ペチュニア
先週の金曜日先輩から
『次の部活は来週の火曜日』
とメールが来た。
今日はまだ月曜日なので俺はフリーだ。
いつもならそのまま直帰するのだが、この日はなんとなく校内の敷地をぶらぶらしていた。
普段は特に何を考えるでもなくぼーっと歩いているが、改めて意識すると様々な物が目に入る。これが園芸部の育ててる花壇か、こんなところに給水機なんてあったのか、などなど。
今は憩いの広場に続く道を歩いているおり、ここを右に曲がれば広場と部室棟がのだが、今日は左に曲がってみた。道はあるのだが、入学当時に渡された冊子の概略図を見たときには何も記載されておらず、左に曲がっていた人間すら記憶になかったので、何があるんだろうという冒険心に従ったのだ。
しかし期待とは反して道幅はすぐに狭くなっていき、すぐに途切れる。
何もないのかと肩透かしを食らった気になり、諦めきれなかった俺は木が生い茂る中を進んでいく。すると奥まっている場所に小さな東屋を見つけた。
木々に囲まれ、3方向を花壇が囲うその東屋には特別な何かがあるわけではない。しかし俺にはまるで物語の中に出てくる一場面のように幻想的に感じられた。
こんな場所があったのか。
それにこの周りの花がとても綺麗だ。さすがにこれが自生しているというわけじゃないだろう。ここも園芸部が面倒みてるのかな?
数種類の花が植えてあるように見えたけど、これ色が違うだけで種類は同じっぽいな。
そうやって花に見とれていると、当然背後から声が掛かる。
「花がお好きなんですか?」
振り返ると女生徒が立っていた。あれ、この人たしか
「いや特に好きってわけじゃないんですけど、この花はきれいだなと思って。ほら、こっちの周りが白で真ん中が赤の花、練乳がかかったいちごみたいです。これって全部同じ花なんですか?」
そうだこの人、園芸部部長だ。名前はなんだったかな……すごいお嬢様っぽかった記憶はある。
「フフッ、独特な感性ですね。でもきれいでしょう?この花はペチュニアといって、私が1番好きな花なんですよ。花言葉は『あなたと一緒なら心が和らぐ』で、先程後ろから眺めていましたがとてもお似合いだと思いましたよ」
真逆だろう。俺にそんな人はいない。
この花言葉の場合、親兄弟ってのは違和感があるしな。
恐らく恋焦がれる相手に向けられるものではないだろうか。
「すいません名前まで憶えてないんですけど園芸部の部長さんですよね。ここも園芸部が?」
「あら、どこかでお会いしましたか?」
「俺1年生で、部活見学の時に先輩の説明を受けたんです」
「ああ、そうだったんですね。ごめんなさい、私部活見学の時はすごく緊張していてあまり記憶がないんです。私は土御門花蓮と言います。今度は覚えておいてくださいね。それでこの花ですけど園芸部とは関係ないですよ。1年生の頃に私もここを見つけたんですけど、周りが花に囲まれていたら素晴らしいのではないかと私が個人で育て始めたんです」
そうそう、土御門花蓮先輩。喋り方も名前も上品だったから頭に残っていた。しかしここは土御門先輩が1人で作ったのか。
わざわざ森の中まで入らないとわからないし、他の人はここを知らないのかな?いや、知っていたとしてもこういう情景を素晴らしいと感じるとは限らないか。
「あ、ご丁寧にどうも。俺は1年の高崎悠です。ここって使っても大丈夫なんですか?」
「ええ、私のものってわけじゃありませんから。ここは自分の場所だ!って独善的な想いもありつつ、私の育てた自慢の花を見て欲しいって気持ちもあるんですよ。笑っちゃいますよね。でもここに人がいること自体、2年間学校に在籍してきて1度も見たことがないんです。だから高崎君はここを見つけた同士ですね。遠慮などせず是非是非使ってください」
自分のものじゃないといいながらなんだかんだ愛着があるんだろうなぁ。まあいつもここに先輩がいるわけじゃないだろうし、お言葉に甘えて使わせてもらおうかな。これは昼食のベストプレイスを上書きすること必至だろう。
あ、でも別れ道を左に曲がるときは人が周りにいないか確認しよう。人気は少いほどいいし、俺のせいで有名な場所にでもなれば先輩には少し申し訳ない。
「じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらいます」
「高崎君はこの白と赤2色のペチュニアがお気に入りですか?」
「そっちもいいんですけど、好きさでいえばこっちの茶色っぽいのがシックで好きです。あ、でもこっちの白と黄色2色のもきれいだな」
「どれも気に入っていただけたみたいで嬉しいです」
それから俺は花について先輩と少し話をした。花について話すときの先輩の目はとても輝いていた。この人、本当に花が好きなんだろうな。そういえば部活見学のときにも、恐らく緊張していたんだろうが花を愛でる信者みたいだった。
「あ、このまま話続けちゃうと遅くなっちゃいますね。俺もここに来ることあると思うんで、また会ったらその時はよろしくお願いします」
「ええ、私としても楽しい時間でした。またお会いできるといいですね」
「ですね、それじゃあ俺そろそろ帰ります」
「ええ、それではまた」
こうして俺の学校探検は、思いがけない発見と出会いを運んできたのだった。




