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虚飾性男子は恋すら喉を通らない  作者: 久栖ガマ
1章 それぞれの出発点
7/88

軌跡

「行ってきまーす」


2010年春、涼修(りょうしゅう)高校への入学を決めていた俺は、入学式へ向かうため自宅を出て歩きながら、この高校に通うきっかけになった頃の事を思い出す。



冤罪をかけられ、特に何をするでもないまま過ごしていた日々から立ち直り、いや開き直りつつあった折。俺はこれからの過ごし方を毎日のように考えていた。


冤罪をきっかけに部活を辞め、誰かと遊ぶこともなくなっていた俺は好き放題時間を使えるようになっていた。


では何をするのか。

以前ならゲームが最有力候補だっただろう。だがそうはならなかった。明確な理由は分からないが、プレイしても以前のように面白さなど感じることもなく電源を消す。そんなことを数度繰り返す内にゲームに対する興味も失せたのだと悟った。


では何をしようと改めて考えようとした時、少し思考が逸れる。高校受験についてだ。今のままではこのままいけば中学の同級生が一定数以上通うような高校に自分も進むことになるだろう。それを避けるならば遠方の高校という手もあるが、なんであいつらのために俺が妥協しなくちゃいけないんだという想いと、なにより父さんにより金銭的な負担を強いるのではないかと思い、それは避けたかった。


そこでふと思い出す。自宅の最寄り駅である西鳩(にしばと)駅から電車で3駅と比較的近隣にあり、私立なのに学費が安いと聞く高校のことを。しかも自分の通う中学から毎年多くとも1、2人しか進学していないおあつらえの条件。

そんな夢のような高校、なぜ真っ先に思い浮かばなかったのか。それは自分には見合わない学力の高さ。学力は県内でも上位、この近郊であれば間違いなく最上位。クラスでも割かし上位程度の自分では手が届くことはないと、中学校入学当初1度結論付けていたからこそだった。

しかし、そう結論付けた時とは状況も想いも全く違う。今の自分には潤沢なまでの時間があるのだ。目指すのだ、涼修高校を。


そうして、俺は思い立ったが吉日と早速勉強を始めた。志とは裏腹に最初は辛さを感じていた勉強だったが、打ち込み続け習慣化する頃には楽しさすら感じるようになっていた。



そんなことを考えているうちに俺は西鳩駅へと差し掛かっていた。


『友達100人できるかな』


なんて希望に満ちた高校生活に思いを馳せる者もいるだろうが、俺にそんな思いはない。

確かに中学の頃の同級生と違う道を歩みたかったから涼修高校に進学したのだが、だからといって心機一転友達が欲しいともあまり思わない。


家族は信頼できる。俺のことも信頼してくれる。


だが友達は決してそうではなかった。中学の頃のやつらが特別薄情だとは思わない。友達という関係性には自分が求めるような信頼など生まれないのではないだろうか。

そしてそれは恋人にも言えることで、信頼とは家族だからこそ構築できるいものなのではないだろうか、そんな考えが俺の中では確かなものとして根付いていた。


それにしても、この時間帯に電車に乗るのは新鮮だな。

中学の頃は徒歩通学であったし、そもそもこの時間帯だけでなく電車に乗る事自体が少なかった。せいぜい友達と遊ぶ時にたまには大きな街へ繰り出そう、そんな時だけだった。


電車は通学・通勤時間帯ではあったが、テレビで見たことのある都会の満員電車というほどではなかった。まあ座席はもちろん埋まっているし、入口付近の立ちやすそうな場所も全滅ではあったが。

入口から座席の前に移動し、つり革を持って特に何か考えるわけでもなく外でも眺めようとしたところ、自分と同じ駅から乗った松葉杖をついたサラリーマンが少し遅れてやってきて自分の2つ右隣に立ったので少し意識を向けた。その人は片手に松葉杖1対を抱え、もう片方の手でつり革を持ち片足を浮かせて立っていたので少し不安定のように感じられる。

これを見てしまっては、誰か席譲らないのかよと咄嗟に浮かび座席の方へ向き直る。まあこういう場合であっても『なぜ譲らないといけないのか』というドライな意見をネットでもよく見かけるし所詮はそういうもんかと納得しそうになったところで、サラリーマンの前方に座っていた女学生が席を立とうとしているのが目に入った。次の駅までまだ5分程はかかるこの位置で立つのだから席を譲ろうとしているのだろうと瞬間的に思い至る。だがその子が席を立ったと同時に俺の右隣にいる男性がおそらく座るために踏み出そうとしているので、あーあと思ったのだが、その子が鋭い目つきで睨みつけると男性は俺の隣まで戻ってきた。

いやこわ……。

位置的に自分が睨まれたような錯覚を覚え、俺までビクッとなってしまった。だがそんなことは何処吹く風と女学生は無言で立ち去り、少し離れた場所へ移って行った。


「どうぞ」なんて一言もなく不愛想ではあったが、一拍置いてサラリーマンは無事席に座りこちらを既に見ていなかった女学生に向け頭を下げ一礼していた。


それにしてもあの子の着ていた制服もうちの高校のだったな。

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