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魔王アリカは怠惰に暮らしたい  作者: 398
魔王アリカは怠惰に暮らしたい

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24話 / 事前準備

 ラインハルトがシード・オンラインへログインすると、そこは――空の上だった。足場なんて存在しない、三日月が浮かぶ夜空の真っただ中。最後にログアウトしたのが空に浮かぶアリカの領域で、それが移動したせいで本来地面があるべき箇所が無くなったせいだ。突貫で実装をした運営側のおもらしとも言えよう。


「は、は、はぁ――!? ちょっと待ってくれ、幸先が悪すぎるだろ僕!?」


 案の定、落下ダメージを軽減するような耐性スキルを持っていないラインハルトは高所からの落下ダメージによりライフポイントを吹き飛ばしてポリゴンとなって散っていった。例えばシャーロットが持つスキル"獣の足"のようなものがあればダメージだけで済んだかもしれない。


 元々拠点にしていた始まりの街、その入り口でリスポーンしたラインハルトは酷い目にあった、そう呟きながらデス・ペナルティ――死亡後十分の間すべてのステータスが十パーセント降下するデバフのことだ――のアイコンを恨めし気に見つつ、フレンド欄を開く。パネルを操作しながらオンラインになっていたアリカを見つけて、まずは話そうとメッセージを送る。……しかし、暫く待っても返事は帰ってこない。


「くそ、無視か非通知にしてるな。なんで僕がこんな気苦労をする羽目になってるんだ……?」


 どうやって連絡を取ろうか――。とりあえずアリカ個人だけではなく、ギルド全体に送信が出来るチャットでもメッセージを打ち込み、送信しておいた。直接話をするにも、まずは本人の居場所を見つけないと。そう思い立ってアイゼンベルクへと移動を始めようとしたラインハルトを、チャットの通知音が止める。アリカさんからの返事か、そう期待してメッセージを開くも――そこにはまた別の人物、オニギリからの新着通知があった。


「……始まりの街で待ってろ、だって?」


 そしてラインハルトはオニギリのメッセージの通り、始まりの街の入り口、アイゼンベルク方面で待つことを決めた。二十分ほど、アリカが起こした領地戦のまとめ記事に目を通していると遠くから人影がラインハルトの名前を呼びながら近づいて来る。暗い視界の中、ラインハルトが目を凝らすと――三つの人影がそこにあった。


「待たせたな坊主。随分と遅い戻りじゃねぇの、こちとら面倒くせぇ状態になっちまったじゃねぇか」


「……いやぁ、私も流石にあんなに用事が長引くとは思ってなかったよ。ゲーム出来ないとか、死に掛けちゃった」


「俺としてはお前が半月以上もログインしていなかったことが不思議だ。刻の、お前はニートじゃないのか?」


「うるさいなぁポンコツロイヤルは。私は働かななくていい環境にいるんですー、ていうかリアル詮索しちゃダメでしょ、ハラスメントで通報するよ?」


 オニギリ、シャーロット、そして極光の魔王であるアークロイヤル達だ。最初の二人、オニギリとシャーロットがいるのは理解できたが何故に極光の魔王までもがそこにいるんだろう、と思わずラインハルトは疑問の表情を浮かべてしまう。見かねたシャーロットが、何も知らないラインハルトに対して補足するかのように言葉を発した。


「そこのポンコツは手伝ってくれるっていうから連れて来たんだよね。……あぁ、手伝うっていうのは――あの迷惑千万の魔王様を止めること。どう、ラインハルト君。君も一狩り行くでしょ?」


 そうしてラインハルトはシャーロットからのパーティ申請を受け、加入するか否かの選択ウィンドウが目の前へと浮かび上がる。そこに記載されていた名前は――"紅蓮の魔王様をボコり隊"だった。なんて名前だ、そう零しつつもラインハルトは直ぐに参加のボタンを押下する。申請は直ぐに受託され、参加したパーティメンバーの名前が視界の左端に表示されていく。


「シャーロット・シルクス、レイ・アークロイヤル――あれ、オニギリさんはどうしていないんです?」


「俺はお嬢ちゃん側だもの。お前らとパーティは組まねえよ」


「……え、じゃあなんでこの場にいるんですか。居ちゃ駄目な人間になりません?」


 苦笑いしながらオニギリは言うねぇ、と頭を掻いた。


「少なくとも、俺はお嬢ちゃんのやり方が正しいとは思ってねーよ。ただ、俺が付いているのはお嬢ちゃんであって、お嬢ちゃんのやり方に俺がどうのこうの言う立場でもねーんだわ。……そもそも、それが俺とお嬢ちゃんの再戦のための約束だからな」


 それを聞いてシャーロットは不愛想だねえ、と肩を竦めて見せる。


「……お前も、ある意味で損な性格をしているな。勿体ない、この俺、極光の下に来れば好きに戦わせてやるのに」


「ストレートで俺に負けてる女誑しの下に付く気はねぇよ。興味があるのは強者だけだからな」


 おうおう、言ってくれるわとアークロイヤルは両手を広げて高笑い。本気で来るとも思ってないし、断られると分かっていたのだろう。笑っているのはオニギリの約束を守るという姿勢が気持ちよかったからだ。平気で嘘を付き、人を騙すような人間はシード・オンラインにも、リアルの世界にも、幾らでも存在した。特にアークロイヤルは何度も何度もそういうタイプの人間と事を構えたりしてきたタイプの人間だ、正直な人物と言うだけでアークロイヤルからの評価は否応なく上がる。


「……簡単に説明すると、オニギリ君はヒントをくれるだけ。で、私たち三人はそれに乗っかってアリカさんとオニギリ君をブッ飛ばす、単純明快でしょ」


 手元で理滅の短剣をくるくると回しながらシャーロットはそう言い切った。ラインハルトはあの二人を、三人で――誰が誰と当たるのかを考える。オニギリはラインハルト、アークロイヤルの二人では絶対に敵わない。故に、アリカへ刃を届かせるには必然的にオニギリをなんとか仕留める必要がある。


「まずは、オニギリさんをシャーロットさんが相手する、ですよね」


「そ。オニギリ君は手加減絶対してくれないので、私が当たるしかないかな――で、残るアリカさんを誰が相手するかだけど」


 思わず視線がアークロイヤルに向くラインハルト。

 だがしかし、アークロイヤルが首を縦に振ることはない。


「もしかして、僕が、アリカさんの相手をする……?」


「イエス。……まずポンコツロイヤルは部外者よ、ギルドの人じゃない。矢面に立たせるべきプレイヤーじゃないってのは分かるでしょ。そして後に残るのはラインハルト君、あなただけ。ま、事の発端同士で戦って和解してきてよ。それが一番丸いでしょ?」


「確かにそうですが――」


 自信が無かった。どう立ち回ればあの炎のリミテッド・スキルに勝てるのか、イメージも湧かなかった。このゲームはMMOだ。スキルの強さと、プレイヤーのパラメータ、装備がベースとなる値を決定する。ラインハルトとアリカを比べた時、装備はそこまで変わらないだろう。だが、スキルの強さが違い過ぎる。


「――僕は、リミテッドのスキルだなんて持ってないんですよ。幾ら剣を振っても、あの炎の無効化をされれば、それで終わりなんです」


「なに、俺がいるだろうが坊主。……お前は死ぬ気で炎を避けて、避けて、避けて、魔王に一撃入れればいい。ああ、いや、きちんとクリティカル防止のアイテムまで持ってるから二撃か」


「いや、だから、そもそも一撃すら入れられないって――」


「お前、忘れたのか。紅蓮の魔王も真芯を打てばダメージは通る。……で、あれは素手だけの技能じゃねぇよ、遠距離武器以外のすべて、槍とか剣全部で打ち込めるんだわ」


 オニギリの言う通りだ。実体のないものに対してダメージを与える真芯打ちは、対象にマナさえ流し込めれば成立する。思わず息を飲んだラインハルトに、オニギリはにかっと笑みを浮かべて見せた。


「一週間後、お嬢ちゃんはまた別のギルドに対して領地戦を仕掛ける。その時までに出来るようになっとけ、俺が教えてやるが、身に付くかどうかは本人の努力次第だ。頑張れよ?」


 ……


 そして、ラインハルトが再度シード・オンラインにログインして五日が過ぎた。初日になぜ話し合いを取らないかオニギリに聞いてみたが、もう嬢ちゃんが話す気がない、といって断られた。痛い目を見せてやれ、そう言われたが――真芯打ちの習得、その進捗はすこぶる悪い。


 アイゼンベルク内部にある訓練場、アーツの作成にも使えるそこのインスタンスを一つ貸し切ってラインハルトはこの五日間をずっと真芯打ちの練習に明け暮れていたのだ。初めこそ失敗続きであったが、今では止まってる相手であればどうにか二十回に一回は成功するようになってきた。が、これを移動しながら、炎を避けて、アリカに当てられるかと言えば――恐らく無理だろう。そもそも自らの剣の間合いに入らせてくれるだなんて一回しかない筈だ。立ち回り次第では、一度も入れずに終わる事すらあり得る。


「……確かに、僕の言い方も感情的で悪かったかもしれない」


 地面から生えた案山子の様な木の人形を正面に捉え、袈裟に剣を振り抜く。がっと鈍い音がして剣が弾かれた。僅かに散ったのは青いマナ・シールドの破損エフェクト。目の前の案山子は、常にマナ・シールドを纏っている。オニギリ曰く真芯打ちのサンドバックとして最高らしい。


「でも、アリカさんに言い方があったはずだ……っ」


 再度、同じ体制で振り抜いた。ずっ、と先程とは違う剣がマナ・シールドの内側に入り込む感覚。直後、ばきんと音を立てて案山子が纏うマナ・シールドの前面の大半が破損する。半分成功だった。ラインハルトはほっとするも、歯を噛みしめる。案山子相手に成功するとマナ・シールドを一撃で全て吹き飛ばせるのだから。オニギリが最初に解説する際に見せた手本では、何度も何度も一度のミスさえ無しに、ぱきんぱきんと案山子のマナ・シールドを全て吹き飛ばしていた。


「だから、だから――僕が絶対に一発叩き込んで、その上で話をするんだ。どっちが間違ってる間違ってないじゃない、そんなの無しに、話し合って――」


 何度目か分からない剣の振り下ろし。それが案山子のマナ・シールドに弾かれた瞬間――不意に気配を感じたラインハルトは思わずばっと背後を振り向いた。このエリアには自分自身以外存在しない筈の場所なのに。そんな困惑に包まれたラインハルトが見たものは――透き通るような淡い水色の長い髪に、露出が控えめのクラシック・ドレス。


 このシード・オンラインを統べる基幹AI・ルーセントハートだ。


「……なんで、チュートリアルのNPCがここに出てくるんだ」


「――私は、チュートリアル専門という訳ではないので。ふふ、お久しぶりです。アカウント作成時以来、でしょうか?」


 優雅に一礼をする目の前のルーセントハートに、ラインハルトは思わず舌を巻く。何度見ても相変わらず、恐ろしく人間染みている。これがNPCだと事前に知っていなければ、その仕草や瞬きの一つ一つから、リアルに存在する人間が操作していると錯覚してしまいそうなほどだ。


「まずは、ラインハルト・ユーフィールに感謝を。……あなたが戻ってきてくれたお陰で、大きくクエストを捻じ曲げる必要がなくなりそうです」


「――お前、何を言っている?」


 到底、NPCらしくない挙動に思わずラインハルトは剣の切っ先を向けた。妖しすぎる挙動に、まずはバグを疑う。自分が不正バグの利用者じゃないことを証明する為、開いている方の手でメニューを叩き録画機能をオンにした。それを見たルーセントハートは、あらあら、と呟きながら指を一回だけ鳴らす。


 それだけで、ラインハルトが起動したはずの録画は停止してしまっていた。本来のNPCが持っていていい権限を遥かに越えている――どうするべきか、ラインハルトが考えあぐねていると、安心させるような声色でルーセントハートが言葉を掛ける。


「そんな心配はしなくて良いですよ、私の動作はシステムに許容されているものなので、あなたが何かしらのマイナスな被害を受けることはないです。例えば、アカウントの停止などが行われることはあり得ません」


「そうは言われても、なんだけど……」


 ひとまず剣の切っ先を地面へ向けたラインハルト。最も、基幹AIであるルーセントハートに斬りかかっても、プレイヤーとではそもそもの権限レベルが違う。ルーセントハートに対して、ログインしているプレイヤーは一切合切のダメージを与えることは出来ないのだ。それは絶対的な権限レベルの壁である。


「感謝の証として、これを差し上げましょう」


 ラインハルトに手渡されたのは――青く輝くアーツ・クリスタル。ただ、ラインハルトがこれまで見てきたものとは違い、そのクリスタルの中心部は黄金色の輝きで溢れていた。こんな特殊なイベントでどんなアーツを渡されるんだ――そう思ってアーツの効果を覗き込んだラインハルトの表情から一切合切の色が抜け落ちて無表情になる。


「……ルーセントハートさん。これを今、僕に渡したのは、哀れみですか」


「言ったでしょう、感謝の証だと」


「これが、こんな……まるで彼女を、アリカさんを倒す為だけに作られたようなアーツが、感謝の証だって!?」


 効果のテキストを読んだだけでも分かる。このアーツは間違いなくアリカに突き刺さる――特攻と言っても差し支えないだろう。ただし、一撃を当てることが出来ればだったが。そして、このアーツ一つでリミテッド・スキルと勝負が出来るほどの力を手に入れることが出来ることもわかった。――それでもラインハルトには納得がいかないのだ。これじゃあまるで、アリカの為の何かの歯車の一つとして、自分がただ都合よく動かされているみたいじゃないか、と。


「惜しいが、お断りだ。……僕は、僕の力だけでどうにかしてやるから、去ってくれ」


 黄金色のアーツ・クリスタルを投げ返したラインハルト。それを両手で受け取ったルーセントハートは、さも残念そうにおよよと俯いて見せる。


「……私は悲しいです。きっとラインハルトさんは、都合よく使われる、そうお思いになってこれを返しましたね?」


「当たり前だ。出来る手段を揃えて勝つ、それは僕も認めるし正しいと思うけど――そのアーツは、違う気がしたんだ」


「成程。私には丁度、アリカさんとラインハルトさんが戦うなら、丁度いいアーツだと思いますけど」


 そんな言葉には耳を貸すものか――そうラインハルトが背中を向け、再び真芯打ちの練習に励もうとしたタイミングで、どうしても聞き逃すことができない一言がルーセントハートから発せられる。


「――尽きぬ焔の約定。紅蓮の魔王のリミテッド・スキル、それは初めからアリカさんの為に存在して、この世界に訪れた時点でアリカさんに付与されると定義されたスキルですから。それと張り合う為に、ラインハルトさんがこのアーツ――唯一無二である聖剣を受け取る。それは実に公平極まりない――そう思いませんか?」


「どういう、意味だ、それ――ゲーム開始時から、リミテッド・スキルを所有だって……?」


「はい、その言葉の通り。何せ、アリカさんの為のスキルですからね、尽きぬ焔の約定は。そして――このアーツ、聖剣はラインハルトさん、あなたの為だけのアーツです。あなたがここで受け取らず所有権を放棄すれば、二度とシード・オンライン上に現れることはない幻になります。……アーツですが、クリスタル化不可能――つまり引継ぎは一切行えない。正真正銘、ラインハルトさんだけのアーツ」


「違う、僕が聞きたいのは、なんでアリカさんがそんな開始時からリミテッドを持っているか、その理由だ。……リミテッドは特別なんだ、固定のイベントなんかで入手できるレアリティじゃない。そんなものを、初めから持っているだなんて――ただのチートだ、強くてニュー・ゲームなんかの騒ぎじゃない……!」


「それは――残念ながら私が語るべきことではないです。それでも、ラインハルトさんはきっとアリカさんに選ばれる。だって、初めて喧嘩をして、初めて仲直りをする人になる筈ですから。……近いうちに全て分かりますよ、ゆっくり待っていれば、それでいいんです」


 納得だなんて出来る訳もない。疑問は沢山だ。だけど、アリカが初めからそんなリミテッド・スキルを持ってゲームを開始しているならば――僕も、今この瞬間にあのアーツを受け取る、それくらい悪くない、ラインハルトはそう感じた。誰かの目的の為に使われている、そんな感覚は消えてくれないが、ルーセントハートからアーツを受け取ってようやく彼女と同じステージに上がれる、ラインハルトはそう思った。

 

 ――いや、そんな言い訳だなんてもう意味がない。意地だけで突き返したが、あのようなアーツを最も求めていたのはラインハルトだ。アリカと、シャーロットと、オニギリと、同じところまで登りたかった。たかがゲームと言えども、彼らと一緒に楽しめるくらい、強くなりたかったのだ。言い訳を重ねたが、単純に自分が欲しかった――リミテッド・スキルにも迫る威力を内包した、このアーツが。


 ラインハルトは再び黄金色を放つ異色のアーツクリスタルへと手を伸ばす。

 そしてそれを、強く強く握り締めた。


「……使われるわけじゃないからな、僕は。このアーツも、後で返してくださいとか言って、取り上げないでくれよ」


「当然です。――そのアーツで、彼女の間違いを正してあげてください。そして、あなた自身がそのアーツでこの世界をより楽しめることを祈ってますよ」


 ……


 そして一週間後。アリカがアイゼンベルク周辺のギルド、丁度五つ目に対して領地戦を仕掛ける日が訪れた。月明かりに照らされたアイゼンベルクの灯台元にラインハルト、シャーロット、アークロイヤルの三人が揃っている。ラインハルトは茶髪を潮風に揺らしつつ、新調したばかりである現パッチの最高レベル装備である銀の鎧に身を包んでいた。関節部分は良く伸びる革で保護されており、機動性重視の装備だ。背中には――身長ほどはあろうかという新緑色に輝きを放つ大剣を吊るしている。


「これは貸しだぞ、ラインハルト。この一件のケリが着いたら、ダラーで返してくれればいい」


「ははは……申し訳ないです、アークロイヤルさん。本当は借りるつもりだなんてなかったんですが」


「構わん、これも魔王の懐の深さだ。……だが、最近巷で噂の鍛冶師が捕まらなかったのが痛いな、俺のネットワークにも引っかからないとは」


 無論、装備の新調にはダラーがかかる。ドロップ品ではなくオーダーメイドであれば更に値は張るのだ。素材を格安でシャーロットから譲り受け、アークロイヤルがつての鍛冶師を当たってラインハルトが身に纏っている装備を一式揃えてくれたのであった。足りないダラーはアークロイヤルのポケットマネーから出ている、といってもそこまで大げさな額ではない。ツテでの割引が利いたおかげだった。


「しかし、本当に盾はいいのか? あの炎の槍は避け辛いだろう」


「いいんですよ、炎耐性付けてもあの槍相手にどうにかできるとは思ってませんし、それなら最初から軽装の方が避けやすく良いかなって思って」


「避ければなんということはない、DPSの基本だね、うんうん」


 グレーのコートに身を包んだシャーロットが黒髪を揺らして頷くが、それに同意するものは誰もいない。オニギリあたりが居れば当然だな、と相槌も打つが、この場にいるのは接近戦に絶対的な自信を持つ者ではないのだ。ラインハルトはタンク、アークロイヤルは後方支援特化なのである。


「それじゃあ段取りだけど、アリカさんが領地戦を吹っ掛けたら背後から割り込むよ。で、オニギリ君は私がタゲ取るから――ラインハルト君は速攻でアリカさんに向かっちゃっておっけー。アークロイヤルは背後から私とラインハルト君にバフ、特に速度増加系は絶対に切らさないで」


 シャーロットが手元で理滅の刃をくるくると回しながら基本的な戦術を共有する。何かしら考えながら話すとき、シャーロットは良く自らの獲物である短剣をくるくると手元で弄んでいる――それがこの数か月で、ラインハルトが知った事だった。


「後、回復系かな。これも切らすとまずいね、オニギリ君の当て感は異常だから――私が削られる時は多分秒も掛からずに死ぬと思う。私が落ちるとラインハルト君が二人を相手することになって詰みだから、アークロイヤルは私のライフポイントを常に気にして、一秒以上目を離さないで」


 一秒以上――口にこそしていないが、死に戻りスキルのクールタイムが二秒だからだった。二秒耐えきれば二回目の死に戻りが出来る。近接戦しか仕掛けてこないオニギリ相手に死に戻りを使う、即ちそれはほぼ詰みの状態なのだ。しかし、そこに回復が挟まれるなら二度目の死に戻りを試行するチャンスが生まれる。


「アリカさんは元より継続して強い火力叩きだせてほぼ死なない前衛、オニギリさんはインファイトで連続で最高火力を叩きこんでくる前衛――タンクの僕や、奇襲型ともいうシャーロットさんだと、相性悪いですねえ」


「そうなんだよねえ、ラインハルト君の言う通り。ぶっちゃけ、オニギリ君って相性悪いんだよねー」


 何せオニギリはシャーロットの死に戻りを観測する。アリカやオニギリ以外の相手であれば死に戻りは殆ど無敵の権能だ、死に戻ったら後だしで自らの行動を決めることが出来るから。だが、その二人にはそれが通用しない。異常とも言えるVRの適応力で死に戻りを観測する。死に戻りしてからの後だしが意味を成さないのだ。


「ま、そんな悲観するな。何せこっちには極光の俺がいる――バフを掛けて上から殴ればいい」


「……アークロイヤルさん、後衛気質なのに言うことは物理脳なんですね」


 ポンコツと言われないことに機嫌を良くしているアークロイヤルは高らかに笑って見せる。本当にそういう間抜けなところが無ければ魔王一の人格者に近いのに、そうシャーロットはため息を零し――不意に視界に入ってきた人影に、ほぼ反射で理滅の短剣を突き付ける。


「誰?」


 その声と同時にラインハルト、アークロイヤルが視線を向けると――そこに立つ純白のドレスを纏い、月明かりを受けて立つ黒髪の少女が目に入った。ラインハルトは瞳を見開いて、シャーロットとアークロイヤルは怪訝な顔を浮かべて、その人物――アリカと非常によく似た少女、シリカ・ルーセントハートを見る。


「――お久しぶりです、忌々しい刻の魔王と、ポンコ……じゃなかった、極光の魔王。それとそこの騎士君は初めてですね? ちょっとばかりお手伝いに来ましたので、パーティに入れてくれませんか?」 


 彼女は、シャーロットと同じ黒い髪を潮風に靡かせて、にっこりと微笑みながらそう言った。

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