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虚飾性男子は恋すら喉を通らない  作者: 久栖ガマ
1章 それぞれの出発点
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入部

あれからいくつかの部活を回ったが、最初の方に回った部活と比べて良い感触は得られなかった。


「悠はどの部活に入るか決まったのか?」

「うーん、3択って感じかな。でも1つは結構お金掛かりそうなんだよね。軽く調べた感じ運動部以上に必要になりそう」

「3択か、どういう部活なんだ?」


やりがいの行事実行委員。

拘束時間が少なく、自分の性質に合う園芸部。

興味()かれる活動内容の外遊部。


俺は候補の3つを父さんに説明すると


「なるほど、まあそのアウトドアをする部活に入るならお金が必要になってくるだろうな。もしアウトドア部に入りたいけどお金の事で悩んでるなら、中学の時の賠償金から出すのはどうだ?」

「え?」

「あの時のお金は別に取ってある。お前が仕事に就き俺の元を離れるときに渡そうと思っていた。あれはお前が被害にあったんだ。それを私が元々払おうとしていた養育費に当てるつもりはない。さすがにこの歳であんな大金を渡すのは(はばか)られるから渡さないでいたが、部活動のための必要経費としてなら必要な分だけ渡そう」

「マジで?いいの?普通に学費だったり生活費に充ててくれていいよ?」

「それは私が認めない」


マジか。これが過保護というやつだろうか?いや父さんなりの矜持や思いやりなのだろう。

それなら……


「うーん、じゃあ俺アウトドア部に入りたい。キャンプとか凄いしてみたかったし、やりたいことやれるだけで高校生活もまた違ったものになると思う」


最後まで外遊部と園芸部で迷ったが、園芸部に入ると高校生活は何1つ張り合いのないものになってしまうと感じた。どうせなら1つでも楽しいと思えることを見つけることができれば、俺の高校生活も悪くなかったっていつかは思えるようになるんじゃないだろうか。


「そうか、しっかりいろんな経験を積んで楽しみなさい」

「ありがとう」



「先輩、1週間とちょっとぶりです。入部届もらいたいんですけどいいですか?」

「私は持ってない。顧問は多井中先生だからもらいに行くといい」


心なしか嬉しそうな、いやそうでもないか。普通に無表情だったわ。ってか多井中先生が顧問かよ。


「わかりました。そういえば俺以外に誰か入部希望者いました?」

「あなたで2人目。昨日来た生徒がそのまま入るって」


部室は許してもらえそうなのかな?まあ入部のタイムリミットまではあと1週間あるし、まだ増える可能性はある。


それにしても見学期間が始まってもう2週間近く経つ。見学期間自体は今週末で終わり、来週はどこに入るかを考える猶予期間のようになっているのだが、先輩が2週間も1人で戦ってきたと思うと感慨深さすら感じてしまう。2人と決して多くない人数ではあるが、俺以外にも入る人が見つかって本当に良かった。


「部活っていつからですか?」

「まだ4月は終わってないけど、見学期間はもうすぐ終わるから週明けの月曜から始めようと思ってる。放課後この教室に来て。持参物は必要ない」

「そういえば先輩の名前聞いていいですか?遅くなりましたが俺は高崎悠って言います」

橘雪奈(たちばなゆきな)、2年生、よろしく」

「橘先輩ですね。これからよろしくお願いします」


先輩に挨拶を済ませた俺はその足で、担任であり外遊部の顧問でもある多井中先生に入部届をもらいに職員室まで来ていた。


「先生、外遊部に入ろうと思ってるんですけど、先生が顧問と聞いたので入部届をもらいに来ました」

「ああ、えっとお前はうちのクラスの……」

「高崎です」

「そう、高崎。外遊部に入ることにしたのか。ちょっと待て……あった、これだ。今ここで書いてくれればそのまま受理するぞ」

「わかりました。ペンお借りしてもいいですか?」


顧問と担任が同じだから書いてそのまま渡せばいいのは手間が省ける。


「現状3人って聞いたんですが、人数の都合で廃部なんてことになったりしませんか?」

「それは問題ない。当校では活動内容に問題ないと判断され承認されていれば、2人以上の人員さえ確保できれば部として活動することができる」


先輩……部室どころか誰も入らなければそのまま廃部だったんじゃないですか。承認されてたのは一時的なものだったんじゃないんですかね。

まあ外遊部なんて言ってるが、活動内容の不透明な部活ならいざ知らず、実態は一般的なアウトドア系の部だ。新しいものに拒否反応を覚えることはあっても、当たり前に使い古されたものには寛容になりやすい、そんな原理も相まって比較的承認されやすかったのだろう。


「部室は大丈夫です?」

「現状校舎と部室棟合わせた教室数が部活動の数を上回っている。運動部は自分たちの練習場 の最寄りの空き教室を部室として申請している部も多いし、部室棟があの大きさだからな。だが絶対安泰というわけじゃない。今から新たな部が乱立でもすれば、そのときに考慮されるのは実績と所属部員数だ」


まあいきなり部活が乱立なんて現実的じゃないし問題ないだろう。それにもし部室棟を追いやられてもどこかの空き教室は使わせてもらえる気がする。


「あ、最後にいいですか?もう1人の1年生ってうちのクラスですか?」

「いや、確かD組の女生徒だったはずだ」

「なるほど」

「まああれだ、普段必要ない時は私は顧問を兼任している新聞部に顔を出すことが多いかもしれないが、外遊部は活動内容からも私が同伴しなければいけない機会も出てくるだろう。これから長い付き合いになるがよろしく頼む」

「いえ、こちらこそよろしくお願いします」


んー!

職員室を出て、ここ2週間の事を思い出しながら伸びをする。第一希望が熱血文芸部だったときはどうしようかと思ったが、無事楽しみと思える部に入部も決まったし、いろんな部を見て回るのは楽しかった。1人で回れた気楽さも大きかった気がする。

2週間のうちに、教室で話し掛けられれば普通に接するが、それ以外のときは俺1人で行動してるのが普通みたいな空気感ができたことは大きかった。初日に話しかけてきた曽我もたまに話はするが、今では他の奴と話していることの方が多い。


「悠ー!」

「奇遇だな」


気分よく歩いていると、偶然向こう側から紅葉が手を振って走ってくる。


「部活決まった?」

「外遊部に」

「あーアウトドア系の部活なんだっけ?でもそれならさ、お互いにもう部活が始まるわけだよね?私はこれから朝練も始まるし、放課後だってなかなか足並みは揃わないと思う。だから今日の下校と明日の登下校は一緒にしない?」


そうか、部活どころか部の系統まで違うとそういうことになるのか。僥倖(ぎょうこう)だわ。ならいいか。


「そうだな。これからはもう一緒に登下校とかきつそうだし帰るか」

「うん!」


俺はこれが紅葉との最後の登下校になるとわくわくした心持ちで帰宅した。

設定としては収入が決して多いとは言えない家庭です。部活動の必要経費は父親に普通に払わせることも考えましたが、父親が悠の気持ちを慮った結果としてこうしました。

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