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魔王アリカは怠惰に暮らしたい  作者: 398
魔王アリカは怠惰に暮らしたい

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25話 / アリカとシリカ

 ――今夜で五つ目の領地だ。アリカは自らの領域にある和風庭園、白砂利が敷き詰められた景色を眺めつつ頬を緩めていた。夜の月明かりに銀の髪が輝き、夜と同化したドレスが緩やかな風に揺れる。魔王として自由気ままに振舞うことは楽しかった。そこに新しい自分の居場所を見つけた、そんな気がしていたのだ。


「……さぁ、時間ですね。でも、頂いた領地の使い道が無いんですよね。わざわざ私が管理するのも面倒ですし、なにより尽きぬ焔の約定で戦っちゃうと焼け野原になっちゃうで景観も何もないですし」


 後から人為的にプレイヤーの手によって建てられたオブジェクトは須らく破壊される。対照的に、抉れた土や折れた木などは戦闘スキルによって破壊された場合、暫く放置しておくと再びその姿を自然と取り戻すのだ。地形を変えたくば、専門のスキルを取得するか、取得済みのプレイヤーに依頼するしかない。


 そんなどうでもいいことを憂いながら、アリカは帰還の鍵を起動し、アイゼンベルクへと降り立つ。オニギリとはそこで待ち合わせをしていた。アリカ自身、オニギリが何やらこそこそと進めていることは知っていたが今更どうでもいい。領地戦を仕掛ける時に手伝ってくれれば何の問題もない――。


 帰還の鍵を起動したアリカは一瞬で空に浮かんでいる自身の領域から、アイゼンベルクの街の外れへと転移する。そこから暫く歩けば、今回領地戦を仕掛ける対象が見えてくるのだ。ゆっくりと歩を進めていく。その心中には止められたいという思いもあったが――それ以上に、自らの思うがままに力を振るうことの楽しさがあった。


目の前に見えてきた、今夜の相手となるギルドの領地。尽きぬ焔の約定を発動させ、燃え盛る紅蓮の炎を纏いつつ、アリカは声を上げて宣言する。


「――さぁ、準備は出来ているか。事前に伝えている通り、その土地を返してもらいに来たぞ?」


 その領地の周りには人が多くいた。防衛の為に自らの領地まで戻ってきたギルドのプレイヤー達だ。彼らはそれぞれの武器を構え、アリカへと切っ先を向けている。刺々しい感情が伝わってきて、アリカは一瞬だけ胸に痛みを感じたが――それを振り払い、これまでと同じように、プレイヤー達を薙ぎ払おうと右手を天へと伸ばす。


 いくつもの紅蓮の槍がアリカの頭上へと生まれた。かつてのイベントで何百人ものプレイヤーを一瞬で薙ぎ払ったスキルだ。フィールド・アーツによる炎のスリップ・ダメージは耐性装備で無効化されたが、この紅蓮の槍は生半可な耐性如きでは無効化できない。後はこれを放って人数を減らしたら、領地に足を踏み入れて、抵抗するプレイヤーをキルしていけばそれでいい――。


 今夜も、そう終わる筈だった。


「ん、なんだろ、あれ――」


 相手の陣地に一際大きな炎が燈った。それは――中空で輪郭を結び、明確な槍の形を作り出す。それらが一斉に射出され――目の前で何が起きているか理解できないアリカは、自らが生み出したいくつもの紅蓮の槍を、全て相手の陣地から生み出された紅蓮の槍によって打ち砕かれていくのをただ見ていた。


 ぱらぱらと舞い散る火の粉の先。

 そこに在った姿にアリカは瞳を見開いて、心に生まれた憎々しい感情のままに声を上げる。


「――なんで、お前がその場所にいるんだ……ッ!」


 背後に控える陣地を守るように立つ人影。見慣れない装備に身を包んだラインハルト、そして刻の魔王としての戦闘服を纏っているシャーロット。彼らを従えるように先頭に立つのは――その身を紅蓮の炎に包んで、黒ではなく白銀の髪を熱風に躍らせ、アリカへ向けて指の先を伸ばしている――シリカ・ルーセントハートだった。


「今まで済まないな、まさかログアウトしている間に――余が起動したリミテッド・クエストで生まれた、余のそっくりさんが領地戦だなんて仕掛けてきているだなんて知らなかったのだ。……余に任せておけ、この領地はあんなNPCには渡さんよ。なぁ、ラインハルト、シャーロット?」


 頬を歪めたアリカは混乱していて、自らと同じ見姿をしたNPC、シリカが言っていることが理解できない。何故、お前がそこにいる。何故、ラインハルトやシャーロットもそれが当然と言わんばかりに、そこに立っている? リミテッド・クエストとは何の話だ? 疑問が疑問を呼ぶ。三人が揃っているその光景に、嫉妬にも近い感情がアリカの中で渦巻いて、何を言えばいいか分からなくなる――。


「そうだねえ、今まで好き放題暴れまわってくれた分、ここでしっかりケジメを付けてもらわな――」


 何かを言いかけたシャーロットの上半身が吹き飛んだ。闇の中から現れたオニギリの渾身の蹴りが、何の防御態勢も取っていなかったシャーロットを直撃したのだ。ポリゴンとなって散っていくも、直ぐにシャーロットの死は無かったことにされる。刻の魔王の権能が発動し、時間が巻き戻り――。シャーロットは巻き戻った後の世界で左から来るよ、そう叫びながらオニギリの渾身の蹴りを両手で受け止めながら大きく吹き飛ばされていく。


「……ち、ちょっと、オニギリ君――気配消しのマントって、本気過ぎない?」


 オニギリの一撃は体術スキルであるガードを貫通してシャーロットのライフポイントを大きく削る。だが半分は切っていない。熟練度最大、そして被弾する直前に大きく身体を吹き飛ばされる方向へ向け飛ばし、衝撃を流した結果だ。高速で流れていく視界の中、シャーロットはオニギリの体術スキルのセンスに思わず舌を巻く。


「ヒントはやった、ここからは本気のPvPだ――いくぜ、刻の魔王さんよ。お前に何度目かの黒星、なすりつけてやるよ!」


「――残念だけどこれはPvPじゃなくて、ただの領地戦なんだよね。一対一みたいに上手くいかないってこと、教えてあげるよ!」


 幕を上げた領地戦、オニギリはシャーロットのライフポイントを完全に吹き飛ばすべく、地面を蹴り飛ばして飛んでいく。アークロイヤルもそれに追従するかのように駆け出していき、残されたのはアリカと同じ見姿をしたシリカ、そして――真っすぐにアリカに視線を向けるラインハルトだけとなった。


「……私は、理解できないです。なんであなたが、のうのうとその場所に立ってるんですか、シリカ・ルーセントハート! それに先程の戯言はなんですか、私が、NPCだって……!?」


 目の前で起きていることが信じられない、そうアリカは眉を顰めて不快感を露わにしながらシリカへと問いかける。それを聞いたシリカは返事を返さず、ただただ冷たい赤の瞳でアリカを見下していた。アリカの宵闇のドレスとは違う、純白のドレスが夜の風に舞う。まるで自分の居場所を奪い、そこに都合よく収まったかのようなシリカの言動、それはアリカを非常に苛立たせていた。


「おい、ラインハルト。……元はと言えばお前が原因の騒ぎだ、お前があれを片付けろ。なに、もしまたお前が倒れても――余が出てやる。安心して挑んで来い」


「随分と上から目線で……。存じてますよ、魔王様――では、遠慮なく挑んできましょう。骨は拾ってくださいね?」


 大剣を構え――ラインハルトは本物の紅蓮の魔王、アリカ・ルーセントハートと対峙する。この場で問いかけて、彼女が答えてくればそれでいいのだが、きっと彼女は答えてくれず会話は成立しない。そもそも、話す気があるのであればチャットを非通知にしたりなどしないからだ。


「私は、せめて魔王らしいことをしようと思っていただけなのに。そうやって、シリカも、一度は辞めたラインハルトさんも、邪魔をする。正面から来てくれればそれでいいのに、こんな手の込んだやり方――!」


 自分でそう言ったところで、矛盾しているのは知っていた。正面から来たところでチャットを無視していたのもアリカ自身だ。きっと領域の門を叩かれていたところで、話をせずに追い返していたところも想像できる。だけど、だけど――どうしてそんな自らの魔王としての居場所までをも奪おうとするのか。


 ごめんなさい。少し会話して、そう謝ればこれは解決した話だ。だけどその切っ掛けを無視したのも、アリカ自身である。つまるところ――これはアリカの幼さと、癇癪が起こしたどうしようもなく、そしてくだらない、ただの喧嘩。それでも、渦中の当人にとってはくだらなくも、そしてただの喧嘩でもない。子供が大人になる為の、大事な切っ掛けだ。納得して、受け入れて、和解する。それを学ぶ、掛け替えのない機会だ。


「……悪いですけど、アリカさん。僕が、あなたを倒します。そして、僕とアリカさんで会話をしましょう――僕が怒ってしまった理由も、アリカさんが、あんなお金のことをなんでもないような事のように喋った理由も、そこで教えてください」


 ラインハルトは構えた大剣の柄を強く握り締めて、深呼吸を一回した。大きな口は叩いた、もう負けることは許されない。それに、彼女を納得させるには僕が勝たないと駄目なんだ、と闘志に震える心を落ち着かせる。


「――普通、子供の癇癪にここまで付き合ってくれる他人は居ませんよ。腹立たしいですが、随分と運がいいですね」


 シリカ・ルーセントハートは目の前で対峙する二人を見ながら、疲れたように小さな愚痴を零した。そして、自らがここに立つこととなった経緯を思い返す――。


 ……


 場所はリインカーネーションの森。かつてアリカとユークリッドが何度も何度も戦った、古ぼけた闘技場の真ん中。基幹AIであるルーセントハートと、黒髪のシリカはお互い疲れたような顔をして倒れた石柱に腰掛けながら会話をしていた。


「ラインハルトさんにはアリカさんのリミテッド・スキルのネタバレをしてきました。アーツも受け取って貰えましたし、彼女を止める目途は立ちましたね……プレイヤー、オニギリがアリカさんの方に付いてしまった以上、プレイヤー、シャーロットとプレイヤー、アークロイヤルの二人だけでアリカさんを止めるのは難しいですから」


「……へぇ。いいんですか、そんなバラしなんてして。暴露されたら話題になりますよ、きっと。シード・オンライン公式がプレイヤーの依怙贔屓をしてるって」


「そこは大丈夫でしょう。マーケティング・チームも居ますし、何より今の接続人数は昔に比べて大きく増えています。ラインハルトさんのような、無名のプレイヤーが声を上げたところで根も葉もない噂として、掲示板の隅で文句を言われるだけですよ」


「随分と太い基幹AIさんですこと。……で、後は私が仲裁に入ればそれでいいんでしたっけ。態々私が出なくちゃいけないのも、すごい癪なんですが。あの様子だと、お父さんとお母さんの経歴も何も追っていないですよね?」


「――接続時のバイタルや会話のログを見ても、追ってはいなさそうです。元々、ヒントがなければ気付かれないよう色々と仕込みはしているので、多少待つことは想定内です」


 呆れたように溜息を零したシリカは立ち上がり、大きく伸びをする。


「まぁ――記憶だけで、本当に体感していない感情だらけですからね。こんなトラブルが起きるかもとは思ってましたけど、一般プレイヤーに喧嘩を売りに行くほど拗らせてるとは、私自身もそう思いませんでしたよ」


「そんなこと言わないでくださいよ。……でも、上手くいけば初めて喧嘩した相手と、初めて仲直りすることになるんですね。どうでしょう、アリカさんとプレイヤー、ラインハルトさんがくっ付いてしまうというのは? あなたから見てどうでしょう、シリカさん?」


「……ルーセントハートさん、それ本気で聞いているんですか。少なくとも、私の好みとは違うのでくっ付くだなんてことは無いと思いますが」


「吊り橋効果ってご存じでしょうか」


「知っていますよ、流石に。どれだけ本を読む時間があったと思ってるんですか……そんなことより、スキルを払い出してください。少なくとも、私はアリカ・ルーセントハートになりきる事が必要なので、氷じゃなくて炎――尽きぬ焔の約定を。あと流転の剣ですね、ユークリッドさんからドロップするアーツ・クリスタル」


「あら、浮ついた話は苦手ですか、ふふふ。……転移すると同時にスキルは払い出しますので、つつがなく進める様お願いします」


 ルーセントハートが微笑むと、直ぐにシリカの足元に魔方陣が浮かび上がり、リインカーネーションの森から――アイゼンベルクへ転移する為の準備が整った。シリカは面倒そうに自らが呼び出したパネルをつらつらと操作すると、髪の色が黒からアリカの髪色に近い銀色へと移り変わる。そして、瞳の色も黒色から赤色へと変わっていった。 


「……あとで、髪の色と瞳の色は戻してください。プリセット、ありますよね」


「はい、当然承知しています。では、よろしくお願いします」


 ルーセントハートがぺこりと頭を下げると、それを切っ掛けとしてシリカのアバターがゆっくりと消えていく。本来であれば一瞬で転移する仕様なのだが、こんなにゆっくりと消えていく演出が入るということは、ルーセントハートの仕込みなのだろう――シリカは呆れたように溜息をついて、ルーセントハートへ問いかける。


「……で、これはなんです?」


「せっかくなので好みのタイプでも聞いておこうかなと。そういう話、長らく共に過ごしていますが全然聞いていないと思いまして」


「そういうNPCを用意されても困りますし、そもそも私の好みだなんて知っても意味がないじゃないですか。まったく、がらんどうな問いかけでしかないですね――」


 困ったように笑って、シリカはアイゼンベルクへ向けて転移した。

 転移が終わったと同時にシリカの視界に入ったのは夜の闇に包まれた海岸線。ルーセントハートが与えた管理者権限を用いてシリカはコンソールを起動して、ラインハルトの位置を掴むとそこへ向けて歩を進めていく。そして、気配を殺して近づいていき――声が届くまで接近して、口を開こうとした。


「――誰?」


 だが、それよりも早く――刻の魔王、シャーロットがシリカの気配を察知し、先制するかのように理滅の刃を向けて声を上げた。


「――お久しぶりです、忌々しい刻の魔王と、ポンコ……じゃなかった、極光の魔王。それとそこの騎士君は初めてですね? ちょっとばかりお手伝いに来ましたので、パーティに入れてくれませんか?」


 驚きに瞳を揺らしたシャーロット。アークロイヤルもそれは同じようで、何、と驚愕の声を零す。ラインハルトは二人を見比べつつ、突如として現れたシリカを見て――アリカ当人が訪れたものかと勘違いし、声を詰まらせていた。何せ、今のシリカ・ルーセントハートは元々は黒色だった髪を銀色に染め上げ、瞳の色まで赤色と、身に纏う白のドレス以外は全てアリカと同じだ。


「随分と、奇怪なご挨拶だね。前回のイベントの仕打ち、私は忘れていないんだけどな?」


「あぁ、それに文句を言われても困ります。シャーロットさんが受けたユークリッドさんのあのスキルはそもそもDPS――火力役が受けられる設計にしていないんで、正しい結果ですよ。タンクがヘイトを集めて、防御バフと無敵スキルと根性でライフを一残しして耐える前提ですから」


「……よく言うよ。その後、予兆なしに撃ったスキルって強制全滅技じゃん」


 悔しそうに顔を歪めたシャーロットは、今のところシリカ・ルーセントハートに敵対する意思はないものだろうと見做し、理滅の短剣を下げる。ただ、手放しはしない。何か変な挙動を見せたら直ぐに短剣攻撃スキルを発動させんとしていた。


「あれ、いや……アリカさん、じゃない?」


「ラインハルトさんはお初でしたね。リミテッド・クエストで登場するシリカ・ルーセントハートです。……まぁ、あなた達が紅蓮の魔王を止めるに至るまでのお助けNPCとでも思ってもらえればいいですよ」


 何が起きているのか理解できていないラインハルトは首を捻り考え込んでしまった。まぁそうですよね、と説明がめんどくさそうにシリカは頭を掻く。本来ならば自分にこんな出番はなかったのに――怠惰にしていたかったシリカ・ルーセントハートは仕方がないと諦め、自らの目的を説明することにした。


「目的はアリカ・ルーセントハートとあなた達の仲直り。システムが一人のプレイヤーに制約を課すのは最終手段なので、今夜あなた達が勝負を仕掛けて負けると困るんですよ。リミテッド・クエスト的にも、システム的にも」


「わざわざシード・オンラインのNPC一人がプレイヤーたった一人の為に出て来て、こんな提案をすると?」


「ええ。目的を果たす最後の防波堤として私が立つ、ですね――それだけ、彼女のリミテッド・スキルは特別なんですよ」


 ちらりとシリカがランハルトへ向けて視線を向けた。ラインハルトはまだ誰にも伝えていないルーセントハートから譲り受けたアーツと、アリカがリミテッド・スキルを取得したタイミングを思い返し、なるほど、とどこか納得したように頷く。


「……理解しました、僕は、その話を信じましょう。確かにあのスキルは特別かもしれません」


「ラインハルト君、何か知ってるの?」


「少しだけ、イベントみたいなもので。……まぁ、僕が言っていいことなのかは分からないので、事が終わったらアリカさんから聞いてください」


「うわー、私とアークロイヤルが仲間外れみたいじゃん。いいでしょう、終わったら本人に聞いてみるから」


 思ったよりすんなりと話を聞いてくれたな、とシリカは思った。もう少し説得するのにごたごたするかと考えていたから、思いがけず上手くいってよかった、そうほっと一息つく。続いて、目的を達成するための手段を伝えていく――。


「で、手段についてですが。……彼女のスキルはメンタル、いわばあなた達でいうバイタルチェックに大きく左右されます。正常値のグリーンであれば十二分に力を発揮できるんですが、イエロー以上――注意の状態だと、大きく性能がブレます。上振れもしますが、大抵はマイナスの影響を受けて下振れしますね」


 それは、アリカも知らない尽きぬ焔の約定の裏仕様だ。


「――ちょっと待て。そんなスキルがあるのか? 俺の極光にもそんなものは無い。スキルは常に固定威力、使うマナである程度規模は定められる程度だ。それが、特別なスキルである所以か?」


「まぁ、そんなところです。設計思想が他の物とは違うんですよ、あれは」


「……それ知って、私達はどうすればいいのかな?」


 面白い事になってきた――そんな思いを隠せず、シャーロットは頬を緩めながらシリカへと問いかけた。シャーロットは自由気ままにに動けるこの世界が好きだ。そして今、この世界の住民から本来であれば知り得ない話を聞かせてもらっている。それはシャーロットにとって、とても楽しい事なのだ。もっと深く深く、自らがこの世界から離れることになるまで、多くの事を知って理解していきたい――そんな生粋の願いから零れた笑み。


「――私が彼女になりましょう。紅蓮の魔王としてあなた達とパーティーを組んで、今暴れているアリカさんは――そうですね、リミテッド・クエストを攻略し損ねて暴れてる敵NPC、ドッペルさんにでもしちゃいましょうか」


 思いもよらぬ提案に、シリカを除く三人は呆然とした。確かに、見た目は殆ど同じだ。でも、スキルまではどうしようもない――直ぐにボロがでるだろう、そうアークロイヤルが口を挟もうとした瞬間。一メートルもない短い紅蓮の槍が、アークロイヤルの真横へと突き刺さる。それは、アリカが好んでよく放つスキルと同一のもの。


「成程、そういうこと……これはまた、シリカは随分と特殊なNPC、いや、独立した存在みたいだね?」


 かつてのシリカは氷のスキルを放っていた。凍て付く氷の槍や、自らを覆う、理滅がなければ到底突破は出来ないであろう、強力無比な防御スキル。そして極めつけはアディクションというプレイヤーに許された個々のスキル依存度による特殊攻撃まで。それが今になって、氷ではなくアリカと同じ炎のスキルを操っている――ただのNPCに許される範疇を越えていた。


「ま、特別と言えば特別ですね。運営側ではないですけど」


 紅蓮の魔王に成れる証明をしたシリカは指先を振って紅蓮の槍を消失させる。


「もしかして、アレも使えるの? 新しいアーツ、大灼天紅蓮焔延天だいしゃくてんぐれんえんえんてん


「使えますが、目立つので証明はできませんよ。……というか、そのアーツは本来は私の物です。むしろ、使えない理由がないですね」


 ――私の物。それがやけに引っかかったが、シャーロットは今聞かなくてもいいことだ、と判断して聞くのを止めた。


「という訳で、三人とも納得出来たらパーティを組んでください。――アリカさんが攻撃を仕掛けてきたら私が同じスキルで全部撃ち落とします。そして設定を語って、アリカさんに動揺してもらったところで挑んで貰う感じで。失敗したら私自身が彼女を下します、そうならないことを祈っていますが」


 シリカが自らのパネルを呼び出すと、さっと素早く操作してシャーロット、ラインハルト、アークロイヤルの三人にパーティを飛ばす。NPCが飛ばしてくるのか、そう驚きつつも三名はそれを承諾して、パーティを組んだ。そのタイミングで、シャーロットがあっ、と声を零す。


「どうかしましたか、シャーロットさん」


「いや、私達も三人で組むところだったんだけど。パーティの名前変えてくれない? 紅蓮の魔王をボコり隊、で。パーティ名にはこだわりがあってさ、やる気が変わってくるんだよね」


「趣味が悪くありません?」


「ちなみにあなたと戦った時はレアボスをボコり隊だったよ」


「私がレアボス扱いですか、そうですか……いやまぁ、あの時の立場的に間違ってはいないので正しいのですが、ちょっとばかり八つ当たりもしたくなりますね。……はい、パーティのリーダーをシャーロットさんに譲渡したので、お好きに変えちゃってください」


「――『(人”▽”)ありがとう☆』」


 ホログラフ・キーボードを打ち込んだかと思えば顔文字がチャット欄に表示された。シリカはそれを見て、げんなりしつつハイはい、と受け流す。アークロイヤルもシャーロットとの付き合いは長いのだが、そんな書き込みは初めて見たと思わず目を丸くする。


「そんな化石みたいな顔文字、久しぶりに見ましたよ……それじゃあ、アリカさんと向かい合う時の段取りは出来たということで。これから直ぐだとは思いますが、よろしくお願いしますね」


 そんなシリカ・ルーセントハートを横目で見ながら、シャーロットは思考していた。なぜ、彼女はアリカと同じ姿をしているのか。なぜ、アリカはそんな特別仕様のスキルを受け取っているのか。最後に――シリカの存在について。


「(――シード・オンラインの入力プリセットに顔文字は無い。ゲームのNPCであると仮定したら、チャットのログからこの時代の顔文字は化石の様な扱いを受けている、そう学習したAI? あるいは、ゲーム外部からの学習データとしてそんなマイナーな知識がインストールされている? まるで、今現在もそうであるかのように語っているのは――ゲーム内部のNPCにも関わらず、ゲーム外部の何かにアクセス出来ている?)」


 シャーロットはシリカを観察しながら、アリカが訪れる領地を共有して、四名で向かっていくのだった。

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