結城幸のおわりとはじまり
【結城幸視点】
「で、明日学校来れそう?」
ご飯を食べ終わって一息着くとそう切り出してくる。
「ああそのつもりだ。もう大丈夫なんだろう?」
「まあ100%とは言わないけど大丈夫だと思うよ。もし万が一何かあったらまた言って」
そう言うと男はケータイを操作し始める。
認めたくはないがつい先程まで私はあの3人の事が怖かったはずだ。しかし、万が一があるかもしれないと聞かされても、既に私の中ではあの3人の存在など些細なものとしか感じなくなっていた。もしもまた私に手を出すことがあるならば、次は誰が折れてやるものか。どんな手段をもってしても排除してやる。
精神的支柱を得た私は、初めて強さを得ることができたのかもしれない。
「あ、返信きた。結城が明日は学校来るみたいって部長に送ったら明日から早速部活だってさ。結城が来るまではって部活も1週間以上延期してるんだから明日ちゃんと部長にも謝っとけよ」
「ああ」
それからもう今日は帰ると男はそそくさと家を出て行った。
▽
次の日、私は男と話した通り登校した。
そして今は放課後となり部室へと向かいながら今日のことを思い出す。
率直に言えば、放課後になるまで問題はなに1つとして起こらなかった。
それもそのはずで、3人のうちの2人はうちのクラスだが両名とも登校していなかったのだ。
「あれ、加賀美今日休み?」
「あんなことがあったからな。2人とも停学だってさ」
そんなクラスの人間の話が聞こえてきたことで初めて停学になったことを知る。あの男がうまいことイジメでも証明したのだろうか……でもどうやってだ?方法が気になるな。
なんて疑問も浮かんだのだが、結局それ以上のことは分からず放課後を迎えることとなった。
そんな回想をしているうちに部室へと着き、扉を開けると部長がいつものようにポツンと座っていた。その光景を見たのはまだ数える程しかないはずなのに、見慣れた光景だなと少し笑いそうになってしまう。
そして、緩みそうになった心を引き締め
「すいませんでした。ご迷惑をおかけしました」
謝罪の言葉を口にする。
「大丈夫?」
「はい、もう心配ありません」
「ならよかった」
私のせいで部全体に迷惑をかけてしまったのだ。男に言われたからではない。これは言わなければいけないこと。
謝罪と、そして感謝の念とともに部長に頭を下げる。
確かに今の私とってこの部にあの男がいることは大きい。
しかしそれを抜きにしても、私は決してこの部が嫌いなわけではないのだ。
「これからお前には馬車馬のように働いてもらうからな」
すると後ろから男が部室に入ってくる。
「高崎、本当にもう大丈夫?」
「あ、はい。連絡した通りもうピンピンですよ」
部長は人のことを心配してばかりだな。
……ん?なぜ男のことを心配する?
「この男になにかあったんですか?」
「あ」
「結城は休んでたから聞いてない?高崎は階段から落とされて、病院に搬送された」
……は?
そんなこと私は聞いていないぞ。
一体どういう……そこで私は一つの結論に辿り着く。
この男が話そうとしなかった理由、奴らが停学になった理由、私を助けた方法。
「貴様」
気まずそうに苦笑いを浮かべる男。
その顔を見てしまった私の体はもう動いていた。
「「な」」
逡巡すら挟む余地の無い反射的行動。
一拍置くようにして、私が今男に抱き着いているのだと気付く。
しかし、そんな私の行動よりも今はこの男だ。
なぜ貴様はそのような方法を取ったのだと怒りたい気持ちはある。
大丈夫なのかと心配な気持ちはある。
しかし今の私の多くを占めているのはそれではないのだ。
「ありがとう」
助けてもらっていながらに、私は男にお礼すら言っていなかった。
男を一方的に精神的支柱に祀り上げていただけだ。
高崎悠、私は貴様と共に在りたい。それは享受するだけの関係性でなく、私からも貴様に与えてやりたい。
そう、望むものを与えることができるのは私だけだ。
だって、私は貴様の唯一の理解者なのだから――。




