第24話 仕事探し
レオナは虚ろな目で宙を見ていた。だらん、とベンチに腕を垂らした姿は人から見ればひどく情けない姿に映っていることだろう。
他を当たるんだな。
今日一日で何回この言葉を言われたことか。予想はしていたがショックは大きいし、言われていい気はしない。
禁止区では十二歳を超えれば職業をスクールに斡旋されて、そのまま仕事をすることになる。レオナは無職で、仕事がなかった。あるきっかけで、売春をすることになったために仕事場へ行って働くという経験は皆無だった。ゆえに、できることはない。一体、こんな自分を雇うところがどこにあるというのか。
ポポリンに頼ろうかとも考えたが、昨日のことでかなり気まずい。自分からは言い出したくない。カレルは知らない。
やはり、今まで通りの生活をしたほうがいいのではないか。そのほうがいいと思うし、レクスもそんなに長居をするわけではない。それなら、自分がこんな苦しい思いをして何の意味があるというのか。
決めた。自分は今まで通りの生活をする。そうと決まれば、客を探さなければ――そう考えたところで。
お母さんが傷つくのは見たくない。
レクスの言葉が頭によぎった。その瞬間、深いため息をついた。あんな顔をされてしまっては、何もしないわけにはいかないではないか。
しかし、いつの間にポポリンとレクスは仲良くなったのだろう。ポポリンが自分を叩くなんて想像もしていなかった。思えばダスティンもレクスのことは気にかけている。そして、自分もだ。
愛されてるなあ。
腐ってないで、もう少し頑張ってみるか。
レオナは気合をいれて、ベンチから立ち上がった。職が見つからないならば、探してもらうほかないだろう。
「で、俺のとこにきたわけだ」
モレドが疲れたように息を吐き、レオナをジト目で見ている。
「頼むよ、他に頼れる人がいないのよ」
「今まで通りでいいだろう? 困ることでもあったか?」
「……そんなとこ」
「そうかい。そんなに坊主が大切か」
ダスティンとレクスがレオナの家にいることを知っている人間はほとんどいないはずなのだが。相変わらずモレドはどこから情報を得ているのか。
「お前がそんなに愛情深い奴だとは思わなかった。どうだ、ルカの面倒も見てくれないか。ちょうど、坊主と同じぐらいなんだが」
「一人で手いっぱいだから、他を当たって」
「がはは、冗談だよ。そうそう、こいつは聞いた話なんだがここに教団の超エリート様がこの禁止第五区にやってくるらしいぞ」
「それって……やっぱり、ダスティンとレクスが目的で?」
「だろうな。それ以外に理由は考えられない。警戒しとけ、匿うと決めたのならな」
「ありがとう。いくら?」
「お代は結構だ。今のは俺のお節介ってやつだ。で、お前の職場だが心当たりがあるぜ」
「本当に!?」
「ああ、とっておきの場所がな」
にやり、とモレドは実にいやな笑みを浮かべた。
モレドの紹介でレオナがやってきたのは禁止区の西部にある工場だ。工場に足を踏み入れた瞬間、鉄と錆の匂いが漂ってきた。見たこともない機械があちこちで物を作り、それを人間が操作していた。
その光景を見てレオナは早くも不安になった。自分にできるだろうか。じわり、と手に嫌な汗がにじむ。心臓がどくどくと脈打っている。できることなら、もう今すぐにでも帰りたいが、紹介してもらった手前逃げるわけにもいかない。
よし、と気合を入れてまずはモレドが連絡した相手を探す。確か目印は赤い上着を着た男だったか。それとなく目線を彷徨わせて、見つけた。
「すいません」
レオナが声をかけると、男は立ち上がった。
ん? この男の立ち姿、見覚えがある。しかもよく見ている気が。
「お疲れさんです。今日から君の指導をすることになった……え」
男の声が止まった。なぜなら、
「レオナ?」
「カレル?」
二人は見つめあい、口をあんぐりと開けた。
「カレル、なんであんたがここに?」
「それはこっちのセリフだ」
「わたしは、モレドの紹介で……」
「えっ、お前、モレドさんの知り合いなの?」
驚きの声を上げるカレルに、レオナは頷く。
「あの人、うちのお得意様つーか、なんていうか、材料がどこにあるかとかすごい正確なんだよ。他にもいろいろと知っててさ」
「あー、なるほど……」
どうやらモレドはこの工場に対して有益な情報をいろいろと教えて、お金を取っているらしい。あの男、意外に商売上手である。ということは、モレドはカレルがここにいると知っていて自分をよこしたのだろう。なんか嫌な笑みを浮かべてたから、気にはなっていたのだが。
「でも、お前がここで働くって、その……仕事は?」
「あれは……ひとまず休業」
「レクスになんか言われたか」
「さあね」
すっとぼけるレオナにカレルはそうかそうか、と深くうなずいている。
「それなら、俺がビシバシ教えてやる!」
カレルがキラキラとした目で、レオナを見る。頬が緩んでいてにまにまと笑っている。控えめに言って、気持ち悪い。が、レオナは見知った顔を見て安心した。カレルがいるなら、どうにかやっていけそうかな、とそんなことを思った。




