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虚飾性男子は恋すら喉を通らない  作者: 久栖ガマ
1章 それぞれの出発点
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夕陽家で

「ねえ、あれ誰?」

「いや誰のこと、ってかいきなりなに」


土曜の13時過ぎ、俺は約束通り紅葉の家を訪れていた。扉を開けるや否や紅葉はすごい剣幕でそう問いかけてきたが、一体なんのことだよ。


「いらっしゃ~い」

「あ、おばさんお久しぶりです。お邪魔します」

「最近家に来なかったから寂しかったわよ。ゆっくりしていってね」


険悪な雰囲気を破るように奥から紅葉のお母さんが顔を出す。本当にこの人は見た目も若く快活で、とてもアラフォーには見えない。


「とりあえず悠、部屋に来て」


めっちゃピリピリしてる。機嫌が悪いようなら俺帰ろうか?出直すよ?


「あとで飲み物とお菓子持っていくわね。悠君はミルクティーでよかったかしら?」

「あ、はい。ありがとうがとうございます」


おばさん最高!もしかしてわざわざ用意してくれてた?

この人は本当に気が利く人だからその可能性が高いだろう。感謝感謝。


おばさんに見送られ、俺は紅葉の部屋へ向かう。


ああ、この部屋に入るのも久しぶりだな。本棚なんて前はなかったのにな……ってなにこのラノベの量。こいつラノベ読み始めたの2週間前とかだろ?もう40冊くらいあるぞ。

お、『恋愛脳』の最新刊あった。読も。


「なにもう読書始めようとしてんのよ!私の質問に答えて」

「えっと、全然わかんないんだけどなんのこと」


ヒステリックにもほどがある。冤罪の時を除けば、こんな紅葉を見るのは小学生ぶりだろうか。いやあの時は子供の癇癪的な感じが強かったが、今はなんか生々しいし違うか。


「木曜の放課後、校門の前で仲良さそうにしてたでしょ!」


一昨日の校門の前っていうと……アウトドア用品店に行く前か。ならあいつのことのはずだけど。


「ああ、結城のこと。別に?前言っただろ、あれがもう1人の外遊部の1年生」

「それだけ!?だって、悠なんかいつもと違ったじゃん!学校じゃ私以外に仲良い人がいるなんて聞いてなかった!」

「いやクラスの奴らとも全く話してないわけじゃないし、まるで俺をボッチみたいに」

「で、あの後一緒に帰ったんじゃないの!?」


顔ちっか!怖い怖い怖い、目が血走ってるって!

それにあれを見てどうやって仲良く見えたんだよ。

あれ、自分が否定すると、学校に仲良い人0って認めちゃってるじゃん。まあいいけど。


「いや、最後まで見てなかったのかよ。その後部長が来て3人でキャンプ用具を買いに行ったんだって」

「でも!」


コンコン


「もう紅葉ったら、下にまで聞こえてるわよ。悠君だってそんな状態だと困っちゃうでしょ?少し落ち着きなさい」


おばさんが飲み物とお菓子を持ってきてくれた。俺もうおばさんと2人きりで遊びたい。


「あ、どうも。ありがとうございます」 

「悠君も少し見ない間に大人びちゃって。紅葉も悠君みたいに少しは落ち着きを持ちなさい?あ、そうだ。悠君、今日はうちでごはん食べて行きなさい」

「え、いや俺は自分の……」

「悠君私のカレー好きだったでしょ?今日ちょうどカレーなの!悠君のおうちには私のほうから連絡入れとくから、ね?」

「あ、はい。じゃあお願いします」


押しが強い。それにこの人のカレーは本当においしい。どういう理由なのかはわからないのだが、他では味わえない奥深いうま味を感じる。うちでもこんなおいしいカレー食べたいなと思って以前作り方を聞いたことがあるのだが


『フフッ。それは秘密よ。食べたくなったらいつでもうちに来なさい』


なんて言って教えてもらえなかった。


まあおばさんがせっかくここまで言ってくれてるんだ。ご相伴に預かろう。


「あ、家には俺のほうから連絡しとくんで大丈夫です」

「そう?じゃあ私はカレー作り始めるわね。気合入れて作らなくっちゃ!」


そう言っておばさんは部屋からルンルンと出て行った。


「で、落ち着いた?」

「まだ」


しかしおばさんのおかげで幾分かさっきよりマシになっている。

ここは一旦心を落ち着けてもらおう。なにかないかな……あ、そうだ。


「紅葉部活から帰ってきてそのままでしょ?」

「そうだけど。昼前に部活終わって帰ってきたばっかだったから」

「いや、仄かに汗の臭いが……」

「バカ!そんな匂わないわよ!それに女の子に普通そういうこと言う?」

「先にシャワー浴びて来いよ」

「えっ……」


いや何いきなり頬赤らめてんの。違うから、別にそういうつもりで言ったんじゃないから。


「わかった。シャワー浴びてくるから悠は『恋愛脳』でも読んでて」


でもめんどくさいな。話ははぐらかせたけど、別に結城と俺がどうというわけでもない。同じ部活に所属していて、俺は結城から聞き出したいことがある。ただそれだけ。これで忘れてくれればいいんだけど。

まあいいや、俺も『恋愛脳』の最新刊気になってるしまずはそっちで。とその前に、紗由に俺の分の飯作らなくていいって電話しとかないと。



『恋愛脳』を読み始めてから30分くらい経っただろうか、まだ全然読み終わってはいないのだが。


「ただいま。悠もシャワー浴びてきたら?」

「いや俺朝浴びたし、その後別に汗掻いたわけでもないし」

「そう」


そう言って俺の隣に座る。肌を上気させ、こっちを見ている。


「なに」

「……」


今にもにじり寄って来そう。いやさせないよ。


「あ、そういえばさ、紅葉が俺に読ませたいってやつどれ?」


俺は立ち上がり本棚の前に移動する。


「もう」


なにがもう、だ。


「てかさ、紅葉ラノベ買い過ぎじゃない?これ全部読んだの?」

「いや全部はさすがに読めないわよ。本屋でいくつか気になった作品の1巻を買って、それで面白かったものを全巻揃えていってる感じね。まだ手をつけられてない物も多いわよ」

「あーなるほど。で、どっちがおすすめなの?」


見てみると、揃ってるシリーズは2つ。単巻しかないものにもアニメ化されたようなものなど見覚えのある作品も確認できるが、恐らくはこのどちらかなのだろう。


「どっちも読んで欲しいんだけど、まずはこっち」


そう言って差し出された本。背表紙を見たときから気にしないようにしていたそれ。


『俺のヒロインは幼馴染以外ありえない』


……露骨すぎない?


「いや俺もう1つのほうが気になるんだけど。こっちはどんな作品なの?」


『復讐のアウレリウス』というタイトルのそれを手に取り軽くページを捲る。どういう作品かはまだわからないが、復讐モノならたぶん俺も楽しめると思う。


「そっちはね、家族を殺された主人公が自分の仇を探し出す旅に出るところから始まるファンタジー作品よ。仲間と思ってた人間にも裏切りにあったり読んでいて飽きさせないストーリー構成がもうすごいのよ!それにね、なんといってもその文章力!すごく引き込まれるのよ。途中から私が主人公なんじゃないかと錯覚するくらいに感情移入してたわ」


お前すごい人生歩んでるんだな。ってこいつ今結構言ったな。


「へーじゃあこっち読ませてもらおうかな。めっちゃ楽しそうじゃん」

「で、でもね!やっぱり私のおすすめはコレ!こっち読破しないとそっち読ませてあげないから」

「えー、ちなみにどんな作品なの?」


もうタイトルを見てなんとなく想像できるが、一応聞いてみる。


「タイトルの通りラブコメ作品なんだけど、主人公は優しくて献身的な幼馴染の好意に気付かないからいろんなゴミが寄ってくるの!でも日々過ごす中で自分の大切な人間が誰かを主人公が再確認するって話!若者のバイブルになるべくして生まれた作品よ」

「紅葉さ、人に物勧める才能ないと思う。まあわかった。つまんなかったら途中で切るからな。でも今日は『恋愛脳』1冊読むだけで一杯一杯だからそれ借りて帰っていい?」

「だめよ、私の本読むときにはうちに来てよね」

「え、俺紅葉の本読むとき毎回紅葉の家に来なくちゃいけないの?じゃあ残念だけど遠慮しとこうかな」


勘弁してくれ。今日に限定したことではないらしい。


「悠が私の家に来なくても、本を持って悠の家に押し掛けるからどっちにしてもって話よ。まあ悠読むの遅いんだから残念だけど今日は『恋愛脳』を読むだけになるわね。それじゃあそろそろ読み始めましょ。私も『復讐のアウレリウス』の続きを読みたいわ」


こうして俺たちは思い思いに読書を始める。

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