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結城幸の運命①

【結城幸視点】


高校に入り、夏休みが終わるまでは何事もなく過ごせていた。

自分のクラスでは中学の頃のようにもう誰も関わってこようとしない。

予期せず入ることになった部活動では、悩みの種のあの男こそいるものの悪くはないと思える日々を過ごすことができていた。


だが、そんな日常は唐突に景色を変える。


「おい結城、ちょっと付いてこいよ」


2学期が始ったかと思えば、3人の男子生徒が私にそう話し掛けてくる。やけに馴れ馴れしくまるで知己ちきの仲のようではあるが、こいつらとは一度として話したことなどない。


内2人は下卑げびた顔を、1人は嫌悪を顔に張り付けてこちらを見ている。

こいつら3人の顔には見覚えがある。名前までは覚えていないが2人は私と同じクラスの生徒で、もう1人も別クラスとはいえよくこのクラスに来ている生徒だ。

今下卑た顔を浮かべている2人が、嫌悪顔の取り巻きのように見えていた印象がある。


「断る。何か用があるならばここで言え」


何の用かは知らないが、こんな表情をした人間の呼び出しなどまともな要件とは思えない。万が一本当に何かあるならばこの場で言えばいいだろう。そう思ったのだが


「いいから来い」


そう言い無理矢理に私の手首を掴み歩き始める。

どうにか抵抗しようとするも男に勝る程の力があるわけではないため簡単には振り解けない。それでも大人しく従うつもりはなくさらに強く抵抗したが私の手首を締める力は強さを増し、我慢できない程の痛みが襲ってきたことで観念した私は男達に付いていくことにした。


そうして連れて来られたのは普段使われていない、とても狭い空き教室。


「何の用だ」


パンッ!


要件を問い掛けた直後、突然教室に乾いた音が響き渡る。

……何が起こった?なぜ私は床に転がっている?

一瞬のことに何が起こったのか理解できていなかったが、だんだんと頬が熱を帯び始め、懐かしい感覚が蘇ってきたことでようやく何が起こったのか理解する。


目の前には私の頬を叩いた直後であろう状態の不機嫌そうな男が立っている。


「貴様何のつもりだ!」

「……」


私は怒りをあらわにし、強い口調で男に言葉を投げかけるが男は黙ってこちらを見下ろしている。


「お前ずいぶんと強気だけど震えてるの気付いてる?」


すると取り巻きの1人がそんなことを言い始める。

私が震えている?そう言われ自分の手を見て初めて自分が震えていることに気づく。

別にこいつらの事が怖いわけじゃない。これはきっと痛みによる反射的なものだ。


「話を逸らすな。何のつもりだと聞いている」

「いや俺達お前のこと気に食わなくてさ、顔見るだけでイライラするんだよね。だからもう学校に来ないでもらっていい?な?」


そんなことを言ったかと思うと、私のお腹に蹴りを放つ。

すごい衝撃がお腹を襲う。こんな痛み知らない。お腹を蹴られた勢いで私の肺から空気がすべて押し出され、呼吸をしようとしてもうまく空気を吸い込めない。私が小学校の頃に受けたお腹への攻撃はこんなにも強烈なものではなかった。


……だめだ、早く立たないと。この場を離れないと。

そう思うのだが私の足は震えるばかりで動いてくれない。


「別に俺ら難しいこと言ってないよな?転校すれば済む話だし」

「こいつのことやっちゃっていいんだよね?」


男の言葉を理解した私は言い知れない恐怖に襲われる。

嫌だ、近づいてくるな。

だが逃げ出したい心とは裏腹に、体も動かなければ声も出てくれない。

もうだめだ。そう一瞬諦めが心を占めたとき


「それ以上はやめとけ、胸糞わりぃ。もういい、行くぞ」

「で、でも!」


抵抗を見せる取り巻きを目でけん制し、観念したのか3人が教室の出口へ向かう。


「こうなりたくなければ二度と学校に来ないことだ」


その言葉を残して男達は教室から去っていった。


残されたのは床にへたり込んだ放心の私だけ。

安心からか私の頬を涙が伝う。


意味が分からない。関わったことの無い人間に呼び出されたかと思えば唐突に暴力を振るわれた。

奴らが私にしたことは卑劣で苛烈ではあったが、致命的と言える場面で引き下がったのは助かったと思う反面私をさらに困惑させた。


確かに私は愛想のいい人間ではないがこのようなことをされるいわれはない。

小学校の頃はまだ原因が理解できたが、これはあまりに唐突に過ぎる。

ちょっと気に食わなければ暴力に訴える、奴らの人間性がそういうものとでも言うのだろうか。


私自身がどう変わろうが、お前の運命は不可逆なのだと嘲笑あざわらわれている。

あまりの理解不能な出来事に私はそんな突飛な考えすら浮かぶのだった。

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