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虚飾性男子は恋すら喉を通らない  作者: 久栖ガマ
1章 それぞれの出発点
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夕陽紅葉の後悔②

【夕陽紅葉視点】


教室に紗由ちゃんがやってきた。

つい3ヵ月前までは家に遊びに行った時によく顔を合わせていたが、それ以降は同じ住宅街に住んでいるとはいっても顔を合わせる機会はなかった。もしかしたら邂逅(かいこう)もあったのかもしれないが、私は意識的に悠の家を見なかった。


え?


紗由ちゃんのケータイから流れてくる会話に、破裂するのではないかというほどに心臓が鼓動を早める。嘘だ、こんなことあっちゃならない。悠は今どんな顔をしているんだろう。怖くて見れない。

……だめだ、気持ち悪い。

現実を受け入れたくない私は吐き気を抑えるのに精一杯だった。


私はトイレへ走った。間に合わなかった。吐瀉物(としゃぶつ)にまみれた便器を見ながらドアを背に、呼吸を整えようとする。悠は私を裏切っていなかったのか。いや、いなかったんだ。裏切ったのは誰だ。久愛だ。美宇だ。そして、私だ。


なぜ私は悠を……。


便器を掃除しながら、私は今の私を俯瞰(ふかん)した。なんて情けない姿だ。悠はきっとこんな私とは2度と話してくれない。私に償うことはもうできない。


……償う?


どこまでも浅はかな自分の思考に思わず苦笑が漏れる。違う、私は悠の隣にいたいだけなのだ。ただただ自己中心的で利己的な思考を、まだ悠を盾にしようとしている事に気づいた。



久愛の事が許せない。でも責める勇気が出ない。それは私に返ってくると分かっているから。

そうして頼りをなくした私は、全てを避けるように数日を過ごしていたが、まもなく久愛が転校することを知った。


久愛の転校を告げられた日の帰り、まだいろいろな感情が内在していた私は下駄箱で久愛と偶然顔を合わせた。

何を言うでもなく数秒を見つめ合っただろうか。無表情から久愛の顔は見る見る内に変化していった。悲壮や悔恨(かいこん)が浮かぶものとばかり思っていた。


久愛は、あの女は、卑しい笑みを浮かべ、私に話しかけることなく去って行った。



おかしい、意識しないようにしていたとはいえ、クラスのみんなが悠を無視し陰口を叩いていた事くらいは把握している。


なぜ、普通に話してるの?


今も気まずそうな顔をした、悠とは同じ部活だった山崎君が悠に近づいて行き頭を下げている。悠があどけない笑顔を向け言葉をかけることで、山崎君はまるで許しを得たかのように顔を(ひしゃ)げさせ、輪の中に入っていった。


……私も謝ればまた悠と幼馴染に、恋人に戻る事ができるのではないだろうか?そうだ!悠は優しいのだ!

それに自分で言うのもなんだが、彼らよりも私の方が悠との繋がりは強かったのだ。


私は簡単にではあるが計画を練った。最初は偶然を装い悠に会い、そこで謝ろうとしたがそれでは誠意を感じてもらえないかもしれない。なので勇気を出して私は悠を呼び出した。


「急に呼び出してごめんね」

「いやいいよ、なに?」

「悠!今まで本当にごめんなさい!私は悠を信じるべきだった!悠がそんなことしない人だって私が誰よりも分かってたのに。図々しいかもしれない。でも良ければ元のように仲良くしてください!」


一拍置いて悠は笑顔を浮かべ


「うん、あんな状況で信じれなかったのはしょうがない。俺だって逆の立場ならそうだったかもしれない。あんま気にすんな」


私は天にも昇る思いだった。


「ねえ、また明日から一緒に登校しない?」

「わるい、それはまだちょっと。俺も少しの間一人で心を落ち着かせたい」


しょうがないよね、でもこれで私たちは再スタートを切れたのだ!


そこからは、登下校こそ一緒にできなかったが、時折悠と話に花を咲かせることができるようになっていた。でもあと1年とちょっとでこうやって悠と話せなくなるかもしれないのだ。ならば答えは簡単。

悠と同じ高校へ行けばいい。

進路調査の折、担任に突撃することで悠の志望校を知ることができた。どうやらこの近辺でも最難関の涼修高校なんだとか。悠最近勉強頑張ってるもんね。

平均程度しか勉強できなかった私はそこから死に物狂いで勉強した。

そして晴れて、2人で涼修高校への合格をもぎ取ったのだ。



まだ私は気付かない。

彼が私に向けてくれる笑顔は、1度としてあの頃の私の大好きだった優しい笑顔ではないことを。虚飾にまみれたハリボテの笑顔ということを。

これにて紅葉視点は一旦終了となります

明日も19時と20時の2話更新です

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