第37話 明かされる真実 1
エクノスとダスティンを先頭にルミナ、レオナ、レクス、カレルと順番に歩いた。ルミナが景色が変わるたびに感嘆の声を上げている。ルミナの態度はポポリンの死を知っても変わらない。むしろ、明るくなっている気都すら思える。きっと、はしゃぐことで気を紛らわせているのだろう。そのいつもと変わらないルミナの笑顔にレオナは救われていた。
ポポリンの死体はカレルが背負っている。レオナが背負おうとしたのだが、カレルが「無理するな」と、言って変わってくれたのだ。自分もつらいのにそんな気遣いをしてくれる友人の厚意がレオナにはうれしかった。レクスは無言だ。時折、怯えた様に身を震わせている。無理もないだろう、あんな光景を目にしては。
しばらく歩いたころに、エクノスが立ち止まった。その場所を見て、レオナはぎょっとした。教団の施設前だったからだ。レオナが指摘しようとしたが、エクノスは構わずに扉の横についている警報装置を操作している。操作を終えると、ぴー、という電子音が鳴って扉が開く。
レオナは教団兵がわらわらと出てくるのではないかとびくびくしていたが、そんなことはなかった。エクノスの後に続くと、施設内には誰もいなかった。無人である。人の気配のない施設内を歩くレオナたち。聞こえるのはレオナたちの足音だけだ。エクノスの足取りは全く迷いがない。再びエクノスが立ち止まり、機械を操作する。ドアが開いてダスティンがエクノスのすぐ隣に立つ。
四角い箱のような空間だ。二人とも動く気配がない。レオナが首をかしげている隙に「とう」と叫んでルミナがそこへ入る。レオナはカレルと顔を見合わせ、中へ入る。全員が入ったことを確認して、エクノスが機械についているボタンを押す。すると、ぷしゅー、と空気の抜けるような音とともに扉が閉まった。
ゴウン、ゴウン、という重低音とともに四角い箱が移動していくのがわかる。重力が下にかかっている気がするので、下に向かっているのだろうか。
「こんな乗り物があるんだね」
「エレベーターという」
レオナの疑問に、ダスティンが腕を組みながら答えた。それきり、誰も言葉を発しない。ルミナも退屈なのか、足のつま先を床に、とんとん、と叩いている。エレベーターの向かう先はどこなのか。レオナはまるで自分たちが深い闇の中に沈み込んでいくような錯覚を覚えた。
エレベーターはなかなか止まらない。そうとう地下に潜っているのだろう。まだだろうか、とレオナが考えたときであった。ぴんぽーん、という音とともに扉が開かれた。真っ暗なところであった。何も見えない。
「電気、つかないの? これじゃ、何も見えないんだけど」
レオナが疑問の声を上げるのと当時に、ぱっと照明がついた。どうやら人の気配を察して自動で点灯するようだ。ただ、照明の光が赤色なのが嫌だった。赤はどうしても血の色を連想してしまう。脳裏に中央広場の惨劇が再生されて――レオナはそれを振り払うように頭を振った。
エクノスを先頭に再び歩き出すレオナたち。何となくではあるが、もうすぐ目的地に着く、そんな予感があった。やがて、エクノスが立ち止まった。
たどり着いた場所を見て、レオナは声を上げた。
「ねえ、カレル。ここってさ……」
「ああ、俺らが働いている工場に似てるな……」
レオナたちが立っている入り口付近から少し歩いたところにベルトコンベアがある。その前には、透明の壁があり仕切られている。ここからでは何が運ばれているか見えない。何が運ばれているのだろうと、レオナは近づいて見てしまった。
「なっ」
「どうした、レオナ! なっ、なんだよ、これぇ!?」
運ばれているのは人間だった。その数は百、いや、もっとかもしれない。異様な光景にレオナは立ち尽くす。ベルトコンベアに運ばれる人間は身動きしない。その人間からは生命を感じなかった。となれば、死体ということか。
全員が一糸まとわぬ裸身だ。
そして、レオナはある事実に気づいた。
「この人たちって、禁止区の人間……?」
「えー、どうしてそう思うんですかあ?」
ルミナが好奇心に満ちた眼差しをレオナに向けている。
「だってこの人たち、全員若くない?」
「言われてみればそうだな……もしかして、上にある死体か?」
「それはないと思う」
カレルにレオナはそう返した。もし、広場にある死体をここに持ってきたならば、もっと損壊しているはずだ。ここにある死体はすべてが綺麗だ。凶獣にやられてここに運ばれたとは考えにくい。
しかし、だとすれば、この死体の用途はなんだ。何に使うのだろう。
そうレオナが考えたときであった。コンベアに運ばれていた死体が急に起き上がったのだ。いや、起き上がったという形容は正しくないだろう。機械が無理やり体を起こしたのだ。そして、上から機械が移動してくる。下の機械が死体とともに上昇していく。上の機械がさらに四つ移動してくる。そして、形状をまるでハサミのように変えた。きっとあれで何かを挟むのだろうが、何を。
ハサミに形状を変えた機械は死体の足と腕、頭をがっしりと掴んだ。
そして次の瞬間、引き裂いた。
死体から血しぶきが舞い、腕、足、頭部、と別々の方向に機械が運んでいく。
「なっ、なに、こ、これ……?」
驚愕に目を見開いたレオナは、かすれた声を出した。カレルは膝まづいて床に吐しゃ物をぶちまけていた。レクスは手で顔を覆い、ルミナは目を見開いている。
引き裂かれた死体は部位ごとに運ばれているようだった。その光景に、レオナは寒気を感じた。広場で見た惨劇とはまた違った残酷さがここにはあった。
生の叫びというか、動物らしさがあった惨劇に比べて、ここはあまりに無機質だ。機械で黙々と死体が引き裂かれていく光景にはなんの感情もない。ただの作業だ。これではただの家畜ではないか。人が家畜のように扱われている光景を見て、レオナの足が震えた。
「ダスティンっ! ここはなんの場所なの! 何の目的でこんな場所に連れてきたわけ!?」
泣き叫ぶように声をぶつけるレオナに対して、ダスティンは淡々と答えた。
「ディバイド体を抜き取っているんだ」
「ディバ? なに?」
「それを説明するには、歴史を語る必要がある」
それから、ダスティンは語りだした。
今よりはるか昔、五千年以上前のこと。人々は平和に暮らしていた。が、そんな人々の平和はある出来事によっておびやかされることとなる。
原因不明のウイルスの流行である。ウイルス自体は人間に害はなかった。害があったのは動物の方であった。ウイルスに感染した動物は一部が非常に狂暴化した。目の色は赤くなり、体はそれまでとは異なり皮膚が硬質化し、体の機能が桁外れに向上したのだ。そして、一番問題なのが人を襲うようになったことである。
人間たちもただ黙っているわけではない。抵抗を試みた。だが、人の持つあらゆる兵器が歯が立たなかった。おまけに、狂暴化した獣――凶獣の中でも特に強力な四体が人間たちを追い込んだ。人々はこの個体を王種、凶獣の王と呼び恐れた。
追い込まれた人間たちはある手段をとることにする。凶獣を徹底的に研究した。
「その凶獣から抽出したエキスを人間に使った」
「えっ、それ大丈夫なの?」
「拒絶反応を起こした人間が多く死んだ。それでも、やめるわけにはいかなかったのだ。人々は少数の犠牲より、大勢の平和を選んだ。その結果、一部の人間が不思議な能力を扱えるようになった。人々は彼らを適応者と呼んだ」
「適応者って」
「続けるぞ」
レオナの声を無視して、ダスティンは再び語りだした。
適応者の数が増えていき、次第に凶獣の数は減っていく。やがて、ついに適応者たちは王種の撃退に成功する。統率力を失った凶獣たちは一気に弱体化した。
そして、人々は長い戦いの末に平和を取り戻したのである。
だが。
「適応者のリーダーは不満を感じていた。なぜ、力あるものが弱いものに従わねばならないのかと。支配欲に駆られたリーダー、ベルゼは人々を支配するために戦争を挑んだ」
「ちょっと待って。平和になったんでしょ? そのベルゼって人も凶獣から人を守るために戦ってたんだよね? それがどうして人に戦争をしかけるの?」
「お子ちゃまですねー、レオナさんは」
ちっちっちっ、とルミナがしたり顔で指を振る。
「いつの時代も人は傲慢で欲深い生き物です。なんら不思議じゃありませんとも」
「メスガキの言う通りだ。業が深い人間だったのだろうベルゼは……。戦いを仕掛けられた人たちは再び追い込まれた。なにせ、何の力も持たないのだからな。そこで人間たちは凶獣の研究を始めた。そして、一つの事実を突き止めたのだ。ディバイド体によって人は能力を扱えるということにな」
ディバイド体。さっき、ダスティンが言っていた言葉だ。いよいよ話が核心に迫ってきたらしい。
「人間たちはディバイド体を抽出し扱える器を発明した。それが適応器。貴様がつけているものだ」
レオナは自分の腕輪を見た。この腕輪にディバイド体というものがあるのだと思うと、なぜだか不思議な気分になった。
「適応器を作り出した人間たちは辛くも適応者たちとの戦いに勝利した。そして、戦いに勝った人間たちは」
「おい、おっさん」
話を続けようとするダスティンに、カレルが口をはさんだ。その顔は蒼白で、病人のようだった。
「さっきからぺらぺら喋ってるけど、一体何者なんだ。あんた? いろいろと知りすぎてる気がするんだが」
それはレオナも思っていたことであった。そもそも、教団の人間であるエクノスと知り合いという時点であやしい。
レオナとカレルに見つめられて、ダスティンは言った。
「俺はゲオタヤ、環境エネルギー研究所所長だ」
「所長って」
「立場で言えば副星長、わかりやすく言えばゲオタヤの幹部の一人ですよ」
エクノスが補足するようにそう言った。




