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文化祭1日目①

「これでよし」


部長が部室の扉に『ポトフ 1杯30円』と大きく書かれた紙を貼り付けたことで全ての準備が終わる。

ポトフは大きな鍋を使い既に調理済み。


ポトフを作ると決まってから、部長はレシピをより吟味してきたらしく、味見させてもらうと以前食べた時よりも2段階くらいおいしくなっていた。

どう考えても超割安。多少粗があったとしても30円でこんなにもおいしいのだから文句を言われることはないだろう。

……安すぎるって他の部から睨まれたりしないよね?


そんなことに頭を悩ませながらも部室内で待機していると、廊下から声が聞こえ始める。

果たしてポトフは完売してくれるだろうか。



「お、おわりましたね……」

「うん……」

「結城、生きてる?」

「話し掛けるな……」


あの味あの量で30円は完全にミスだった。

並んでいるからとりあえず自分も並んでみる――そんな日本人の人が人を呼ぶ精神を舐めていた。


また破格だからと、少し小さめの器をチョイスしたことで、大きな鍋の中身をさばくのに想像以上の時間が掛かってしまったのもよろしくなかった。


そして地味にきつかったのがおつり問題。

30円という価格設定の微妙さもあって、おつりを必要とする場面が多く、あわや用意していたつり銭がなくなってしまうのではないかと精神的にも追い詰められてしまった。


まあその甲斐あってか、ポトフを買ったお客さんが展示を見てくれたり、テントに入ってキャーキャー言ってる子供がいたりと、俺達の頑張りも決して無駄ではなかったが。


「ちょっと量を多くして100円でもいけたと思います。話題性はなくなっちゃうので並びはできなかったかもしれませんが」

「あんなにもおいしいのだからな」

「来年への課題」

「でも展示も結構見てもらえたようで、そういう意味ではよかったですね」

「うん」「ああ」


落ち着いたところで一度時計を見てみると、時刻は12時過ぎで1日目の終わりまではまだ3時間もある。


「一応外遊部としては落ち着きましたけど、これからどうします?誰かを残してクラスに合流するってのもありですが」

「私が残る」

「いえ私が残ります」


嫌々ながらに提案してみたが、2人が今ここに残ると言ったのは責任感や相手への思いやりでないということはなんとなくわかる。

だって俺も同じことを思っているから。

ならば素晴らしい解決策があるじゃないか。


「じゃあもうサボっちゃいましょうか」


ごめん曽我……明日頑張るから。


「サボるんじゃない。あくまでこれは外遊部のため」

「ですね。そういえばお腹も空きましたし、屋台でいろいろ買ってきてここで食べません?」

「「賛成」」


さすがにずっと外で遊び歩くのは体裁的にまずいが、運営側だって食事休憩は必要だからな。別に屋台で買い食いしてもおかしいことではないだろう。


「今日も貴様が奢ってくれるんだろう?」


残念なことに今日はあまり持ち合わせが……ってなんで俺が奢らなきゃならないんだ。

今回は別に何もしてもらっていない。

こいつ、夏祭りのことで味を占めやがって。


「いや奢らないから」

「なんのこと?」


もう、結城が火種になりそうなこと言うから!


幸い、部長は夏祭りのことを既に知っているので事情を説明したら納得してくれたが、俺が説明している間、結城は自分で口をすべらせた癖に目を泳がせていた。

夏祭りからの俺の行動のせいで部長繊細期に入ってるんだから気をつけろよ!


「そろそろ行こう」

「「はい……」」


部長に連れられるように、やっとのことで部室を出る。


それからいくつか屋台を回って食べ物を買っていると


「高崎君!」


園芸部の屋台の前を通った折、土御門先輩に話し掛けられる。

部活の説明会でも言っていた通り、花を使った商品を売っているようだ。


「あ、どうも」

「高崎君に会ったら渡そうと思っていたんですがちょうどよかったです。ペチュニアが綺麗と言ってくださったのでしおりを作ってみたんです。読書をされるかは分かりませんが、よろしければ」


栞は黒を背景に、東屋にあった3種類のペチュニアで彩られていた。

おそらく俺がどれも好きと言っていたことを覚えてくれていたのだろう。


「おーすごい綺麗、ありがとうございます。読書は趣味なんで使わせてもらいますね。おいくらですか?」

「いえお代は結構です。売り物ではないですから」


うーん、このままもらうのは悪い気がする。

そこで園芸部が売り物として陳列している物に目をやる。


「あ、じゃあこのお茶買いますんで一緒に包んで貰っていいですか?」

「はい!ありがとうございます!」


包まれたお茶と栞を受け取り改めてお礼を言い振り返ると、額に青筋を浮かべた結城と無表情の部長が俺の顔をじっと見つめていた。

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