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虚飾性男子は恋すら喉を通らない  作者: 久栖ガマ
1章 それぞれの出発点
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それぞれの過ごし方②

「あのさ、なんでそこに座ってるの?」

「貴様の椅子、存外座り心地がいいな」


さっきは見逃してやったが、またこいつ俺の椅子に座ってやがる。うどんを食べるときだけみんなと同じテーブルに着き、食べ終わったらまた俺の椅子まで戻ってきたんだろう。


「座りたいんだけど?」

「ほら、あそこにも椅子があるだろう?」


こ○して~。


「それに飲み物まで俺のじゃん」

「何を言っている?これは私が買ってきたものだぞ」


あれ?そう言われて俺はクーラーボックスを確認しに行く。中を開けると、確かにもう1本ミルクティーのペットボトルが入っていた。たまたま一緒のものを買っただけか。


「何か言うことはあるか?」

「おいしいよねミルクティー。ロイヤルっていうだけあってそこらへんの飲み物とは格が違うというか」「貴様の口にすべき言葉はそれなのか?謝罪だろう?」

「……疑ってごめんなさい」

「フンッ」


なぜ椅子を取られて謝罪させられなければならない。この満足そうな顔に拳一発いれれたらどんなに爽快だろうか。


「でさ、今何やってんの?」

「何も」

「せっかくキャンプ場来たんだし散歩でもしてくれば?」


こいつがどいてくれさえすれば俺はそこに座れるのだ。座れたならば、二度と席を立ってやるものか。移動も椅子を持ってしてやる。


「貴様は何をするつもりなんだ?」


質問に質問で返すな。お前全く答える気がないだろ。


「いや、前に読書が目的の1つって言ったじゃん。だからそろそろしようかなって。だからそこどいて」


結城は俺がラノベを入れている小さな手さげに目を向ける。


「どれ、貸してみろ」

「は?」

「あ?それが謝罪した人間の取る態度か?」


少しこちらの分が悪いようだ。今だけはこいつの思うようにさせてやろう。今だけな。


「なんだこれは。面白いのか?」

「ラノベだけど、面白いかどうかはその人次第でしょ」


あれ、そのまま読み始めちゃったんだけど。俺その1巻の途中までしか読んでないからそれ取り上げられると何もすることないよ?しょうがないから2巻から読み始める、なんて選択肢は俺にはない。


まあすぐ飽きるだろ。ちょっとその辺ぶらぶらしてこようかな。


「高崎見て、1本できた」

「え、それ俺のより全然うまくできてません?」

「部長より優れた部員など存在しない」


どこかで聞いたことのあるセリフだ。

しかし、部長も部員の一部じゃなかろうか。


「ありがとう」

「どういたしまして?」


いきなりお礼を言ったかと思うと、また部長はフェザースティックを作るためか元の場所へと走って行った。まあさっき火起こしできなくてちょっと落ち込んでたからな。今はすごく楽しそうだしよかったよかった。


「高崎、暇なのか?」

「はい。元々本読もうと持ってきてたんですけど、ほらあれ」


リクライニングし優雅にミルクティーを飲みながら読書をする女を指す。


「なんだ結城に取られたのか、お前たちは仲がいいのか悪いのかよくわからんな」

「仲いいですよ」

「そんな苦い顔で言われてもな。ならその辺を散歩でもしてくるといい。ここら辺は私たちの住んでる町と違い自然が豊かだ。いい気分転換になると思うぞ」


結城に薦めたことを先生にそっくりそのまま返される。

結城はあれだし、部長はフェザースティック作りに没頭している。しかし先生は暇そうなので一応は誘ってみようかな。


「先生も暇なら一緒に行きましょうよ、大人の方こそ癒しが欲しいんじゃないですか?」

「私は火の守りがある」

「それなら部長でも結城でも作業しながらできますよ」

「まあいいか。橘!木を削りながらでいいから火を見といてくれ」

「はい」


少し離れた場所で返事をした部長が移動の準備を始めているので、俺たちも散歩の為に席を立つ。


「先生、それも持っていくんですか……?」

「ああ、自然を満喫しながら飲む酒は最高だぞ。お前にはまだこの良さはわからんか」

「いやわかったらだめですよね。ってか酒飲みながら歩くってマナーもガラも悪すぎません?絶対教師のあるべき姿じゃない」

「こういうときはいいんだ、こういうときは」


2人で辺りの景色を見ながら歩いていると先生が話しかけてくる。


「この部活はどうだ?」

「なんですか改まって。いやまあアウトドア自体は楽しいですし、居心地も悪くないですよ」

「いいとは言わないのか?」


たしかに、いいと答えるべきだった。なんかこの部活にいると調子が狂うというか、そこまでガッチガチに取り繕わなくていいかななんて思うようになってきている。


「まだ完全にみんなと打ち解けたってわけじゃないですし」

「まあそうだな。活動自体も両手で収まる程しかしていないし、ここの部員はなんというか特殊だ。まあ私としては面白い限りだがな」

「あー結城も部長も特徴的な性格してますもんね」

「まるで他人事だな」


俺は部長のようにぽわんとしているわけでもなく、結城のようにトゲトゲしてもいない。


「俺は客観的に見ても普通の学生だと思うんですけど。友達付き合いが多少控えめなだけで」

「教師を10年も続ければなんとなくだが見えてくるものもあるということだ」

「俺がどんな人間に見えるんですか?」

「それは私もわからん」


なにか本能的、あるいは経験からくる観察でなんとなくわかる部分があるんだろうか。結城の理解を以って見透かしているのとはまた違うんだろうな。そもそも俺自身少し卑屈なだけであの2人ほど変わっているとは思わないが。


「ってことは先生は30超えてるんですね」

「ん?」


結局俺たちは2、30分ほど近くの森の中を散策した。

そろそろ結城も飽きてくれていればいいがと思いながら、テントの張ってある場所へと来た道を戻る。

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