置いてけぼりの部長
いきなり結城に抱き着かれ、俺はフリーズする。
「ありがとう」
しかし、その言葉で抱擁の意味を知る。
そう、先程部長が、俺が階段から落とされたことや病院送りになったことを喋ってしまったのだ。
それらのピースを繋ぎ合わせ、今回俺がどういう手段を取ったのか結城なりに考えたのだろう。どこまで事実に近づいたかは分からないが、ここまでの行動に出ることからも近からずとも遠からずと言えるほどには辿り着いたと考えるべきだろう。
「だが、もう二度と自分を危険に晒すマネはするな」
身体を少し離し、目を見合わせた状態でそう言ってくる。
めんどくさそうな、敵対心剥き出しな、そして人をどこか嘲っているようないつもと違い今の顔は真剣そのもの……というか目がギラギラしていてちょっと怖いんだけど。
「悪かった、もうしない」
父さんだけでなく結城からも怒られてしまった。
病院送りにまでなってしまったのは自分の見込みの甘さによる結果だが、まさか結城に心配される日がくるとは思わなかった。
……でも結城がもし正確に俺のやったことにまで辿り着いているのなら、俺が取った手段も、そして浅慮による失敗まで把握されていると仮定すると……気まずい。
「本当にもう大丈夫なのか?」
「医者のお墨付きだから」
「そうか」
お互いに落ち着きを取り戻し再度結城を見ると、後ろで固まって動かない部長が目に入る。突然の出来事に頭から抜け落ちていたが、部長を完全に置いてきぼりにしてしまった。また「私だけ仲間外れ」なんて言われるかもしれない。
「部長、すいません。もう大丈夫です」
「……」
なおも動かない。
結城も固まった部長に気が付いたようで俺から意識を外す。
どう切り出したものかと考えているのだろう。
「何が……あった?」
誰も言葉を発せない中、ようやく部長が口を開く。
結城のことを言うわけにはいかない、どう説明したものかと頭を悩ませていると
「高崎が私のことを助けようとして、その結果ケガを負いました。先程のは感謝による行動と思ってください」
結城がかなり大まかにではあるが、あっさりと打ち明ける。
しかし、部長とついこの前あんなことがあったばかりなのに、今回意図的に事情を話さなかった。部長と結城については問題ないだろうが、部長と俺には禍根が残る結果になるかもしれない。
ん?高崎?……いや今はそんなことどうでもいいな。
「そう」
部長がどういう感情でその言葉を発したのかは分からない。
だからだろうか。どう切り出せばいいのか分からない。こんなことは久しぶりだ。
何か言わなければいけないことは分かっている。それは部長のためであり、そして俺のためにも。
憩いの広場や東屋は学校での俺の居場所の1つと言えるが、あれと外遊部とでは根本が違う。あの2か所に関しては、あくまで『俺一人』という条件の元での居場所なだけだ。
つまり人と関わることを前提とした俺が気の休まる場所は外遊部が唯一。そんな場所を失いたくないと思いはするが言葉が出てこない。
「わかった。とりえあず部活を始めよう。2人とも、今日から目途がつくまでは高頻度で集まるからそのつもりで」
「「はい」」
無事、というわけではないだろうが部活が始まる。
「予定してた通りこの前のキャンプで写真は撮ってきた。その写真を交えながら、用具の説明や使い方を紙に書いて、道具と共に展示していく。でもそれじゃ私達以外の満足度はきっと低い。だから前言っていた通りキャンプ飯も作って配る。あと集合写真だけはまだ取ってないから、先生が大丈夫なときにみんなで撮るから」
「まあ、展示に関しては時間をある程度かければ問題なくできると思います。あとはキャンプ飯で何を作るかですよね。正直キャンプ飯って言っても、キャンプで作るからキャンプ飯なだけであって、特別な料理があるってわけじゃないですよね」
「うん……それにお金を掛け過ぎるわけにもいかない」
そう、キャンプといえば真っ先に思い浮かぶ肉料理なんてもっての外。質の悪い肉を少人数にしか配れないなど愚の骨頂だろう。
「お金ってどのくらい取るんですか?」
「タダ……といきたいところだけどそれだと収拾がつかなくなるかもしれないし、体裁としても良くない。でも取りすぎはお客さんが来ないかもしれない。苦い経験も思い出にはなるかもしれないけど、どうせならいい思い出にしたい。だからほんの少し、雀の涙程でいいから取るつもり。幸い6月から使っていない部費も余ってる」
つまり利益度外視というやつだ。
今年いい経験をし、来年は利益を追うというのも面白いかもしれない。
「ならば、最初のキャンプで部長が作ったポトフでいいんじゃ?おいしかったですし、材料費を考えてもスープでかさ増しできますし悪くない気がします。初めてのキャンプで自分達が食べた物っていうもっともらしい理由もありますし」
え、結城頭おかしくなった?なんで自分から意見を出したの?なんでまともな意見がお前の口から出てくるの?
部長ですら驚きで固まっちゃったじゃん。
動物性の強烈な匂いで釣るなんてことはできなくなるが、それがベストな気がする。
「「それで」」
こうして、何を提供するかはまさかの結城の考えにより無事決まったのだった。




