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凶獣の王(R15版)  作者: ナナシ
第一章 禁止区の少女
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第9話 迷い

 今まさに男の剣がレオナに向かって振り下ろされようとしていた。


「ダメっ!」


 レクスが鋭い声をあげた。同時に男がぴたり、と剣を止めた。剣はレオナの喉の皮膚に当たっている。ひんやりとした感触がレオナの喉に伝わってきていた。


「こ、この人……いい人。殺したら駄目」


 たどたどしく説明するレクス。男はレクスの顔をじっと見ていたが――やがて、剣を腰の鞘に納め、レオナを乱暴に放り投げた。


 けほけほ、と激しくせき込むレオナ。落ち着いてきたところで、レオナは男を睨みつけた。


「ひどいことしてくれんじゃないの」


「……そうして喋れることに感謝しろ、女。本当なら処分しているところだ」


 男は冷たい声で言い放つ。


「ああ、そうですか。それで、あんたはこんなところに何の用が会ってきたわけ。まさか、わたしのことが好きで助けにきたわけじゃないんでしょう?」


 レオナに皮肉に、男はむすっと黙り込む。どうやら、レオナと会話する気は微塵もないようだ。その態度にレオナはむかっとする。どうにかこの男を喋らせてやろうと思案していると、


「ダスティン、質問に答えてあげないとダメ」


 レクスに注意されて、ダスティンは深々と溜息をついた。


「この区域から脱出するルートを探していた。それでここに立ち寄っただけだ」


「脱出するルートって……あんたらもわたしと同じってこと?」


「同じ? 貴様もここから出たいのか?」


「えっ、まあ、そう。こんなところ誰だって出たいと思うでしょ。あんたらもわたしと同じだね。じゃあ、わたしたち同志だ」


「貴様と同じにするな」


「同じにするなって、禁止区の人間でしょ、あんた?」


 ダスティンは黙り込んだ。


 レオナは考える。もしや、違うのか。だとしたら、この二人は禁止区の人間ではなく外部の人間ということか。

 

 禁止区では、まれに一般区からこちらにやってくる人間がいる。それを禁止区の人間は放浪人と呼んでいる。こんな腐ったところにやってくるもの好きな人間をレオナも何人かは知っている。

 

 しかし、わざわざこんな禁止区にやってくるなんてまともとは思えない。


 レオナは二人を観察する。男と少年の二人。絶対にわけありだ。レオナはあまり深入りしないようにしようと決めた。


「事情は聞かないでおくよ。じゃあ、わたしはこれで」


「待て」


 レオナが踵を返そうとしたところで、ダスティンに声をかけられた。


「どこへ行く気だ」


「どこって脱出口を探すんだよ」


「これを放っておいてか」


 ダスティンの目線の先には、レオナが気絶させた教団兵が倒れていた。


「仕方ないよ。まさか殺すわけにも」


 レオナの言葉よりもダスティンは早かった。剣を抜き放ち、近くに倒れている教団兵の心臓を刺した。なんの躊躇もなく。


「なっ、何してんの?」


「見ての通り、始末している」


「い、いや、始末してるって……そんな、あっさり」


「今更何を驚いている? さっきの男だって殺している」


 確かにそうだ。ダスティンに殺されそうになったことで忘れていたが、バズをダスティンは殺害している。なんの躊躇もなく。ダスティンに命を助けられたレオナとしては、それを咎める資格はないだろう。だが――


「別に殺す必要はなくない? その、無抵抗なわけだし……」


「では、聞くがこいつらが目覚めた場合どうなると思う?」


「それは……」


 レオナは言いよどんだ。間違いなく目覚めた教団兵はレオナのことを教団に知らせるだろう。その結果、レオナのことは教団内に知れ渡ることになる。そんなことになれば、レオナはこれから生きてくことがかなり困難になる。

 

 それはわかる。しかし、それでも殺人には抵抗があった。ゴバニーで死んでいく人間を見るのに慣れてはいても、自分が殺人を犯すことにはどうしても罪の意識を感じてしまう。

 

 黙り込んだレオナにダスティンは、


「貴様は犠牲もなしに目的をなそうとしているのか?」


 ダスティンの問いにレオナは答えられない。


「何かをなそうとすれば、人は何かの犠牲を払う。なんの犠牲も払わずに願いをかなえるなぞ、虫がいいと思わないか」


 犠牲を払う。この場合、教団兵を殺すことでレオナは安全を得られる。払う犠牲は人としての倫理観ということになるのだろうか。


 レオナは考え、


「わかった。もう、あんたの行動をとやかく言わないよ。でも、死体はどうするのさ? 口を封じても、死体が見つかったらあやしまれるんじゃない?」


 ここは廃棄エリアで人が寄り付かないとはいえ、教団兵の見回りで発見される可能性は大いにあるのではないか。


「問題ない。ただ、少し手伝ってもらうぞ」


 ダスティンが初めて笑みを見せた。


 何だろう、嫌な予感しかしない。




 

 

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