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虚飾性男子は恋すら喉を通らない  作者: 久栖ガマ
1章 それぞれの出発点
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動揺

うーん、服何着て行こう。


休みの日なのに制服はおかしいよな。動きやすいようにパーカーなんかがいいのだろうか。

いやキャンプに行くわけじゃないんだ。そこまで動きやすさなんて考える必要もないだろう。ならもう普段通りの私服でいいや。


俺は、テーラードジャケットに白T、ジーンズにワークブーツと、カジュアルで最低限動ける格好を選択した。それならばまあ浮くこともないだろう。


しかし部活とはいえ、休日に家族以外と外で待ち合わせなんていつぶりだろうか。バーベキューを初めてすることも合わさり少し浮足立ってしまった。


そうして服装を決めた俺は、少し早めではあるが水分を補給して出掛けようと居間へ向かう。


「バーベキューは部長の子の家でやるんだったな。迷惑をかけないようにな」

「さすが高校生。同じ部活動でも中学とは全然違うわね。でも悠だけずるい!私も肉食べたい肉!」

「お昼どこかに食べに行くか」

「え、いいの!?悠でかした!」


父さんと紗由も外食することになったようだ。よかった、さっきまで紗由がこちらを恨めしい目で見ていたので、これで機嫌も直るだろう。


「じゃあちょっと早いけど行ってくる」

「ああ、行ってきなさい」

「いってら~」



ちょっと早く着きすぎた。待ち合わせの11時まであと40分もある。

う~ん、あ、そうだ。駅に併設されたカフェで少し時間潰してようかな。5分前くらいにまたここに来ればちょうどいいだろう。


「いらっしゃいませ」

「えーっと、宇治抹茶ラテのSサイズ1つお願いします」

「こちらでお召し上がりになりますか?」

「はい」


商品を受け取ると、店の奥へと進み空いてる席を探す。

そこでふと視界に金髪が映る。


あれ結城じゃん。どうしよ、知り合いいるのに無視して別の席に着くか?いやでもあいつのことだから話しかけられるの嫌がるだろうし、俺だってできることなら1人がいい。別の席に座ればいいか。

なるべく結城とは離れた空席に俺は座る。


それにしても抹茶ラテっておいしいよな。ミルクティーと並んで最高の飲み物の1つだと思う。

抹茶ラテの余韻(よいん)(ひた)りつつ、バッグからまだ読み途中のラノベを取り出し読み始める。本当ならこんなところで読むのは恥ずかしいが、ブックカバー付けてるし大丈夫だろ。


「高崎か、早いな」


本を読み始めて15分程経ったところで声をかけらえる。


「あ、先生。おはようございます。まだ待ち合わせまで20分くらいあると思うんですけど、先生も早いですね」

「まあ顧問が遅れるわけにもいかないだろ」

「確かに。あ、結城ももう来てあそこに座ってますよ」


先生は視線を向け結城がいる事を確認する。


「ん?お前たちなんで別々に座ってるんだ?」

「えっと、お互いの時間を尊重してるといいますか」

「どうせこれから一緒にバーベキューするんだ。まだ会ってから日も浅い。あまり仲良くなってもいないんだろう?親睦(しんぼく)を深めるためにも結城もここに連れてくればいい」

「あれ、先生もこの席に座るんですか?」

「何か問題あるか?」

「いえ」


俺は圧に屈した。お互いの時間を尊重と言ったが、実際今の状況はwin-winの状態と言っていい。しかし、生徒の事を考える先生という立場からすると、これは放っておく状況ではないのだろう。

はぁ、結城呼びに行かないと。向こうもたぶん気付いてたみたいだし、無視していた手前声をかけづらい。まあウダウダ言っていても仕方ないか。


「結城、おはよう」

「話しかけるな」


ほら、こんな感じになると思ってたよ。

本当かわいくねー。


「いや、多井中先生ももう来ててさ、呼んできなさいって」

「チッ」


舌打ちって今から俺ら一緒にバーベキューするんだよ?


重い腰を上げしぶしぶと荷物を持って移動の準備を始める結城。先導するように俺が歩き、結城もそれについてきて、3人が同じ席につく。


「おはよう、結城も早いな」

「おはようございます」


ここは提案者の先生に話の(かじ)取りを任せよう。


「……」

「……」

「……」


先生、マジで頼むよ!結城から話を切り出すなんて100%ないから。このテーブルの一帯だけ季節は冬のように()てついている。


「お前たちは仲が悪いのか?」


見ればわかるでしょ。結構遠慮ないなこの人。


「いやそんなこともないですよ。ただ……」


このとき何の気まぐれか、俺の心に結城への復讐心が芽生える。


「結城はあまり俺のことが好きじゃないみたいですけどね」


張り付けられた悲しそうな顔とは裏腹に、俺の心は満面の笑みだ。キッっと睨んでくる結城の目線すら心地よく感じる。


「結城、そうなのか?」

「はい」

「ハァ~お前たちなぁ、これから同じ部活のメンバーとして引退まで行動を共にするんだぞ?もう少し仲良くしろ。せめて最低限会話できるくらいには」

「はあ」

「ちょうどいい、私は少しお手洗いに行ってくる。2人で話していなさい」


うわ、先生。集めるだけ集めて丸投げ放置ですか。


「貴様、さっきのは何のつもりだ?」


やばい、早速噛みついてきた。今になって後悔してきた。さっきの言葉取り消したい。


「えーっと、ほら、スキンシップの一貫?俺だってさ、別に仲良くとまでは言わないけど、結城と話せるくらいにはなりたいなって」


うん、苦しいがどうにか言い訳になっている気がする。結城の容赦のなさはそれでもチクチク言ってきそうではあるが。


「あんなに嬉しそうな雰囲気でか?言ってることと考えてることがどう見ても真逆だぞ」


あれ?え、なんでわかるの?


当たり(さわ)りのないことを、当たり障りのない顔で言ってきてもう1年以上経っている。誰にも指摘されたことなどなかった。中学の頃の奴らも結局俺のこの体裁を信じたからこそ、仲直りした気になって罪悪感を顔に浮かべることもなくなったはずだ。

もしかしたら、俺のことをわかっているというよりも、状況を整理し導き出した結果の言葉なのかもしれない。


「貴様のそのチグハグさは見ていて不愉快だ。気持ち悪さすら感じる」


なのにこいつはまるでそんな俺の本心などお見通しのような語り口調だ。

それに誰だって少なからず体裁を貼り付けて日々を過ごしているはずだ。なぜ俺だけを嫌う?別に最初からお前の事を嫌な気持ちで見ていたわけでもないのに。

俺の混乱など知ったことかとでもいうように、結城は口角を上げ言葉を続ける。


「なんだ?その意外そうな顔は。そんなにわかりやすい癖に、まさかそれでうまく隠せている、なんて思ってるんじゃないだろうな」


俺はもう、結城が、そして自分がわからなくなっていた。


「どうだ、少しは話せたか?」


どれくらいの時間が経ったかはわからないが、先生も戻ってくる。

しかし、思考の世界に入り込んでしまっていた俺は、帰ってきた先生に返答することすら忘れ、結城をジッと見つめていた。

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