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虚飾性男子は恋すら喉を通らない  作者: 久栖ガマ
1章 それぞれの出発点
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胎動

「これで夏期講習は終了となる。明日から本格的に夏休みに入るが、皆羽目を外しすぎないように。それとこの後17時30分からは予定通りグラウンドで夏祭りが行われる。祭りには学校関係者だけでなく近隣の方々など校外からも多くの人が来るだろう。トラブルなど起こさないようにな」


クラスの前だけではまだ威厳のある多井中先生の言葉を以って夏期講習は終了となった。あとは1時間ほど時間を潰すだけなのだが。


『どこにいる?』


とりあえず結城にメールを送る。

だが案の定というかすぐに返信は来ない。協力してもらう当日に、前みたいに教室に押し掛けて機嫌を損ねられても困るし、とりあえず部室に行って待てばいいか。

そのうち部室来るかもしれないし、祭りの開始までには合流できるだろう……できるよね?



「誰もいない」


結城か部長どちらかはいるものだと思い込んでいた。

外遊部を訪れて誰もいなかったことなど俺の記憶にはないため、ついそう独り言を呟いてしまう。


まあいないからといってわざわざ探しに行くわけにもいかないし、俺に出来る事といえば待つのみだろう。それでもしも結城とコンタクトを取れない場合はその時に考えよう。


そういえば部長は誰と回るんだろ?


そして、祭りが始まる直前まではラノベでも読んで時間を潰そうと読書していたのだが、時計を見ると既に祭り開始の5分前になっている。


結城マジであいつ学校休んでるとか、もう帰ったとか言わないよな?

部室にこないどころか連絡すら返さない結城に、俺の中の不安は膨らんでいく一方。


場所を確認するメールを再度送り、半分諦めモードでグラウンドに向かう。お願いいてくれよ……。


しかしグラウンドに向かいながら周りの様子を見ているが、このゆるゆるな感じ別に参加しなくてもよさそうじゃない?

もっと参加に強制力のある状況になるのかと思っていたが、全くそんな雰囲気はない。考えてみれば、祭りが始まってもなお強制力を持たせるってほぼほぼ無理だよな。紅葉にだって結局会場で会わなかったなで言い訳できるわけだし。

いっそこのまま帰るか。


「なんだ、遅かったな。あまり私を待たせるな」


そう思った途端にこれだ。

こいつ俺の嫌がることを的確に突く才能を持っている。しかしこうなってはもう約束を守らなければいけない。


「別にまだ祭りが始まってるわけでもないでしょ。それに、お前メールくらい返せよ」


いてくれてよかったのか、はたまたよくなかったのか。

いや、結城が俺を待っているのに帰っていたら後々大変なことになっていたかもしれない。むしろよかったと思うべきか。


「じゃあ食べるだけ食べたら帰るぞ」


こいつさー。

マジで自分の選択を呪いたくなる。


「もうこのまま帰るって手もあるけど」

「貴様は自分の言ったことにすら責任が持てないのか?」

「ハァ、もう好きに食べてくれ。そのかわり3000円までにして。金ない」


ちょっとだけ少なめに申告、500円は何かあった時用にね。

俺自身はもうここで何かを食べることは諦めている。結城が少食ならまだ希望があったが、この前のキャンプで量を食べることはわかっている。

しょうがないから、俺は大人しく家に帰ってなにか食べよう。


「へー、ちゃんと的屋とかボール(すく)いもあるんだ」

「私は食べ物しかいらんからな、まずはたこ焼きとフランクフルトが食べたいな」


祭りの会場を一緒に歩いていたのは、あくまでどんな食べ物があるか確認するためだったようだ。まあクラスに顔を出すだけで怒るのだから、本心は一緒に歩きたくはないのだろう。完全に校内だしな。


結城はあごをクイとし、その場を動こうとしないので俺はしぶしぶと1人で買いに行く。今日だけは女王蟻にこき使われる働き蟻になってやるよ。俺から頼んだことだからな。


「おまたせ」

「こんな人が多い所では食べた気にならん。グラウンド周りの土手に座って食べるぞ」


やはり人目を気にしているようだ。すぐにでもこの場から退散したいんだろう。

まあ俺はこの後何度も屋台を往復することになるだろうな。


「はい、これでお腹いっぱいになってくれていいから」

「これだけでなるわけないだろう。ん?貴様は食わんのか?」


お前に奢らなきゃいけないから食えないんだよ!

3000円というのがまさか俺の全財産などとはさすがに思わなかったか?


「金ないって言ったじゃん」

「そうか、ならこれをやろう」

「ありがと……」


俺はフランクフルトが刺さっていた棒を受け取る。歩きながら今しがた食べ終えたようだ。

こいつに温情などあるわけがない。


そして土手に座り、今度はたこ焼きを食べ始めている。


「うまい?」

「まあまあだな。だがたこ焼きはもう飽きた、残りは貴様が食べろ」

「はいはい」


またゴミだろと容器を受け取ると微かにだが重さを感じる。

え、本当にくれるの?言葉の通り飽きただけなの?優しさなの?容器を開けると中にはたこ焼きが1つ残っていた。うん美味しい。


「ありがと」


冷静になればなんでお礼言ってんだろ。これはあれだ、あの筋の方がいいことしてたら普通の人がするよりも素晴らしいことに感じる。それと同種のもの。


「フンッ。じゃあ次はそうだな……」


それから結城はクレープ、イカ焼き、オムそば、牛串を要求し、一度分けてもらえた俺はその都度期待したが、結局たこ焼き以降俺の口に何か入ることはなかった。逆に生殺し状態だ。


「もうそろそろお腹も膨れてきたな。では最後にりんご飴を買って食べながら帰るとするか」


りんご飴でジャスト3000円。こいつ計算しながら注文してたな。キッチリ使い切りやがった。


「初めて食べたがなんというか完全にりんごだな」


そんな結城の感想を残して、俺たちは夏祭り会場を後にした。



彼女は感情の抜け落ちた顔で、2人が消えていった夜闇を見つめ続ける。


「あの女、邪魔ね」


誰のものとも知れないその声は、誰の耳に届くこともなく祭りの喧騒に掻き消される。

1章では主に出会いと始まりを書きましたが、これにて1章は終了となります。

20時に、すごく簡単にではありますが1章までの主な登場人物紹介を入れて今年の投稿は終了となります。

また、次の投稿は1月2日を予定しております。

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