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虚飾性男子は恋すら喉を通らない  作者: 久栖ガマ
1章 それぞれの出発点
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結城幸の懺悔②

【結城幸視点】


中学に入り、私は髪を染め周りを遠ざけた。

転校以来両親とは当たり障りのない会話をするだけで、髪を染めても何も言われなかった。

両親にとっては、勉強さえできていれば他はどうでもよかったんだと思う。


もし不良のような人間が多くいれば、外見が派手で他人に関わろうとしない私を(うと)みまたいじめられていたかもしれないが、幸い普通の中学生ばかりだった。


明るい髪色で、目つきが悪く無口。さぞ周りも関わりたくなかったんじゃなかろうか。唯一日常的に話しかけてきた人間は生徒指導の教師くらいだった。


中学校生活は解放感に溢れていた。いじめに怯える毎日を送ることもなく、強者に媚びへつらって生きることをしなくていい。

小学校の頃も中学校の頃も仮面を被り生活していたが、これが正解だ。これからの人生の道程が見えた気がした。


いや、そもそももう素の自分がどんな人間だったかすらわからなくなっていたが。



高校に入り私は狼狽(ろうばい)した。


なぜ部活動が強制なんだ!と。両親に了承を得て遠くの高校を受験し、家を出て一人暮らしまで始め、中学よりもさらに理想の生活が待っていると心躍らせていたのに、これではまるで道化じゃないか。


部活動の選択がこれからの高校生活を決定づけるとすぐに理解した私は部活選びに奮闘した。

望んでいるのは極力人が少なく、活動が盛んでない部活。

そうして私の部活見学も終盤に差し掛かってきた頃、外遊部という活動内容の不明な部活を訪れる。

教室に入ると、女生徒が1人で座っていた。基本的にこちらが話しかけなければ話してくることはない。部員は1人。活動自体も高頻度ではないらしい。

女といっても、恐れる必要も気を遣う必要もなさそうな人だった。さらにいえば、部活を休みたければこの人に少し強く言えば休めるんじゃなかろうか。


条件とは少し異なっているものの、それまでで最有力だったのは文芸部だったのだが、あれよりはこっちのがいいだろうと私は早速外遊部に入部を決めた。


だがそんな私には2つの誤算が生じた。


まず1つ、扱いやすいと思っていた部長だがとても扱いづらかった。独特な雰囲気を持っており芯は思ったよりも強く、反抗心を削がれるような人間だったこと。


そして2つ目は、もう1人の新入部員。

その男を初めて認識したのは、憩いの広場と呼ばれる場所で昼食を取っていた時。

ふと左を見てみると、こちらを凝視している男がいた。私と目が合うなり、軽く会釈しすぐに目を逸らされたのだが、その男を見た瞬間言い知れない気持ち悪さに見舞われた。


その気持ち悪さがどういう(たぐい)のものかわかったのは、部活で男と再会してから。


男の顔が、言動が、まるで人を拒絶し決して信じようとしない雰囲気を帯びていたからだ。

まるで私はうつし鏡を見ているように思えた。

もちろん正確には違う。私は人への拒絶をそのまま外面上に出しているが、男は笑顔を貼り付け普通に接していた。しかし本質はあまり変わらない。


だからだろう。私の自己への嫌悪をそのまま男にぶつけた。


だがまもなく自己投影だけではなかったことにも気づく。

自分と重ねていた男が人を見て、そして話している時の目。その目の奥深くに小さな光が輝いているように見えるのが余計に(しゃく)に障った。

それは嫌悪か、それとも嫉妬か羨望か。


その男への感情で自分の心が()い交ぜになっている中、部活でバーベキューをすることになった。

早く着いてしまった私は、時間を潰すためにカフェで宇治抹茶ラテを購入し、席についてぼーっとしながら適当に時間を潰していた。


するとそこにあの男が入ってきた。私を一瞥(いちべつ)した男は別の空席へと向かう。よくわかっているじゃないかと思う反面なぜだかとても腹立たしかった。


そして次は顧問が入ってきたかと思えば男が私を呼びに来る。


(はなは)だ遺憾ではあるが、先生からの働きかけを無視するわけにはいかないので仕方なく同席することにする。特に話すつもりはなかった。いつものように黙ってその場にいるだけで問題ないだろう。


そう思っていたのだが、男が私に攻撃を仕掛けてきた。

ただでさえ私が複雑な感情を抱いていた相手が、それはもう嬉しそうに私の事を煽ったのだ。

だから、私は思っていることを少し口にしてやった。


いつも余裕そうな態度の男は、(きょ)をつかれ何があったんだとでもいうように時を止めていた。

実に気持ちがよかった。男は私がどういう人間かわかっていないだろうが、男のことは手に取るようにわかる。本人以上に理解しているだろう。


勝った気になり気分よくバーベキューに向かった私に、男はタイミングを見計らっては話しかけてくるようになった。負け犬が。誰が教えてやるものか。

私に対する軽口さえ心地よくすら感じられた。


男の事を分かった気になったこの時の私は、自分の事が全く理解できていなかった。

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