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虚飾性男子は恋すら喉を通らない  作者: 久栖ガマ
1章 それぞれの出発点
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その例えは伝わらない

入学式の日に配られた冊子に書いてあったように、この学校の体育祭は6月に行われる。

6月に体育祭、7月に期末テストと少し忙しくなるため、キャンプで一区切りついたこともあって1学期中は外遊部は休みということになった。


体育祭といえば小学校、中学校共に本当に大変だった。行進の練習から始まり、組体操、ダンスなど各競技毎に練習時間が設けられ、また使う道具を自作したりグラウンドの草むしりをして白線を引くなど準備に多大な時間が割かれた。


俺の知っている体育祭はそういうもののはずだったのだが、この高校の体育祭は全く違っていた。個人で出場する競技の数も減り、応援以外ぶっつけ本番。わかりにくい競技だけ体育の時に少し説明を受けたものの、練習ゼロ、準備ゼロと言っても差し支えないだろう。張り切っていた人間なんて応援団に参加していた連中くらいだった気がする。


こんな形式上行われるだけの体育祭を経験してしまうと、大変だったけどあの頃の体育祭は楽しかったなぁ、なんてしみじみ考えてしまうほどだった。


このまま期末テストが終われば1学期も終わりかなんて考えていたところ、その知らせは突然やってきた。それはまだ体育祭が終わって間もない6月下旬のあるホームルームでの先生からの告知。


「今年の夏休み、夏期講習の最終日に行事実行委員が主体となった夏祭りが行われることになった。各クラスから2名を選出し、そちらの手伝いをしてもらうこととなる。また祭りとはいえ学校行事の一貫だ。特別な用事がない限り皆参加するように」


というものだ。どうやら今年の行事実行委員による自由裁量の行事というのはこれのようだ。

入部候補として挙がっていた行事実行委員だからといって、わざわざ手伝いとして参加したいわけじゃない俺はなるべく選ばれませんようにと心の中で祈り続けた。残念ながら、立候補者はおらず、公正にくじ引きで男女1人ずつを選出することとなった。こういうとき、俺の読んでいるラノベの主人公ならその役を引き当てるだろうが、俺の日頃の行いの良さからか天は俺に味方した。

イレギュラーな行事ではあるが、俺は当日適当に参加して適当に帰るだけでいい。問題はあの幼馴染が一緒に回ろうと誘ってくるかもしれないことだけだろう。


『今日一緒に帰ろ。頼みたいことがある』


まだそのホームルームが終わっていない中、俺は結城にそうメールを送った。

本当はメールではなく実際に会って頼みの内容を伝えようとしていたが、あいつの場合ちゃんと内容も先に言っておいた方がいいだろうと考え


『学校の夏祭り一緒に回ろ』


と再度送信する。


しかし、ホームルームが終わっても結城からは返信が来ない。ただメールに気づいていないだけならいいが、結城の場合意図的に返さないことは十分にありえる。しかも内容が内容だ。


明日の昼休憩には、いつもの場所でごはんを食べるだろうからそのときに話し掛けてもいいのだが、出来るだけ早く約束を取り付けたかった俺はそのままD組に特攻することを決める。


そしてD組の教室を覗いてみると、こちらに一目でわかるように金髪で出迎えてくれる。


「あーいたいた、ちょっといい?」


そう結城の席へ近寄ると、驚いた顔でこちらに振り向き、その顔に怒りが混じり始めたことを確認した俺は


「部活の事でちょっと話あるんだけど」


と咄嗟のフォローをする。周りにこちらの様子を窺っている生徒もいるし、こういう言葉でも無いとおそらくぼっちであろう結城にはきついかなと考えた。


「ああ」


内心を覆い隠すように、結城は返事をする。

そして、校舎を出るや否や


「貴様何を考えている!」


とそれはもうお怒りだった。


「いやこのままだとメール返ってこないかなって。それに部活の事って言ったしセーフじゃない?」

「どこがセーフだ!二度と教室に来るな!」

「わかったって、ごめん。じゃ、帰りながら話そ」


それでもどうにか結城と話すことにぎ着けた俺は、半ば強引ではあるが一緒に下校する。


「で、メールでも送ったと思うんだけど」

「断る」


見てたんじゃん。やっぱり返信する気なかったなこいつ。

しかし、今日だけは下手に出なければ。


「本当俺を助けると思って」

「なおさら断る」


取り付く島もない。


「あ、そうだ。西鳩駅前に新しいカフェできたんだけどそこで何か奢るから」

「私が物で釣られるとでも思っているのか?そもそもどうやったら私と祭りを回ろうなどという発想が出てくる。頭がおかしくなったか?」

「いや、学校の夏祭りって用事なけりゃ強制参加みたいな感じじゃん?そしたら一緒に回りたくない奴に誘われるって思ったから」

「私はその身代わりか?」

「いや身代わりって人聞きの悪い……」


確かに言い方はあれだが、俺がしようとしてるのはまさにそれ。こうとらえられてしまっては心象が悪すぎて難航してしまいそうだ。


「それはあの幼馴染のことか?」


結城には、幼馴染とはそこまで仲良くない程度にしか話していないはずだが、一緒に回りたくない奴って言ってよく1番にそこを連想できたな。


「うん、前西鳩駅の改札ですれ違ったでしょ。ってかあの時見つめ合ってた気がしたけど知り合い?」

「いや……」


そう言ってから結城は手で口を覆うようなポーズを取り、何かを考えるように黙り込んでしまう。


「いいだろう」


幾許いくばくかの時間が経過した後、結城は突然そんなことを言い始める。


「え、それなんの冗談?」


結城から出てくるはずのない了承に思わず俺の脳は理解を拒む。そもそも、粘って粘ってやっとのことで了承を得るくらいのつもりだったのだ。


「あ?別に私は協力してやらなくてもいいんだぞ?」

「よっ!現代に生きるクリミアの天使!」

「貴様は何を言ってるんだ?」


ナイチンゲールよりマザーテレサの方が通りがよかったかもしれない。


「祭りではもちろん貴様の奢り。私の食べたい物、飲みたい物を手取り足取り買ってきてもらう」

「それくらいなら」

「それで貸し借りがなくなると思うな。それほどにデカい貸しだと思え」


一要求したら、百になって返ってきそうなんだけど。

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