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感情と認識の違い

すすり泣く声が聞こえてくる。

あの時とはまるで違う。

結城のアイデンティティともいえる傲慢さは既に見る影もない。

何が、誰が結城をここまでおとしめた。



俺はこの家を訪れてから結城のあまりの状態の悪さに平静を装うので精一杯だった。

俺の態度でさらに追い詰めたりしていないだろうか。何かできるのことはないのだろうか。俺は反芻し続けた。


そうしてあと1時間もすれば日を跨ごうとする頃合


『なら貴様は私が助けてと言えば助けてくれるのか』


結城はそう口にした。今日見た中でもより一層弱々しい。しかし希薄な感情が続く中でその言葉には確かに意志が感じられた。


考えるより先に俺は助けると口にしていた。

結城の言葉の真意を汲み取ったわけじゃない。でもそう口にした後でも分かるのは助けないという選択肢はないということ。

結城はまるで確認するかのように、さらに俺に言葉を投げかける。事情を話して俺が手の平を返すことが怖いのかもしれない。なぜここまで……あの頃の俺もこんな顔をしていたのだろうか。いやそれでもここまでひどくなかった気がする。


先程からの誰にも期待していないようで誰かに助けを求めているような痛々しい態度は、決して軽い気持ちで踏み込んではいけないことを表している。俺が言った助けるという言葉には大きな責任が伴うことになる。


それでもさらに踏み込む。確かに俺と結城の関係は濃くもなければ良好とも言えないかもしれない。だが誰かがいてやらないともうダメなところまで来ているのだ。


そうして結城は長らく閉ざしていた口を開く。語られるのは信じたくないと思えるほどに想像を絶するもの。聞いているだけで怒りを抑えることができず口の中に鉄の味が広がる。

話したこともない人間に理由もなく囲われ息ができないほどの暴力を振るわれる毎日。それは女の子に、いや人間に対して行っていい所業ではない。


そんな辛いことを話しているというのに結城は気力を振り絞り話を続けてくれた。

そして最後に


「助けて」


泣きながらそう呟いた。



「落ち着いた?」

「ああ」


どうにか元気づけてやりたい気持ちはあるが、どうすればいいだろうか。俺と結城の関係性を考えるならば浮かんでくるのは挑発混じりのものばかりだが、さすがにあの話を聞いた後だと憚られる。いや、むしろいつも通りの方がいいのか?分からない。


「おい」

「え、なに?」


俺が悩んでいると結城から話を切り出してくる。


「なぜ私ばかりが話さなければならない。貴様だって隠していることがあるだろう」

「え?」

「私を舐めているのか?」


何言ってるの?隠してることって俺の中学時代のこと?

少し調子を取り戻したかと思えばそんな事が聞いてくる。まあ確かに弱みを自分だけ見せるのは結城の性格からしたら耐え難いのかもしれないが。


「えっと、それってたぶん俺の過去のことでしょ?さっきの話の後だと見劣りどころじゃないんだけど」

「いいから話せ」


ハァと嘆息し、観念した俺は中学の頃の事を話し始める。俺にとっては今でも尾を引くくらいの辛い出来事だったんだから鼻で笑われたらへこむよ俺。


「そうか」


俺の話を聞いて発したのはその一言だけ。少し待てば何か返ってくるかとも思ったが何も返ってこない。


「感想は?慰めてくれたりしないの?」

「なぜ私が貴様を慰めなければいけない。もう用は済んだ、私は寝る」


そう言い俺に背を向け布団に入る。


結城に事情は聞けたがもう深夜だ。頑張れば歩いて帰れないこともないが現実的ではない。それに今の最優先事項はイジメの解決策を考えることだが、いかんせん眠くて頭の働きがかんばしくない。さすがに結城の布団に入り込むわけにもいかないし、しょうがないからフローリングにそのまま横になる。少しでも寝れれば頭の中にかかったもやも晴れてくれるだろうが、果たして布団の中でしか寝たことのない俺に寝れるだろうか。



ペチッ、ペチッ


「貴様いつまで寝ている」


なんか痛いんだけど……。


「おはよ」

「よくもそこまで熟睡できるな」


それにしてもなんでうちに結城が……ってそうだった。


しかし昨晩の俺の心配はどうやら杞憂だったようだ。頭も爽快。これでやっと思考に専念できる。


「で、今何時?」

「自分で確認しろ」


そう言われて指さされた先にある時計を見る。

10時……10時?え?


「ちょ、なんで起こしてくれなかったの!」

「今起こしてやっただろう」


もー!こいつ本当にかわいくない!

慌てて荷物を持った俺はすぐに玄関に向かう。


「まあ家でゆっくり待ってて、俺がなんとかするから。あと学校への連絡と飯だけはちゃんと食えよ。それじゃあまたな」


そう言って俺は急いで学校へと向かう。

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