お昼事情
「いらっしゃいませー!」
学食に敗北した俺は、新たに昼食を調達する場所を探すこととなった。朝8時頃だとコンビニくらいしかやってないんじゃないかと思っていたがそんなことはなかった。駅前のスーパーから、全国展開しているチェーンの弁当屋、そして商店街で個人で営んでいるようなお店まで8時の時点で開店していたのだ。
最初のうちはコンビニやスーパーを選択したのだが、連日だとすぐ飽きてしまいそうに感じた。なので次はチェーンの弁当屋に足を運んだが、弁当の味的にはここが1番好きだった。
しかし弁当にはどこでも言えることだったが、問題があった。弁当ってどこも思ったより高い!予算500円をオーバーしないように選ぶとかなり選択肢が限られる。それに学校には電子レンジなんてないので、温めてこそおいしい弁当というのも食べようとは思えない。
この時点で毎日弁当を買うという選択肢は避けたいところだった。なので安価かつ調達しやすいものといえばやはりおにぎりかパンだろう。幸い俺は大食漢ではない。一般的なパンの大きさでも2つ食べればお腹いっぱいだ。
おにぎり屋はなかったが、商店街には個人で営むパン屋があった。ここがもう大当たり。種類豊富で、1つ平均150円程度で購入できそれはもうおいしい。食パンを買って近くの揚げ物屋で適当に見繕い挟んで食べたりもした。
これからはパンと弁当の二足の草鞋でいくことになるだろう、さすがにずっとだと飽きるしね。
そんなこんなで今日もこのパン屋さんを訪れているわけだ。このお店に来ると、いつも既に多くの商品が並んでいて、奥で壮年の男性がパンを作っていて、壮年の女性がレジを、そして若い女性が奥でパンを作ったり陳列したりと臨機応変に動いている。家族かなんかで経営しているんだろうか。
今日は何にしようかと見ていると
「最近よく来てくれてるよね。今日はどんなパンを買うか決まった?」
話しかけられた。それも若いチャンネーの方に。今までこんなことはなかったが顔を覚えられていたようだ。この店は今の俺には必要だ。どうせなら気まずくならないようにちゃんと応対しよう。まあ話しかけられた時点でどうということは置いておく。
「どうも。ここのパンどれもおいしいですからね。今日はまだ決まってないんですけど何かおすすめとかあります?」
「お、そう言ってくれるとこっちも言いやすいよ。実はこのパン私が考えて今日新商品として並べたばっかりなんだけどどうかな。具はジャガイモとベーコンとたまねぎでバジルがかかってるんだけど!」
指さされた先には、他の商品よりも明らかに数が多いジャーマンポテトパン(バジルソース)と書かれた商品が並んでいた。
俺はこういうのに弱い。作りすぎたのか、それとも他の商品より売れてないのかはわからない。が、頑張って作って売れるかどうか期待半分、心配半分なところで売れていないと悪い方に想像してしまうと買わなければいけない義務感に駆られてしまう。まあ嫌いどころか、むしろ好きなタイプのパンなので喜んで買わせてもらおう。
「おいしそうですね。買わせてもらいます」
と同じものを2つトレーに乗せた。
「ありがとう!おいしかったらまた今度教えてね!あんまおいしくなかったら心の内に留めておいて。直接言われるとへこんじゃいそうだから……」
「分かりました」
▽
今日も昼食の時間に差し掛かり、最近お気に入りのあの場所へと歩き出す。それは入学初日に紅葉と行ったあの広場。あんなにいい場所なら人がいっぱいいそうなものだが、時を経るごとに広場に顔を出す人間は減っていっている。第一印象こそ感動するものの結局は慣れてしまうのだろう。それに校舎からも少し離れているしで、なかなか選択肢にはあがらないようだ。
広場に着くと誰もいなかった。授業が終わると同時にそそくさと教室を抜け出す俺はだいたい1番ノリだ。どうせいつも埋まることのない、広場周りに設置されたベンチに腰掛ける。ああ、なんて開放感なんだろう。目の前に広がるは一面の緑、聞こえてくるのは風と鳥の囀る音だけ。ここが昼食におけるベストプレイスなんじゃないだろうか。
そんな感慨に浸りながらパンを食べようかと思っていると、チラホラとだが生徒が来始めた。自分としては空間に1人だけというのもいいのだが、だからと言って人の喧騒が嫌いというわけでもない。自分さえ輪の中にいなければいいのだ。1人でいることで居心地の悪さを感じる教室や、あまりに密でなおかつ浮いてしまう学食が嫌なだけ。
ん、このパンおいしいな。でも勢いで2つ買っちゃったけど、どうせならもう1つは別の種類のパンにすればよかった。まあパン屋のお姉さんにはさすがにおいしかったと伝えよう。伝えないとまずかったって意思表示になってしまうしな。
一つ目を食べ終えてそんなことを考えていたところで
お、今日もきてる。
俺の座るベンチから離れた別のベンチに腰掛ける1人の女生徒。髪を染めている、いやあの明るさだともはや脱色しているのだろう。目つきは鋭く、他を寄せ付けないようなオーラを醸し出している。こういってしまえば不良を想像してしまいそうになるがあまりそんな印象は受けない。
初めてこの広場で会った時には、隣のベンチに腰掛けているこの子をつい思わず見つめてしまった。だってこの生徒、入学初日に電車の中で席を譲っていたあの子だったのだ。そうやって見ている俺に気づいた彼女にキッと睨まれてしまい、すぐに視線は外したのだが。
そんなことがあってからは近くのベンチに座ってくることもなくなったし、俺も相手に感づかれないように意識を向けるようにしている。
少人数でベンチに腰掛けている者や、芝の上で駄弁っているグループはチラホラいるが、1番意識が向いてしまうのは、唯一のおひとり様の常連に変な同族意識でも感じてしまっているのかもしれない。
まあだからと言って関わりたいわけではないし、そもそも怖いのだが。




