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虚飾性男子は恋すら喉を通らない  作者: 久栖ガマ
1章 それぞれの出発点
33/88

擬似家族

「ん~おもしろかった!」

「そう?この巻は所詮小休止感が強かったわね。15、16巻がすごい盛り上がりどころだっただけにどうしても格落ち感が否めないわね」


もー、こいつなんなんだよ。読み終わって3秒で読後感を壊しにこないでくれ。まあ本自体はちゃんと読んでるし、自分の意見を持ってるみたいだから意見交換するって意味では全然悪くはないんだけど。


「いや、たしかにメインストーリーはあんま進行しなかったけどさ、キャラの掛け合いなんかはしっかり描かれてて俺は楽しかったけどね。新キャラだって出てきたしこういうのも必要だって」

「そういうもんかしらね」


そこから俺たちは好きなキャラは誰だとか、全巻読み終えてどの話が好きだったとか、これからの

展開はどうなるだとか『恋愛脳』について話し続けた。


コンコン


「紅葉ー、悠君ー、そろそろご飯にするわよー」

「はーい」

「今すぐ降ります」


いつの間にかもう18時を回っており、おばさんがご飯にするって呼びにきた。2時間ほど前からこの部屋までカレーのいい匂いが漂ってきてたから本当に心待ちにしてた。


「あっという間に時間過ぎたな。行こっか」

「うん!」


そうしてリビングに降りてきた俺たちは当たり前のように席に着く。まだ置いてあるんだなこの椅子。夕陽家は2人家族なので椅子は2つあれば事足りると思うのだが、俺が昔から使っている椅子がまだ置いてあったのでそのまま席に着く。


「おばさんのカレー久しぶりでホント楽しみです」

「フフッ。それじゃあ食べちゃいましょうか。いただきます」

「「いただきます」」

「ん~~~~、おいしい!いい意味で本当変わらないですねこのカレーは」


そうそうこれなんだよ!やっぱり俺の中での最強のカレーは間違いなくおばさんのカレーだ。一家に1人欲しくなっちゃう。


「私もこのカレーお母さんに教えてもらって作れるようになるんだから!」

「フフッ、あなたにはまだ早いわよ」


カレーに早いも遅いもあるんだろうか。わからない。お嫁に出るときに伝授する的な?


「いや俺はこれからもずっとおばさんにカレー作り続けてもらうから」

「もう悠君ったら。今日は泊って行かないの?」


おばさんと2人きりなら俺は別にいいんだけど、どうせ泊まっても一緒に過ごすことになるのは紅葉だ。想像するだけで心労が……。


「さすがに帰ります。俺も年頃の女の子の家に泊まるのって結構抵抗あるんで」

「悠君なら信用してるし私としてはなにも心配ないんだけど、ねえ?紅葉」

「そうよ!まあ今日は無理でもいつでも泊まりに来て」

「うーん、まあまた気が向いたら」


紅葉の押しの強さはおばさんから遺伝したんだと思う。

でも俺はおばさんにあまり強く出れないんだよな。たぶんちょっとゴリ押されるだけで俺は断れない。俺が幼稚園の頃に母さんを亡くしてからは、この人はもう1人の母的な存在で、家族じゃないからこその遠慮する気持ちも合わさり、それはもうこの人の手のひらの上でもうコロッコロだ。


「まあ、泊まりじゃなくてもいつでも遊びに来なさい。紅葉だけじゃなく私も悠君と会いたいし、2人だけでじっくり話したいんだから」

「はい。それにたぶんこれからちょくちょくこの家に来ることになると思います。そのときでよければ」

「じゃあ今度来るときはまた料理頑張らなきゃ!この1年半で料理のレパートリーも増えたのよ?」

「楽しみにしときます」


カレーはおばさんのものが最強と言ったが、その他の料理ももちろんおいしい。世の中の料理人や料理評論家は、おばさんに(ひざまず)いて一度この新世界を知るべきだ。


「あ、おかわり食べるわよね?」

「もちろん」


今度から夕陽家に来るときは、あらかじめ紗由にご飯係変わってもらえるよう頼んでおかないと。機嫌を損ねないといいけど。


「ごちそうさまでした」


こうして久しぶりの夕陽家での夕食は終わった。1年半来なかっただけなのだが、おばさんの顔を見ると高校生ながらにノスタルジックさすら感じてしまった。まあこれからもおばさんの料理が食べられるのは心から嬉しい。それは紅葉と共に過ごすことで得られる対価ということにしておこう。

最初はこの家に来ることに気乗りしなかったが、結果的に良かったのだと心に言い聞かせる。


「それじゃ、今日はそろそろ失礼しますね。紅葉もまた学校で」

「うんまたね」

「明日も来てもいいのよ」


いやさすがに連日は勘弁してください。

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