても寒いと感じていた。全身を流れる汗も暑さではなく、寒気によって生じているように思われた。
無理もない。
たとえ、誰であろうがこれを見ればどんな存在だって畏怖を感じるだろう。
レクスの前には、凶獣がいた。全身は燃えるような赤い鱗で覆われている。その鱗はまるで鎧のように頑強で、どんな刃物も通さない硬度があるように見えた。両手両足に鋭い爪があり、いとも簡単にたやすく人間を切断できるだろう。口からは長い牙をのぞかせ、背中には立派な翼が生えている。
その姿はまさに竜、であった。
そして、何よりも圧倒されるのはその大きさだ。おそらく五十メートルはあり、竜から見ればレクスなど取るに取らぬ存在だろう。レクスから見ても、自分がいかに小さき存在であるかを嫌でもわからされてしまう。
本来であれば、絶対に遭遇したくない相手であるし、逃走を選択すべきだ。
が、竜の赤い瞳はレクスを見ていた。向こうは完全にこちらを意識している。そして、立ち上がり、咆哮を上げた。
びりびり、と音の衝撃がレクスに伝わってくる。それだけで、力の差がわかった。
いやでも、死を意識してしまう。
とっさに逃げようという考えが、頭をよぎるがそれを意識的に抑えた。今、背中を見せればこの竜はレクスを殺すだろう。そんな確信にも似た予感があった。
逃げられない。
となれば、もはや残る道は戦うしかないのだが、勝てるのか? この人知を超えた存在に。そもそも、人が竜を倒せるのか。
竜などという存在がこの世にいるとは思わなかった。その伝説上の存在がレクスの前に存在し、おそらく敵意を持っている。
戦うしかない。レクスは覚悟を決めた。絶望的な戦い。
だが、自分は死ぬわけにはいかない。そう、あの人のためにも。




