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ブーメラン

少し暗い雰囲気になってしまったし、部長を悲しませてしまったことは事実だ。なにかしらの埋め合わせはしておかないと俺の気も済まない。


「そういえば学校から少し歩いた所においしい喫茶店見つけたんです。今度よかったらそこ奢らせてください」

「どういうところ」


部長は知ってるかな?

もしかしたら地元の人ぞ知る人気店ってことも……いやそれならもっと客がいるか。しかし、部長が住んでいる町にあることには変わりないし、名前くらいは聞いたことがあるかもしれないな。


「部長は知ってるかもしれませんね。ストレイシープっていう喫茶店なんですけど、夏休みに行ったら気に入っちゃって」

「聞いたことない。それはお詫び?」

「正直に言えばそうです。俺としては言葉だけじゃなく行動で返したいと思う部分がありますし、あとはこれからお世話になる迷惑料と思ってください。予定は部長に合わせるんでいつでも言ってください」

「わかった、楽しみにしてる」


なんとか部長の表情も和らぎ、これで一安心というところだ。


しかしよくよく考えてみると俺は外遊部での部長しか知らない。確かに多弁ではないが、案外意欲的で行動的な人だ。俺達以外でも話せる相手はいるのだと思い込んでいたが、夏祭りに出る事なく帰ったことからもしかしたらそうじゃないのかもしれない。

まあこれは勝手な推察でしかなく、現実にはクラスで人気者という線も消えてはいないが。


「青春だな」

「先生には遠い昔の出来事ですね」

「……」


効いてる効いてる。

さっきのお返しはしとかないとな。


「それはそうとそろそろお腹か空いてきた。早く火を起こしてくれ」


確かにそろそろ昼食をとってもいい時間だ。

先程から軽いおつまみは口にしていたが、本格的にご飯が食べたくなったらしい。


「待って。高崎、先生見てて」


そう言って部長はファイヤースターターを取り出し、焚き火台にフェザースティックを並べて、棒を擦り始める。前はティッシュを使ってもうまく着かなかったが大丈夫なんだろうか。

そう思っているとフェザースティックの1本に火が着き、瞬く間に他の物にも燃え広がっていく。


「あれすごい、なんか簡単に火着いちゃった。紐とかティッシュなくてもいけるもんなんですね」

「フンッ、それは素人。私は上級者だから何も使わない」


絶対これ練習してきたな。すごい得意気な顔してる。

前は何が悪かったのだろう。もたもたしすぎたのはだめだとして、十分に火が大きくなるには本数が足りなかったり、もしかしたら俺の作ったフェザースティックに原因があったのかも……。


「部長今度火着ける時教えてくださいよ」

「しょうがない、私が教えれば高崎もきっと出来る。先生もお腹空いてるみたいだからとりあえずお昼にしよう」



昼食も食べ終わり、各々自由時間になる。前回は結城に邪魔され本を読めなかったので今日こそ本を読めると椅子に腰を落ち着けると


「ねえ高崎、食後の散歩しない?」


まあいっか。食べたばかりって少し集中力が低い気がするし、少し散歩してリフレッシュしよう。


「いいですよ。どこ行きます?」

「川に行きたい」

「先生は行かないんですか」

「私はいい。朝から運転して写真を撮り続けてきた状態でご飯を食べたらどっと疲れがきた。少し休憩する。ほらこれを持っていけ」


デジカメで撮った写真を見ながらイカを炙っていたが、カメラをこちらに渡すとイカを口に入れぐったりしている。本当はお酒も飲みたいんだろうにずっと俺達のために行動してたもんな。今度キャンプがあれば運転以外の時は精一杯おもてなししよう。


そうして俺と部長は川へ移動する。


「聞いていい?」

「なんです?」

「なんで幼馴染の事苦手なの?」


まあさっきあんな話して、これから協力してくださいって言ってるのに全く何も言わないなんてわけにもいかないか。


「うーん、あんま詳しいことは言いづらいんですけど……まあ簡単に言えば一度仲違いしたって感じですね。一応は仲直りしてるんですけどまだわだかまりがあって」

「高崎が頼れるのは外遊部しかいないの?」


思ったよりグイグイくる。

まあ部長を頼ろうとする時点で、既に片足を突っ込んでると言える。詳しく知っときたいんだろう。


「そうですね。クラスメートとも話せはするんですけどそこまで深い仲ってわけじゃないですし。学校で1番気兼ねない人間を選ぶならば、間違いなく外遊部のメンバーですよ」

「無神経にごめん。でも外遊部が居場所になってるのは嬉しい」

「いや俺自身気にしてないんでいいですよ」


まあ間違ってもクラスメートの前でこんな事は口が裂けても言えない。仲良くなりたいわけじゃないが、中学の頃のように孤立したいわけでもない。誰からしても必要な時には問題なく話せるクラスメメイトという距離感でいいのだ。


それと比べれば外遊部とはずいぶん距離感が近いように感じる。

メンバーが変わり者だから?極少人数で部活動という形態な以上、一定のコミュニケーションが必要になるから?

う~ん、自分の中で明文化できるほど正確な理由が思い当たらないが、そこらへんの複合的なものと考えるべきだろう。


しかし、俺が部長に対して考えていたことを逆に聞かれてしまった。ならこの流れで俺も聞くか?……いや止めとこう。あくまで部長から話した場合のみでいい。


「少し川に入ってくる」

「着替え持ってきてないですよね?転ばないようにしてくださいよ。部長ドン臭そうだから」

「む」


いや絶対運動神経よくないでしょ。本当に転んだらやばい。


「あー待ってください。俺も一緒に行きますよ」


岩場にカメラを置き、もしものことがあっても支えれるように部長を追いかける。

って、あ、まずい。


「ん、高崎重い」


部長に近づいたところで、逆に俺が水底の岩と岩の間に足を取られこけそうになる。

部長に倒れ掛かるようになってしまったが、そこをなんとか部長に支えられる。


「すいません……」

「高崎ドン臭い」


人の事をドン臭そうと言い、助けるつもりでついていったのに……うわ、めっちゃ恥ずかしい。



俺達は散歩を終え、テントを張った場所まで戻ってきていた。


「本当に助かりました」


改めて部長にお礼を言う。マジで危なかった。この後もキャンプを続けなければいけないのに全身ずぶ濡れになってしまえば、帰るまでテントの中で引きこもりになっていたかもしれない。平時であればまだよかったが、今日はちゃんとした目的もあるので、そうなっていれば迷惑をかけていただろう。


「私の事は二度とドン臭いと言わないように」

「へへー」

「高崎お前は運動神経が悪いのか?」


戻ってきた俺達に何があったのかを聞いた先生は「写真を撮れなかったのはもったいなかったな」なんて嬉しそうにしていた。


「いやどちらかといえばいい方なんですけど。結局人間は自然には勝てないってことですよ」

「この場合自然が理由にはならないと思うが。それはそうと、今日は16時には撤収するからな。それまでに片付けまで済ませておけよ」

「14時から鉄板焼きするからそれまでは自由」


そのために昼食は少な目にとってあるのだ。


鉄板焼き開始まではあと1時間以上ある。

俺は再び椅子に腰をかけ、やっとのこと待望の読書に取り掛かる。



あまり長い時間ではなかったが、とても充実した時間だった。文字を読むという面だけでみれば室内のほうが読みやすいのだが、大自然の中で読むのはまた違った良さがあった。とても開放感があり、爽やかな心持ちで読むことができるのだ。気になったのは時折周りに近づいてきてはピピッ!とやっていた先生くらいだ。


それから俺達は鉄板焼きでお腹を満腹にさせ撤収準備を終える。


「私も忙しくて文化祭までにキャンプはもうできないが、集合写真はどうする?」


先輩と顔を見合わせ同時に頷く。


「集合写真はまた今度」

「別に集合写真くらい学校で撮ったって構わないですよね。4人揃っての外遊部なんですし」

「そうか」

「集合写真の時は先生も入ってくださいよ」

「ああ」


考えるまでもない。集合写真とは全員が揃うからこそ意味があるのだ。休んだのだから責任の所在は結城にあるだとか、文化祭までにキャンプ場ではもう撮れないとか、そういうことこそ些細な問題だろう。


「今日はかなりの枚数の写真を撮った。帰りの車の中でもいいし、部活の時にでもいいからどの写真を使うかはお前達で選べ。私に言えばその写真をプリントアウトする」

「「はい」」


こうして外遊部初のデイキャンプは結城を欠きはしたが、無事終了となった。

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