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凶獣の王(R15版)  作者: ナナシ
第一章 禁止区の少女
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第41話 逃走

 その凶獣の名はメガバリオンといった。体長は十メートルで四足歩行で移動する。鋭い牙と爪を持ち、全身が鎧のような漆黒の装甲で覆われていた。機械と生物の中間のような姿で獅子に似ている。メガバリオンは目につく生き物をすべて食らうために、近づく者は誰もいない。そんなメガバリオンが久しぶりに目を付けた獲物がレオナたちであった。


「……あれ、こっち見てる」


 レオナが恐る恐る口にした。禁止区の中央広場で戦った凶獣とはレベルが違う。あれはとてもレオナの手に負える相手ではない。逃げようとするのだが、さきほどの雄叫びで足がすくんで動けない。このままじゃ、食い殺されてしまう。それがわかっているのに足が動かなかった。恐慌に駆られていたレオナだったが、


「絶対ヤバい奴! 逃げるが勝ちー!」


 ルミナが真っ先に逃げ出した。それが合図となった。それでレオナの金縛りがとけた。つられるようにして全員がルミナの後ろを追いかける。


 逃がさない、とばかりにメガバリオンがレオナたちを食い殺そうと追いかける。


「みなさん、こっちこっちー!」


 ルミナが激しく手ぶりしている。レオナたちがルミナのもとへたどり着いた。そこは、洞窟の天井が今まで通っていたところよりも数メートル低い。


「ふふん、あの図体じゃここには入ってこれな――」


 どごん、というすさまじい音とともにメガバリオンは洞窟の天井を削り取るようにしてレオナたちに向かってくる。岩が落下し、土埃がまう。


「うっそー、そんなのありですか!」


 ルミナが引きつった表情を浮かべて、再び走り出す。先頭を走るのはルミナで、その次にレクス、ダスティンと続き、レオナとカレルが後ろの方を走っていた。レオナはレクスがついてこれるかどうか心配していたが、その心配は無用のようだ。問題はカレルである。カレルは今にも倒れこんでしまいそうなほど息を荒くしている。


 このままでは、捕まる。


 そうレオナが考えていると、先頭にいるルミナが何やら壁にあるボタンを操作している。ぽーん、という電子音が聞こえてきて、上からゴゴゴ、と音がした。見れば、上から鉄製の厚みのある扉が落ちてきていた。


「はやくはやく! 取り残されちゃいますよ!」


 ルミナが全身を使ってこちらにこい、と急かしている。ダスティンとレクスが扉の前にたどり着いた。残すは、レオナとカレルだ。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 メガバリオンの雄叫びがレオナの耳に響く。距離はそんなにない。レオナとカレルは懸命に走って、扉の近くまでやってきた。もうすぐだ。そう思ったとき。


「ぐっ」


 カレルが地に膝をついていた。


「カレル!?」


 慌ててレオナがカレルの傍に寄った。


「悪い、さっきルミナを追いかけてたときにくじいちまった……。もう、走れそうにねえ」


 カレルが申し訳なさそうに、乾いた笑い声を上げた。さきほどのルミナとカレルが遊んでいた光景が頭によぎった。あのときだ。


「レオナ、俺を置いて行ってくれ。足手まといにはなりたくねえんだ」


「馬鹿、言わないでよ! できるわけないでしょ! みんなでここを出るんだよ!」


 レオナが悲痛な叫び声をあげた。カレルの方はゆっくりと立ちあがり、走ろうとすると顔をしかめた。どうやら、本当に走ることができないようだ。


 メガバリオンがレオナとカレルに迫ってくる。その足音が、聞こえてくる。


 もう、迷っている時間はない。レオナは覚悟を決めた。


「レオナ!?」


 カレルが驚きの声を上げた。レオナはカレルを背負って、走り出す。


「やめろって! お前ひとりなら、逃げきれんだからさ!」


「喋んな、バカ! 絶対に生きてゲオタヤを出るんだ! あんたまでわたしを置いていくなんて許さないから!!」


「っ! レオナ……」


 カレルは顔をゆがませて、黙った。レオナは意識を集中、適応器の力もフルに使って走る。ルミナたちが口々に何かを叫んでいる。もう少しだ、あとちょっと頑張ればみんなのところに。


 扉はすでに閉じかかっている。レオナは懸命に走る。が、扉の落ちるスピードの方が速い。間に合わない。頭にそんな考えがよぎり、


「お母さん!」


 レクスの声が聞こえた。その瞬間、レオナの中で何かが吹っ切れた。


「死んでたまるかああああああああああああああああああああああああああ!!」


 レオナは頭から扉の向こうへ飛び込んだ。レオナのふくらはぎに鉄の冷たい感触が伝わってくる。メガバリオンの足音がすぐ目の前まで来ている。レオナの足が完全に扉の内側に飛び込むのと、扉が閉まるのは同時だった。


「お母さん!」


 レクスがレオナに飛びついた。レオナがレクスの頭を撫でる。カレルがレオナの背中で溜息を吐く。


「無茶しすぎだろ」


「でも、助かったじゃん」


 ふふっ、と笑ってレオナはカレルに親指を立てた。ダスティンはそれを見てふん、と微笑していた。


 ルミナは鉄製の扉に近づいて、急にがんがんけり始めた。


「ぷぷー、お馬鹿さん! こっちに来たい? ざんねーん、バカな凶獣ちゃんはこっちに来れないのでしたー。悔しいだろー?」


 馬鹿笑いをあげてルミナが、どうだと言わんばかりに胸を反らして。


 ドゴーン、という音が聞こえた。鉄製の扉がレオナたちがいる方向に、突き出している。


 ルミナは引きつった表情で、恐る恐る背後を振り返る。


 再び轟音。さらに鉄製の扉がひしゃげる。


「嘘でしょ!? この扉、厚さどれぐらいあると思ってんの!?」


「走るぞ」


 ダスティンが声をあげて、ルミナとレクスがそれに続いた。カレルはそのままレオナが背負ったまま走る。


「なあ、レオナ。おろしてくれねえか? そのこれ、かっこ悪いと思うんだが」


「あんた、走れないでしょ!? 馬鹿言ってないで、わたしに運ばれなさい!」


「――破られるな」


 ダスティンがその言葉を吐いた瞬間、鉄製の扉が勢いよく吹き飛ばされた。


 メガバリオンは雄たけびを上げて、再びレオナたちを追跡する。

 


 

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