第20話 禁止区へ向かうもの
メサイア教団環境エネルギー研究所。紫色に塗装された廊下を白衣を着た研究員たちが歩いている。その中には普段はいない教団兵たちがうろうろとしていて、物々しい雰囲気だ。その中を周囲より頭一つ分以上、大きい男が歩く。男がすれ違うと女性研究員はぼーっとした表情になる。男の美貌は優れた芸術品のように整っていた。
男がひときわ大きい扉の前に立ち止まると、扉がゴゴゴ、と音を立てて開いた。
中へ入ると、目に入ってきたのは棒状の大きな機械だ。本来ならば、まばゆい光を放っているはずなのだが今はそれも過去の話だ。その周囲には技師らしき人たちが専門用語を話している。その技師の近くには教団兵が走り回っている。
ここは発電ルームであり、この研究所の電力を補う場所だ。それが数日前、急に停止した。当然、この場にいた研究員たちはそんなことなど想定しておらず、大いに慌てた。非常電源が作動しなかったこともそれに拍車をかけていた。
当初は教団の背教者たちの仕業かと思われたが、それはある男が引き起こしたことだと判明している。
ダスティン。彼は発電機を停止させて、その隙に乗じて別の国に逃亡したとされている。一人の少年を伴って。
ゲオタヤの北部にデバルチヤという国があり、彼はそこに逃げたのではないかとされており教団兵は総力を挙げて彼を捜索している。
しかし、彼はそれは違うのではないかと考えていた。教団がダスティンがデバルチヤへ向かっていると結論付けたのは数々の状況証拠からだ。だが、本当にそれは信じてよいのかと男は考えていた。男にはまるでそう考えるように思考を誘導されているような感覚がしていた。
もしや、ダスティンはまだゲオタヤ内にいるのでは、と男は考えている。
教団兵の数が少なくなり警備が少なくなったところで、この国を脱出しようと考えているのではないか。たとえば、禁止区などは教団兵は近寄らない。なぜなら不衛生で、禁止区に住む人間を教団兵は人と見ていないからだ。近づくのも嫌というのが教団では常識に近い。そう考えれば、ダスティンは禁止区にいるのではと考えられる。
男は首肯し、発電室を出た。
「ダスティン様」
ぽつり、と男はつぶやいた。




