★閑話:続・愛剣
クロウは宿の自室で愛剣の手入れをしている。
何人もの人間を斬ったにもかかわらず、愛剣の黒々とした刃は自分の顔がうつるほどに美しかった。
愛剣の好きな所はまずよく斬れる所である。
剣が斬れるのは当たり前だ。
当たり前なのだが、この剣は斬り続けてもその切れ味が落ちない。
普通は脂だのなんだのですぐ切れ味が鈍くなるのに、愛剣は不思議となんでも斬れる。
次に、これは自分でもどうかと思うのだが、とにかく見た目が好きだ。
なんというか、禍々しい感じが良いのだ。
こんな禍々しさでは人はこの剣を忌避するだろう。
素晴らしい切れ味をもつ剣にもかかわらず、だ。
だが自分はこの剣が好きだ。元々もっていた愛剣が基礎となりうまれた剣である、というのもあるが、この剣のよさを自分だけが理解しているとおもうと独占欲が満たされるような気がする。
あとは、そう【声】である。
この剣からは声がきこえる。言葉として明瞭に聴こえるわけではないが、囁きのような、祈りのような、詠唱のような。
そんな声が聞こえてくる気がする。
クロウはその声を聴いていると、心のザラザラとした部分を舐めとられているかのような生々しい快感を覚えるのだった。
クロウはこの剣のことをもっと知りたかった。
だからこそ、こうして自ら死地に赴くような真似をしている…というわけでこそないが、もし自分が本懐を遂げるようなことがあるのならば、最期に自分を看取ってくれるのはこの愛剣なのだろうなと思う。
グズついていた心が、剣の手入れをしているうちに安らかになった事を感じたクロウは、鞘に納めた愛剣を掻き抱き眠りについた。
─チリン
クロウが眠りについた後、どこからか鈴の音の様な音が軽やかに響く。
そして
宿の壁に踊るは…
※愛剣
【閑話:愛剣】でも述べたが、クロウの愛剣はクロウに災いを呼び込む。
しかし、呼び込んだ災いに、更なる災厄を与えこれを排する。
だがこの背反した加護はクロウにだけしか適用されない。
当たり前だ、剣が愛するのは主であるクロウのみなのだから。
クロウをまもりたいと願う愛剣の極めて一方的な狂妄めいた妄執が、守るためにあえて災いを呼び込む。
まさにマッチポンプのような加護ではあるが、それでも加護は加護だ。
最終的にはクロウを守るために力を尽くすだろう。
だからクロウの死後、使い手が変わることでこの剣は正真正銘の呪いの剣と化した。
災いを、敵手を呼び込むだけ呼び込む。ただそれだけ。
クロウ以外の主をこの剣は決して認める事はなかった。
使い手が非業の死を遂げるまでひたすら災厄をまき散らし続けた。
クロウが眠る寝殿へ納められるまで。




