理想の幼馴染
「さ、あがって」
デイキャンプの前日、いつものようにラノベを読みに夕陽家を訪れていた。
「ねえ、悠は何のコスプレするか考えてる?」
「え、いや俺裏方でしょ?紅葉だって俺が料理ができるとか言って話誘導してたじゃん」
「何かしら理由はいるでしょ。でももう決まっちゃえばそんなことどうでもよくない?悠は私にどんなコスプレして欲しいとかある?」
「顔が見えない系のやつ」
なんか流れるように答えてしまった。
やばい、絶対今の失言。
「普通に紅葉がコスプレしてるの誰かに見られたくないんだけど。もうそれなら誰か分からないほうがいいかな」
正直こういう気を持たせるようなことは言わないようにしてるし、言いたくもない。でも大事なのは命。
「もー、悠って案外独占欲あるよね。でもさ、なんでスク水喫茶に手挙げたの?私忘れてないんだけど」
よかった、やばい方向に変わりかけてた表情が今は和らいでいる。
うーん、どうしようかな。紅葉のスク水が見たかったから!なんて言えばうまく収まりそうだけど、勘違いの二重掛けはダメな気がする。
「周りが手挙げてたから挙げただけだけど」
「ふ~ん。私の水着姿が見たいから手挙げたのかと思った。別の子のが見たくて手を挙げたなんてことはないよね?」
「ないない」
そもそもクラスであまり女子と話さないし、そういう目で見たこともない。
しかし、入学したばかりの時はもうちょい話すこともあったんだけどね。まあ嫌われてるってわけでもなさそうだし、話し掛けられない分には問題ない。
「あ、そういえば今日で『ヒロおさ』最新巻まで追いつくよね。ちょっと席立つから読んでて」
「ん」
『俺のヒロインは幼馴染以外ありえない』通称『ヒロおさ』。5月から始まり、たまに夕陽家を訪れては1冊ずつ読んでいき、今日ついに全てを読み終える。当初はつまんなければすぐに別の作品を読むはずだったのだが、悔しいことに本当におもしろかった。何よりこの作品の面白さを押し上げていたのはメインヒロインの穂乃花のかわいさと言えるだろう。誰にでも優しく、そして何よりも主人公の事を大切にしている穂乃花の健気なこと……某幼馴染にも見習って欲しいところだ。
「おまたせー」
……なにしてんのこいつ。
「体育の授業も男女別だし、見るのは中2の夏以来かな?どう?やっぱりスク水見たかったんでしょ?」
ついに色仕掛けだよ。確かに性的欲求がなくなったわけじゃないけどさ。あれ、なんかちょっと気持ち悪くなってきた。
「服着て。結構見てるのきつい」
「えー、今日はこのまま一緒に過ごそうと思ってるんだけどなー。悠って恥ずかしがり屋なところは変わらないよね」
どうにか服を着てもらうために、それらしい理由をつけるしかないか。
「うん。このままじゃせっかくの『ヒロおさ』に集中できないから頼む」
「もーしょうがないなー」
ふぅ、一難去った。まったくなんてもの見せんだよ。
▽
「で、どうだった?」
「普通におもしろかったよ。出てくるヒロイン達はみんなかわいかったし、特に穂乃花がやばかった。まあ物語的には穂乃花が圧倒的過ぎたけど、そういう作品だしね」
「だよね!やっぱ幼馴染だよね!」
「幼馴染とはこうあるべきって感じだったね」
間違ってもお前がよかったわけじゃない。この本を読ませて幼馴染の良さを擦りこもうとしたみたいだけど、逆に違いが浮き彫りになっただけ。
幼馴染とか後輩とか大学生のお姉さんとか結局はただの称号でしかない。大切なのはその人間自身である。
この本はそういう教訓を教えてくれている気がする。
穂乃花が素晴らしすぎるから幼馴染の象徴みたいに考えたくなる気持ちはわかるけども。
「次は『復讐のアウレリウス』でいいんだよね?」
「それもいいけどあれから私もいろいろおすすめしたいのが増えたんだよね。今日はご飯食べずに帰るって言ってたよね?」
また幼馴染系薦めてこないだろうな。もしもそうきたら、ガツンと『復讐のアウレリウス』が読みたいって言ってやる。本来そっちを読むはずだったんだし。
「うん、明日朝から部活あるし、その準備ちゃんとしとかなきゃだから」
「じゃあ、また今度家に来たときにおすすめ見せるね」
まあ今日遊んでたせいで忘れ物しましたってわけにもいかないし、言葉通り家に帰ってちゃんと持ち物チェックするとしよう。




