第16話 変装
テーブルの上に並べられた料理を見て、ダスティンは露骨に顔をゆがめた。
「し、仕方ないでしょ。ろくな食材なかったし」
「食材のせいにするな。貴様の腕が悪いだけだ」
「ぐっ」
それを言われてはぐうの音も出ない。ダスティンはもはや食べる気もないらしく、椅子に座って考え込むように宙を見ている。
レオナは平気で食べているが、レクスのほうは料理を見たまま固まっている。
やはり、嫌なのだろうか。
「嫌なら無理して食べなくてもいいよ。何か買ってくるし」
「食べる、よ。おい、しいから……」
ひきつった笑みを浮かべるレクスを見て、レオナの罪悪感に傷んだ。そんなレオナを安心させるべくレクスは料理を食べていたが――突如、倒れた。
「レクス!」
レオナはレクスをベッドに寝かせた。レクスの顔色はやや青い気がする。
「ろくなものを食べさせていなかったからな。貴様が気に病むことではない」
「うん、でも……」
こうなってしまったのは自分にも責任があるのではないかと思ってしまう。
「気にすることではなかろう。どのみち、俺とレクスは招かざる者。長居をする気はない」
「そうかもしれないけど、ここにいる間はゆっくりしてほしいって思うから……」
「見かけによらず面倒見がいいのだな。なら、勝手にするといい」
ダスティンはレオナに背を向けて扉へと向かおうとしている。
「脱出口を探しに行くの? その、大丈夫? あんたとレクスの顔の手配書でまわってるんだけど」
「これがある」
ダスティンは懐から何やら小瓶を取り出した。それを手に振りかけて、それを顔に塗る。すると、なんとダスティンの顔が全く別人の顔になった。
「えっえっえっ、なになに? どういうこと?」
「姿かたちを自在に変えるカメオーンという凶獣がいるんだが、その凶獣のエキスを取り出したのがこれだ。これを使えば顔を変えられる。正確には顔が変わっているようにみせるだけだが」
そう言って、ダスティンはレクスの顔に液を塗る。すると、レクスも別の子供の顔になった。
「へー、すごい便利なものがあるもんね。ん? 最初からこれで変装すればよかったんじゃない?」
「教団の追手が俺の想像より早くてな、余裕で脱出できる算段だった。うまくまいたつもりだったんだが……、勘の鋭い奴がいるようだな」
ダスティンは扉を開けて、出て行った。
残されたレオナは考える。ダスティンの手伝い、これは却下だ。足手まといになるだけだろうし、何よりダスティンが嫌がるだろう。
そうなると、レクスの相手をすることになるが――肝心のレクスは寝ている。自分のせいで。
「買出しにでもいくか」
家から出たレオナは街にある弁当屋へと向かった。弁当屋へ着いたレオナは店員に弁当を頼もうとして、目を丸くした。
弁当屋にもかかわらず店内のどこにも弁当が見つからないのだ。これはどういうことだろう。
「ごめんなさい。最近、お客さん多くてね。もうないのよー」
「マジですか」
レオナはがっくりと肩を落とす。
とぼとぼと弁当屋を後にするレオナ。
まあいい。別の弁当屋に向かえば済む話だ。
が、レオナの期待を裏切るようにどこもかしこも弁当がない。何だろう、禁止区で空前の弁当ブームが起こっているのだろうか。
困った。
食料を調達すべく街まで来たのはよかったが、まさかの収穫なしである。これは予想だにしていなかった。
どうすればいいのだろうか。レクスの食事は。
ダスティンの言っていた通り、あの二人はそんなに禁止区に長くいるつもりはないだろう。かといって、何も食べさせないわけにはいかない。
最悪、食材だけ食べさせるか。それなら、栄養は摂取できる。
しかし、それでいいのだろうか。
レオナとしてはレクスに美味しいものを食べさせてあげたいと思う。
悩んだ挙句にレオナは一つの答えを出した。
そうなれば、善は急げだ。
レオナはある店の前に立っていた。店の名はヘルイート。禁止区内でもおいしいと有名なお店だ。意を決してレオナは店内へと入る。すると、店員の威勢のいい声が聞こえてきた。
レオナが腰をおろすとささっと店員がやってきた。
「メニューをどうぞ」
可愛らしい服に身を包んだ女性の店員が、にっこりとほほ笑んでいる。
その女性店員とレオナの目が合った瞬間、店員の目が徐々に丸くなる。
「どうしたの、レオナちゃん。珍しいね?」
「ポポリン、わたしに料理を教えてくれない?」
レオナの願いにポポリンは首を傾げた。