表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/88

想いと思いとホットケーキ

「お待たせしました。こちらホットケーキです」


無言の空間を裂くようにマスターがホットケーキを持ってくる。


「高崎も食べる。甘いものは心を落ち着ける」

「はい、いただきます」


本当だ――冷えていた心が芯から暖かくなっていくのを感じる。


「ん、おいしい。それにこの紅茶、とてもホットケーキに合う」

「紅茶ってホットケーキに合うんですね。俺もいつかその良さがわかるようになりたいもんです」


今の状況には、ホットケーキという部長のチョイスは最良だったかもしれない。

甘さだけでなく、その優しい味が場を和ませてくれているようにすら感じる。


そうして2人でホットケーキをある程度堪能していたところで部長が話し始める。


「事情があることはわかっていた。それなのに、頼ってもらえなかったことも、何もできなかった自分に対しても悔しくて腹立たしくて、そして感情的になってしまった。ごめんなさい」

「いえ、俺の方こそ本当にすいませんでした」


部長が謝ることではない。


もちろん今回の場合状況が悪かったといえばそうなのだが、もし3人の中で責を負う人間をあげるならば俺以外にはありえない。部長も、そして結城にも悪いところなど微塵もない。


「高崎が無事なことはもう何度も聞いたから聞かない。でも結城も言った通り、自分の事をもう少し大切にして」

「……わかりました」


これを言われたのは3人目だ。

もちろん自分がケガを負った結果からきた言葉なのは分かっている。


そもそも普段からそこまで自分の事を意識することはないが、それでもある程度は自分のためを想い行動しているはずなのだが……。


自分と他の人とではどこまでの違いがあるのだろうか。


「これでこの話は終わり」

「はい」

「……ねえ、なんで高崎は幼馴染のことが苦手なの?」


唐突な質問にコーヒーが器官に入り咳き込んでしまう。


「ゴホッ、ゴホッ、すいません、ゴホッ」

「落ち着いて」


前は苦手と言っただけで、理由までは一切話さなかったんだよな。


中学でのことは誰かに話したい事ではない。

結城に話した時も、ただ当時のことを話しているだけなのに口を開くたびに俺の中に不快感が広がった。


今も紅葉との付き合いが続いてるといっても、あれは既に過ぎ去ったことであり部長に話さなかったとしても問題はない。


しかし、不快感が広がるからなんだというのだ。

それはいくらでも償おうと考えていた俺の前ではただの我が侭(わがまま)でしかない。


それに以前助力を申し出てくれた部長が聞きたいと言っているのだ。話す必要性としてはそれだけで十分なのだろう。


だから俺は結城に話したことをなぞるように部長にも話し始める。


「そう」


俺の話を聞き終わった部長は考え込むように紅茶をすすっている。


「今でも話すの?」

「はい」

「なんで?」


なんでだろう……それは俺の中で明確な答えが出ていない問い。


事件の風化や体裁に感情が引っ張られてるというのはこの問いに対しては適切でない気がする。

部長が聞きたいのは、俺の体裁そのものの存在理由。

さかのぼればそれは、俺が紅葉達と今まで通り接しようと決めた中学の時の俺の考え。


当時は、無視することで生じる不利益を恐れ、無意識下で防衛本能が働いたと考えたわけだが、その時ですらそれが正しかったのかは分かっていなかったし、時が経った今ではなおのことだ。

高校に入ってまでこんなに思い悩むならば、鉄が熱いうちに考え抜いておくんだった……。


ああ、でも中学の時のファーストインプレッションと同じと考えれば、今も話し続けているこの状況と合致はする。

もし今いきなり紅葉を無視するようなことがあれば俺はクラスから、少なくとも女子からは総スカンをくらってしまうだろう。


つまりは学校での自分の立場を守るためと考えるのがやはり収まりが良い。


「う~ん自分でも良く分かってないんですけど、自分の立場を守るため、ですかね?もちろん今でも話したいわけじゃないですし、いっそのこと『話し掛けてくるな!』なんて思うがままに言いたくなる気持ちはあるんですが、心がそれを実行することを許してくれないといいますか……」

「そう」

「でも今言った通り一緒にいたくないことは間違いないはずなんです。だから、部長を使うみたいで申し訳ないんですが、もしものときは頼りにしてます」

「そのつもり、まかせて」


ピースしている。

この人は本当に……。


「何を笑ってるの?」

「いや頼りになるなって」

「む」


馬鹿にされてると勘違いしていまったようだ。怒ってしまった。


そんな顔を見ながら、一度時計を確認した俺は既にいい時間になっていることに気付く。


「そろそろ遅くなってきましたし帰りましょうか。今日は俺が奢りますよ」

「私が奢る。高崎は私を頼らないの?」


部長、それは頼るとは少し違うと思います……。


結局部長は折れなかったので、割り勘ということでどうにか話はまとまり店を出たが、既に日も沈んでおり、部長を家に送っていくと話したところでまた一悶着あったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ