嘘と本当と…
病室には父さんと2人きりになり、少しの間沈黙が場を支配する。
先生と一緒にいたのだからある程度は先生から事情を聞いていると思うが、父さんにはどう話すべきだろう……いや本当のことは話さない方がいいか。
心配をかけないための、人を思って吐く嘘を俺は必要悪だと思っている。
「ごめん、心配かけた」
「先生から話は聞いているが、何があった詳しく教えてくれ」
「俺は……」
嘘を吐くと決めたはずのに、俺の口からは続く言葉が出てこない。その代わりというばかりに俺の目からは涙が溢れてくる。
「必要な事だった。ただただ知り合いを助けたかったんだ。でも俺の見積りが甘かった。これくらいなら大丈夫なんて高を括ってた。それでいろんな人に心配かけて……本当にごめん……」
後悔か安堵か、それはどういう感情に由来した涙なのだろう。
そんな父さんへ向ける感情に揺り動かるように口が勝手に動いてしまう。
話すつもりなどなかったはずなのに。
そして、ひとしきり泣くのを父さんに見守られ、少し落ち着きを取り戻した頃、事の顛末を父さんに話した。
「誰かのために行動できることはとても尊いことだ。悠のその優しさを私は誇りにすら思う。だがもう二度と自分の身を危険に晒すマネだけはするな。確かに悠の体は悠だけのものだ。親だからといって指図する筋合いはないのかもしれない。それでも私は悠と紗由の2人が何よりも大事だ。お前に何かあれば悲しむ人間が確かにいることだけは覚えておいてくれ」
「うん……」
結城を助けたかった。だがその代償が今の父さんだ。
どこで間違えた。
俺は自身のことが大切なはずだ。父さんもああは言ったが、俺の命は俺1人のものではないと思っている。しかし、もしかしたら心のどこかで自身を軽んじているのかもしれない。
もう二度と大切な人を悲しませないためにも、今一度しっかりと意識に刷り込まなければならない。
▽
その後父さんには、理由はどうあれ他者を陥れることがどういうことかを説かれ、しっかりとお灸を据えられた。
そんな父さんも会社を飛び出してきており、無事と分かった以上長居するわけにもいかず会社に戻って行った。
そして翌日、俺は問題なく退院となった。
病院で受付を済ませ、今は目的なしに歩いているがこれからどうしよう……。
先生には学校に来るなと止められているのだが、医者にはもう大丈夫と言われているし、本当なら学校に行って早いことあの3人に釘を刺しておきたい。
……はぁ、何を急いているんだろう。別にあいつらが逃げるわけじゃないし、結城だって1,2日くらいなら待てるだろうに。
心配してくれた先生に休養を言い渡され、自分を大切にすると決めたはずなのにもうその意識は希薄になっていた。ここは大人しく家で安静にしておくべきだろう。
そう思い俺は家へと歩を進める。
普段ズル休みすることもなければ、病気で学校を休むなんてことも小学生以来ない。最近で休んだとすれば中学の修学旅行くらいだ。
だからか、同級生が今も学校で勉強をしていると考えると、ただ歩いているだけなのにどこか背徳的ですらあるな。
そして、自分の家がある住宅街まで戻ってくる。
「悠~!」
……嘘だろ。
やっと家だと安心感すら覚えた折、聞こえるはずのない声が聞こえてきた。
いや、今のは幻聴、そう幻聴だ。今は授業を受けているはずなのだ。普段の苦手意識とストレスが原因かも。
……もしかしたら頭を打ったことで脳に障害が?
どちらにしろ、家で安静にすべきだ。
だから振り向く必要はない。
「悠!もう、心配したんだから!」
幻聴が肩を触ってきた。
はぁ、なんだかまた頭が痛くなってきた。
「なんでいるの?」
「悠が心配だったから!昨日悠が階段から落ちて保健室に運ばれたって噂を聞いて、私も保健室に飛んで行ったんだけど先生が入れてくれなくて」
先生!いやもう女神様だよ!
あの状態で目を開けたら紅葉、なんて想像するだけでやばい。
錯乱、発狂、記憶喪失なんてことも……言い過ぎか。
まあ先生としては安静にさせたかっただけかもしれないが、もしかしたらキャンプで俺が紅葉の事を苦手と言ったことを覚えていたのかもしれない。
「で、なんともなかったの!?」
「あーうん。検査も受けたけどもう大丈夫だって。一応今日は家で安静にってことになったけど。だから――」
「よかったー。今家に誰もいないんでしょ?何かあったらいけないし、私がお世話するから悠はゆっくりしてて」
その時点でもう安静でもなんでもないんだけど?




