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虚飾性男子は恋すら喉を通らない  作者: 久栖ガマ
1章 それぞれの出発点
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夕陽紅葉の後悔①

【夕陽紅葉視点】


私はなぜあの時、悠を信じなかったのだろう。


事の発端(ほったん)となったホームルーム、あの時久愛の口から出てくる言葉により私の頭は思考を放棄した。

聞きたくない!理解したくない!

いつの間にか教室から悠はいなくなっていた。


茫然自失のまま私は部活に出ることも忘れ、気付けば自室のベッドに横たわっていた。

部屋から悠の部屋を見る、もしかしたら悠が顔を覗かせてくれるかもしれない。

いやだ、今悠の顔は見たくない。見てしまったら私の心は押し潰されてしまう。反射的に悠の部屋から目を背ける。まるで無重力だ。浮遊感を伴う感覚を覚えながらも私は力なくケータイを手に取る。


『どういうことか説明して』


それだけ打ち送信しようとする。送るのが怖い自分と救いが欲しい自分、当分の間指は送信することを迷っていたが、逡巡(しゅんじゅん)の後ボタンを押す。


送った!これで真実がわかる!救われる!


そんな風になぜか私は喜んでしまったが返信は来ない。今どれだけの時間が経っただろうか。時計を見てみるがまだ30分も経っていなかった。

永遠にも感じられる時間から逃避するように、私は本棚からアルバムを取り出し今までの悠との思い出に助けを乞う。


幼稚園の時からいつも私の隣にいた彼。私が困っていると助けてくれて、決まって私に優しい笑顔を向けてくれた彼。写真を撮る時だけはどういう顔をしていいのかわからず恥ずかしそうに少し顔を背ける癖のある、今では私の愛しい人。


ブブブ、ブブブ


ふいに、返信を知らせる音が響き渡る。優しい思い出に占められていた私の頭にはもうこれで救われるという考えしかなくなっていた。


『ごめん、ちょっとまだ頭の中がこんがらがってる。明日の登校の時に話すよ』


私は救われなかった。いや、より悪い。私の地獄は引き延ばされた。


ブブ、ブブ、ブブ、ブブ


諦めかけたその時、部屋に再度響き渡る音。習慣からかメールではなく電話と本能的に察した私は、誰からの着信か確認することなく


「もしもし!悠!」

「もしもし、私、久愛。ごめんねこんな時間に」


久愛から語られる言葉に、不安定になっていた私の思考は簡単に誘導された。


一睡もできず、翌日悠との待ち合わせ場所に私は向かった。こんなに苦しいのに悠は先に待っていてくれなかった。

少しの間待っていると、悠がやってきた。


「あんた何やってんのよ!久愛に全部聞いたわよ!悠がそんなことする人間だなんて思わなかった!」


何も考えずとも私は口を開いていた。

悠の呆気に取られていた表情が少しずつ変化する。焦燥を浮かべた顔が否定の言葉を口にするが、それだけの言葉でどう否定しようというのか。


そして悠の顔は何かを諦めたような、悲しそうな顔に変化したかと思うとそのまま走り出した。そんな顔をしたいのは私の方だ。なんで私を傷つけたあんたがそんな顔をするの?


悠の裏切りこそが真実だと、その時の私の思考は一色に染まっていた。


翌日、悠から別れのメールが送られてきた。

これで全て終わったんだ。私は脱力する。

返信はしなかった。裏切りに対する怒り、簡単に別れを切り出すことへの怒り。心の奥底ではこれで私が肯定してしまうと本当に終わってしまうという恐れもあったのかもしれない。


それからの日々はまるで色が抜け落ちたように思われた。前まであんな色鮮やかに見えていたのに。悠と一緒の班だと喜んでいた修学旅行もいつの間にか終わりを告げていた。

それからの学校生活は完全に悠に対しての全てを思考から追い出した。


鬱屈(うっくつ)した日々の中で、あんな事件があった後でも変わらず元気な、いや今まで以上に笑顔を振りまく久愛だけが大きく印象に残っていた。

紅葉視点が続きます

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