橘雪奈の追想
【橘雪奈視点】
私は少し、そう、少しだけだけどコミュニケーションが苦手だ。
そんな私だけど、幼稚園の頃はまだ私に話し掛けてくる人はいた。
私が何をせずとも、向こうから話し掛けてくれて適当に何かして遊んでいたのを覚えている。
でもそれは幼稚園までの話。
小学校に上がってからは、自発的に話し掛けようとしない私の周りには誰もいなくなっていた。
幼稚園の頃、それを他人に任せきりにしていた私はコミュニケーションという面で成長できていなかったと少し言い訳してみる。
しかし別に私は人と話すことも、遊ぶことも嫌いというわけじゃない。
小学2年生になって間もない頃、このままだと友達1人できずに終わってしまうと悟った私はついに近くの席の子に話し掛けた。
最初のうちはよく私と話してくれていた。でも日を重ねるうちにその子は別の子とばかり話すようになった。
それでも私は話し掛けるのを止めなかった。すると
「ゆきなちゃんと話すのおもしろくないからやだー」
ああ、そうなんだ。
私と話すことって面白くないんだ。私はつまらない人間なんだ。
当時そう感じ心を抉られたことを今でも鮮明に覚えている。
一言で自分がどういう人間かを思い知らされた私は、勇気も欲求も根こそぎ奪われ、結局それは高校生になるまで尾を引いた。
しかし高校生になる頃には、1人くらい話せる人が欲しい、なんて想いが少しずつではあるけど私の中で再燃していた。
「あの」
「えっと、なに?」
勇気というよりは少し自棄に近かったかもしれないけど、どうにか私の口からは言葉が出てくれた。
でも話し掛けたはいいがそれは決して計画的だったわけじゃなく、少し返しに尻込んでいるうちにその子は私から視線を切り他の人と話を始め結局会話という会話はできなかった――それが私の高校での第一歩。
それだけでもう心が折れてしまいそう……いやほとんど折れてしまったけど、それはなにも相手が悪いわけじゃない。今まで踏み出さなかった自分が悪いのだ。
つまりその結果は当然の帰結と言えるだろう。
クラスでも部活でも既にコミュニティは出来上がっていて、折れかけの私にとってそれは話し掛ける隙がないも同然だった。
でもまだ完全に諦めたわけじゃない。
私はきっかけを探し続けた。
そしてもうすぐ2年生になろうとする頃、悪魔的な思い付きをしてしまう――それは自分にとって悪魔的なだけだけど。
つまりは否応ない状況に追い込まれれば、私の尻にも火が付くんじゃないのかと。
もしそれを実行するならば、進級時がベスト。
だから今一度踏み出してみようと私は園芸部を抜け、新たに外遊部を設立した。
これが最後の挑戦になる……かもしれない。
そこで私は驚いたことがある。
案外私、話せるのだ。
相手が年下だからなのか、まだ入学したばかりで関係性が初々しいからなのかは分からない。
「こんにちはー」
「いらっしゃい」
「ここはどんな部活なんですか?」
「アウトドアをする」
「……」
「……」
「……そ、そうですか。じゃあ他も見てみたいんで私達は失礼しますね……亜紀、いこー」
最近の若い子は堪え性がないのかすぐに帰ってしまう、なんて少しポジティブ目に考えながらも、少なくとも事務的に話すことくらいならできると私は確かな手ごたえを感じていた。
そして私の頑張りは結実し、なんと我が外遊部に2人もの新入部員を迎えることとなった。
めげずに何度も私に話し掛けてくれた男の子と、私と同様あまり口数は多くないが独特の雰囲気を持った女の子。
ただアウトドアに興味があっただけかもしれないけど、さすがに私のことが嫌ならば入部などしないはず。
つまりは私と話したいと思っているのかも……そう思うと、私は今までになく会話に積極的になれた。人との関わりを避け続けた私は外見しか成長していないと思ってたけど、少なからず小学校低学年の頃に比べれば中身も成長していたらしい。
『部長と話すのおもしろくないです』
そんなことを言われるのではと何度も頭をよぎったが、活動を重ねていくうちに2人がそんなことを思ってなどいないとなんとなくだけど私にも分かった。
そして、外遊部でいることに安心感すら覚えるようになったのはキャンプをしたあたりだろうか。
キャンプ…………あれは大変だった。
不運なことに先生のお酒を飲んでしまった私の視界はふらっふら。
そんな私を心配してか、先生の指示で高崎が私をテントまで運んでくれたけど、もうちょっと、こう、運び方はなかったんだろうか……。
高崎はただでさえ私の中で特別なのだ。
そんな私にとっての初めての男の子にお姫様抱っことか、意識してしまっても仕方ないことじゃないだろうか。
……あれは高崎と先生が悪い。




