自責
「……ん、ん~」
なんだ?すごく体が重いし、頭が痛い。
あれ、俺今何してんだろ。
「高崎!気が付いたか!」
この声誰だ?
「大丈夫なのか!?」
……ああ、少しずつ思考が明瞭になってきた。俺は階段から落ち受け身も何も取れず、おそらくは頭を床に打ち付けたのだ。
どうやら生きていたらしい。よかった……。
「すいません、大丈夫です。頭は割れそうなくらい痛いですが」
「何があった」
「あれ、加賀美達から聞いてません?」
「もちろん聞いたさ。高崎が落ちた階段の上に加賀美ら3人がいたって目撃証言がいくつもあったからな。あいつらはお前が突然自分から階段を落ちたと」
「んなバカな」
ごめんなさい先生。ここで俺が先生に真実を話すわけにはいかないんです。
さて、どう説明したものか。
ある事ない事言うのはさすがにまずい。あの時の会話から外れない証言をするべきだ。
不本意ではあるが端から退学させようと目論んでいるわけではない。人間追い詰められれば何をするか分からないしな。
だからあくまで階段を落ちた要因が相手の行動によるものとだけ認識してもらえればいい。それで俺が責任の一端を担うことになった場合はしょうがない。
「あいつらと口論になって、それが少し白熱し過ぎて早田に突き飛ばされたんですが、感情的になっていた分向こうも力加減を間違ってしまったようで勢いのままに階段を落ちちゃいました。まあ半分は事故のようなものです」
こんなにも心配そうな顔の先生に嘘を吐くのってかなりきつい。
……本当に、本当にすいません。
「そうか。まあそんなところだろうと予想はしていた。自分から落ちるなんて意味が分からないからな……だが一応聞いておく。自分から落ちた、なんてことはないんだな?」
「ありません」
「そうか、わかった。しかし意識を失ったということは頭を打ったんだな?」
「はい、たぶん」
「ではこれ以上の話はまた今度だ。既に救急車は呼んであるし、高崎の親にも連絡しておいた。お前は大丈夫と言ったが病院でしっかり検査を受けろ。頭を打つということはそれだけに油断できないことだ」
この場所から時計は確認できないが、救急車を呼んでまだ着いていないことを考えると、どうやら俺が意識を失ってからそこまでの時間は経っていないらしい。
しかし自分の見積もりの甘さに本当に辟易する。『これくらいの段数なら問題ない、なんとかなる』なんて考えていた自分を殴ってやりたい。
先生と家族に多大な心配をかけただけでなく、最悪の場合死んでいたかもしれない。
「本当にすいませんでした」
「今は何も考えるな。救急車が来るまで私が傍にいる。何かあれば言ってくれ。とにかく今は安静にしていろ」
あいつらに会う前に病院送りだな。
ちゃんと忠告して初めてこの作戦は完遂となるのだが、それまでは結城に連絡するのも見送りだな。
だから今は人の心配よりも自分の心配だ。正直先生と話してからずっと俺は怯えている。もしも取り返しのつかないことになったらどうしよう、と。
この恐れは病院で検査を受けて結果を聞くまでは薄れることはないだろう。
はぁ、本当に格好がつかないな……。
それからまもなく救急車が到着する。
どうやらそのまま先生が同伴してくれるらしく、共に救急車に乗り込む。そしてどこの病院に運び込まれるかを救急隊の人に確認した後、父さんに連絡をしてくれた。
そうして運び込まれたのは大学病院。診察やCT検査を受けている間、基本的に俺に話し掛けてきたのは年配の医師だったが、後ろに若い白衣を着た人間を何人も引き連れ、その人達に説明しながらの進行となった。
おそらく教育の一環なんだろうが、まるでモルモットになった気分。
そして一通りを終えると、問題なしと告げられ俺は一応の安心を得る事ができた。しかし意識を失ったこともあり1日は病院で経過観察をするという旨を告げられそのまま病室へと移動すると、そこには先生と父さんが待っていた。
「悠、大丈夫なのか?」
俺の顔を見るなり父さんが問うてくる。
「うん、一応検査では問題ないって。でもここにいるってことは聞いてると思うけど検査入院することになったから」
俺の返答を聞いた父さんと先生は息を吐き一安心というところだ。
「では、私はこれで失礼します。高崎、問題なかったとしても明日は学校を休め。もし病院からそのまま学校に来るようならば私が送り返すからな」
「はい、ご迷惑おかけしました」
そう言って先生は病室を去って行った。先生は結構変わった人だとは思うのが、外遊部に入ってから今日まで本当にお世話になりっぱなしだ。俺の頭が上がらない人リストに名を連ねる数少ない人間になってしまった。




