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凶獣の王(R15版)  作者: ナナシ
第一章 禁止区の少女
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第46話 選択

 レオナとレクスは教団兵に包囲されている。その教団兵を従えるようにして、ルミナが立っていた。まるでわけのわからない状況に、レオナの頭の理解を拒んでいた。


 どういうことなのだ、これは。


「ルミナ、そこ危ないからこっちに」


 それを聞いて、ルミナは、はあ、と呆れたように深い息を吐いた。


「さすがは禁止区の人間ですね。股の緩い豚はまだ気づかないんですか?」


「どういう、意味?」


 すがるように見るレオナを、ルミナはにっこりと笑う。


「自己紹介しましょうか。ルミナは偽名です。わたしは六星のラティアと申します。以後、お見知りおきを。レオナさん」


 丁寧にお辞儀するルミナ――ラティアを見て、レオナは目を見開く。


 六星のラティア。メサイア教団の最高幹部の一人。突然の告白に、レオナは唖然とするしかなかった。なぜなら、こんな子供が幹部だなんて信じられない。それに、エクノスは言っていなかっただろうか。


「ラティアは若い男のはずでしょ?」


「ああ、それはわたしが流したデマです。こんななりだと信じてもらえないでしょうからね。それに、正体を隠しておいた方がいろいろと動きやすいのですよ」


 それを聞いても、レオナはまだ信じられなかった。いや、信じたくないのだ。ルミナはこれまで一緒に逃げてきた仲間だ。それが裏切るなんて――突然、レクスがレオナの手を掴んだ。


「レクス?」


「僕は人の心が漠然とわかるんだ。ダスティンもカレル兄ちゃんも、ポポリンさんも温かい心を持っていた。でも、あの子は違う。あの子は何もない。だから、ずっと怖かった。親しくしてても全然心を感じないから」


 レクスは怯えた様にラティアを見ていた。そういえば、レクスはずっとルミナに対してどこか挙動がおかしくなかっただろうか。あれは人見知りや同年代の子に感じる照れではなく、純粋な恐怖だったのか。


「君はわたしを警戒してましたね。さすがはポテンシャルの高い被検体です。人の心がわかるのですか? 興味深いですねー」


 ラティアがレクスの心をのぞき込むかのように目を細めて、レクスは顔を反らした。信じたくはない。が、これが真実なのだろう。


「ずっと、わたしたちをだましてたの?」


「わたしは割と楽しんでましたけどね。でも、レオナさんから見たらそうなるのでしょうね」


「どうして? あなたはわたしたちを捕まえるチャンス、いくらでもあったはずなのに。なぜ、それをしなかったの?」


 ラティアは首をかしげて考えるそぶりをしながら、答える。


「わたしも最初から、レクスの正体に気づいていたわけではありませんよ。出会いは偶然です。名前が同じだから疑いはしましたが、顔は違ってましたしね。でも、まさか顔を変える手品があるとは存じませんでしたから。あれを見た時は、驚きましたよ。まあ、あそこで捕まえてもよかったのですが――」


 そこで、どこからか飛んできた小鳥がラティアの肩に、止まった。その小鳥を掴んで、ラティアは優しいまなざしをしている。小鳥を指で撫でると、ちゅんちゅん、と可愛らしい鳴き声を上げた。


「かわいいですねー、小さくて、丸っこくて、愛嬌があって」


 ラティアは小鳥をいとおしそうに見ている。小鳥の方もラティアになついているのか、甘えたしぐさを見せている。


「儚くて」


 ぐしゃり、何の躊躇もなくラティアは小鳥を握りつぶした。手を開くと、無残にもつぶれた小鳥の死体がラティアの足元に落ちた。それをラティアは足で踏みにじる。


「わたしは好きなんですよ。命をもてあそぶのが。自分が命を支配していると思うと、とても気持ちがいい。特に無駄なあがきをする命が好きですね。そのあがいている瞬間を見ていると、心が躍る」


 レオナはようやく理解した。どうして、ラティアがこのタイミングまで正体を現さなかったのかを。


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 それを楽しむために、あえて泳がせていた。無邪気な子供のふりをして。


「そういう意味では、豊穣祭は最高でしたね。暴れる凶獣に逃げ回る禁止区の塵たち。絶叫が轟き、血が舞い、死体が転がる。最高の観劇でしたね、あれは。やはり、祭りはああでなくてはいけません。レオナさんも、楽しんでいただけたのでは?」


「ルミナあああああああああああああああああああああああああ!!」


 レオナは叫んだ。命を侮辱された気がした。あの光景を楽しむなどこの女は狂っている。激情がレオナを支配していた。拳を振り上げて、レオナはそれをラティアの顔に叩きつけようとして。


 風が自分の体に触れた気がした。


 その瞬間、レオナの全身が切り刻まれた。うめき声をあげて、レオナはその場に膝をついた。何をされたのかはわからない。


 レオナが恨みがましい目を向けると、ラティアはまるでレオナを観察するかのように見ていた。愕然とした。完全に自分は遊ばれている。そう思うと同時に、恐怖を感じた。今の攻撃でわかった。


 ラティアと自分では途方もない力の差がある。それこそ次元が違うレベルで。


 レオナは地に両手をついた。自分がやってきたことの行いがすべて無駄に思えた。いくらあがこうが、結局自分はラティアの手のひらで踊っていただけだ。そう考えると、とてつもない徒労感を覚えた。


 あんまりではないだろうか。


 必死にもがいてあがいて、たどり着いた場所がここだ。自分の今までの頑張りはなんだったのだろう。もはや、完全に心が折れてしまった。


「あなたは生まれてきたことが罪なんですよ」


 ラティアの言葉が、レオナの胸に突き刺さった。レオナの心がそれで砕けてしまった。後ろは崖。前には教団兵とラティアがいる。もう、どこにも逃げ場はない。


 これがわたしの旅の終着点。


 歩き続けた結果が、これか。


 もう、諦めていいのかな。楽になってもいいのかな。


 ぼんやりと考え事をしていると、ぎゅとレオナの手を握り締めるレクスがいた。


「レクス……」


 怖いのだろう。その手は震えていた。当然だ、レオナも怖いのだから。そんな二人の姿を見て、ラティアはくつくつ、と笑っている。


「悲しいですねー、もう少しでボルカにたどり着けたかもしれないのに。これはあまりにも悲惨です。レオナさん、わたしも鬼ではありません。あなたにチャンスを与えましょう」


「チャンス?」


「レクスをこちらに引き渡してください。レオナさん、あなた自身の手で。そうすれば、あなたの命は保障します」


「――え?」


 レオナの口から呆けた声が漏れた。絶望的な表情を浮かべるレオナを、ラティアは無邪気な顔で見ている。


 



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