表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王アリカは怠惰に暮らしたい  作者: 398
魔王アリカは怠惰に暮らしたい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/36

20話 / 弱者の葛藤

「……なるほど。確かに世界決戦陣はギルド同士の対抗戦だから、アリカさんが参加するならギルドを作らなくちゃいけないですね。最も、他の既存のギルドに入る……ってのを考慮外としてますけど」


 ここにいる全員が戦闘向けの装備をしておらず、一人だけ鎧姿となっていたラインハルトはそう喋りながら装備を変更した。一瞬で民族衣装の様なデザインの装備に着替えたラインハルトは、世界決戦陣ってイベントに参加しなくとも人が欲しいですね、とオニギリに同調するように頷く。


「はいー、既存のグループに入るとか怖すぎますし、ずっとあのロールプレイ続けてるとなんだか精神が別の方向に向かっちゃいそうなので。……でも、てっきりギルドって作って終わりだと思ってたんですけど、何かあるんです? こう所属人数でギルドで出来ることが増えるとか、或いは人数と所属日数をかけて何かに使えるポイントを出す……とか?」


「ギルドにもランクがあって、所属している人が稼いだ経験値がそのままギルドの成長ポイントになるんですよ。……初めこそ土地を持つことも出来る同好会ってレベルなんですが、成長すれば大商会の如くプレイヤーやNPC問わずアイテムの取引が出来るようになったり、土地を大きくすることが出来たり、イベントや成長ポイントを稼ぐ事によって溜まるギルド貢献度を使って、本来なら各町に存在する鍛冶屋とか服飾屋じゃないと出来ないことを、格安の手数料で行えたり」


 それこそメリットは数えきれないほどありますね――自分が語るよりも見た方が早い、そう言わんばかりにラインハルトはアリカへ、ギルドについて事細かく記載された攻略サイトのページリンクを個人メッセージで送信した。


 受信したメッセージを開いたアリカはARブラウザでそのページを参照する。上から下まで長々と記載された箇条書き、確かにこれは喋るより見た方が早い――そんな思いを抱きつつ、指先でブラウザをスクロールして項目を眺めていった。


「……耐久度修理が半額以下とか、行商人の呼び出し。これがラインハルトさんが言っていたやつですね。他――マナ・ゲートの開通ってあるんですけど、これって何でしょう?」


「自分たちのギルドの領域に、移動用のマナ・ゲートを配置できるようになるんですよ。……一番初めのパッチをクリアすればアリカさんも使えるようになりますよ、マナ・ストリームのイベントで行った洞窟があると思うんですが、あれの扉版がシード・オンライン各地に点在してて、そこに自在にいけるようになるっていう感じですね」


「え、それとっても便利じゃないですか。じゃあギルドを作ったこれを一番初めに――」


 喜色満面で皮算用を始めたアリカの肩を、皆そう思うよね――と、どこか諦めたような表情をしたシャーロットの手がぽんぽんと叩いた。


「必要なギルド貢献度は――大体、百人がレベルカンストするのを五回くらい繰り返す程度なんだよね。で、ギルドって最大五十人までの制限があって、それ以上含めるってなると下位の支部ってのを作らないといけないのよ。……ま、私も達成できてない途方もない数字だよ」


「……いやいや、それじゃあこの特典使えないじゃないですか。これから作ったとして、何カ月かかるんですかこれ!?」


「このゲーム、本当に移動手段に対して厳しいんだよねえ。遠方に行くには鉄道か船、ダラーがかかってもいいなら飛行船――運営が語ってた通り、もう一つの世界を作りたいから、だろうって思ってるけど」


 もう一つの世界を作るにしても、現実の物理法則だなんて無視して自在に移動させてくれてもいいじゃないですか、そうアリカは悔しそうな表情を見せる。そんなアリカ自身は気付いていないが、アリカの持つこの領域――空に浮かぶ紅蓮の魔王の領域だけが、唯一その制約を外せるのだ。


 ギルドメンバーが領域に訪れ、帰還の鍵を用いて転移元に返る際に、移動したいメンバーでパーティを組んでしまえばそのメンバー全員が一斉に転移する。最も、行きのみなので帰りは何かしらの移動手段で戻る必要があるのだが。


「憶測ですけど、きっとこの世界の景色を見てほしいとか、そんな理由でしょうね。自由自在に転移出来たら、街以外のエリアとか、絶対日の目を見ないところが出来ちゃいそうですし」


 困ったような表情を見せつつラインハルトはお茶を口に含む。便利なコンテンツは直ぐに解放されることはない、そんな現実を思い知ったアリカは深い溜め息を零しつつも、話を進めていく。


「えーっと、脱線した話を戻しまして。ギルドを作ります、今のところ二名までは決まってます。私とお手伝いのオニギリさんですね。あと一人欲しいのですが、シャーロットさんはどうでしょう……?」

 

「あはは、私が断る理由がないでしょ。……いやぁ、アリカさんがメインクエ進めてくれるなら何でも手伝うよ、早く私だけじゃ攻略できないレイドボスも倒しちゃいたいし」


「……ていうか、シャーロットさんのそれ、私じゃなくてもオニギリさんで良いのでは? 少なくとも、オニギリさんも観測できてますよね、あれ」


「いや、そうなんだけどね。じゃあ私と組んでレイドボス倒すの、オニギリくんはどう思う?」


 けっ、とここが家屋の中でなければ唾でも吐いてそうな音を出して、ふんと鼻を鳴らし、全力だと言わんばかりに首を横に振って否定の感情を示すオニギリ。ええ、とアリカが若干引いたような表情を見せても、オニギリの態度は一切変わらない。


「絶対嫌だね。強い奴は一人で倒すから燃えるんだよ、シャーロットと俺が組んで倒せないボスだなんていないだろうが。純粋な近接戦なら俺が最強、特殊タイプな近接戦ならシャーロットが最強、負ける理由がないしな。……よっ、テクニカル代表シャーロット!」


 最強――そんな言葉を易々と使っていいのか。思わず突っ込もうとしたアリカだったが、オニギリの近接戦の強さは自らの身をもって知っているため、突っ込むに突っ込めない。以前、シャーロットと対峙した時には無かった力だけで押し切られた感覚は、今でも胸の内で燻っている。


「なーにがテクニカルよ、私のこと馬鹿にしてるでしょオニギリくん。脳筋(脳みそが筋肉で出来ている、を指す略語の事。バフやデバフを考慮せず自らの攻撃力を上げてひたすら攻撃するプレイスタイルを取っているプレイヤーのことを指す)にそんな煽られたくないんだけど?」


「いや、馬鹿にはしてないぞ、褒めてるんだよ。いやぁ、俺が褒めるのは珍しいぜ? 何せ俺が勝者でシャーロットが敗者だ、戦績で言えば二勝一敗! ほらほら、魔王様なら腕っぷしで黙らせてみやがれってんだ!」


「……おい、ちょっと表に出ろオニギリ。アリカさん、ギルドには参加でよろしくお願いします、あと裏側って結構広かったよね、ちょっと場所借りるね!」


「おおっ、今度は理滅と刻の権能以外になんか備えてきたか? 前回と同じなら三個目の黒丸付けてやるぜ?」


 シャーロットはアリカの返事を待たずにどすどすと畳を踏み鳴らして外に出ていき、その背中を追うようにしてけらけらと笑いながらオニギリが出ていった。刻の魔王、シャーロットが相当な負けず嫌いであることを知ったアリカは、何があっても煽らないでおこう、そんな思いを抱きつつ苦笑する。


「……私、魔王だなんて人と直接話したのは初めてですけど、なんだか思っていた以上に人間らしい方なんですね。失礼な話かもですが、もうちょっと、難がある方かと思ってました」


「いや、ミコさん……売り言葉に買い言葉でPvPし始めるのは、難がないとは言えないと思うんだけど」


「ラインハルトさんに同感です……見に行っても面白そうなんですけど、流石に待ちましょうか。それで、念のために確認なのですが――お二方はギルド、どうします?」


 若干の緊張感を持ちつつアリカはそう口にする。もう二人がギルドに入っていることは承知の上での質問だった、不躾かなとも思ったが、ここで二人を誘わない事の方が、この場に呼んでいるのに仲間外れにしてしまっている気がして、納得できなかったのだ。


「嬉しいのですが、私はギルドマスターという立場があるので……。もしギルドに入っていなければ、喜んでお受けしたのですが」


 申し訳なさそうにしつつミコが断りを入れた。後半の言葉が本位からなのかただのリップサービスなのか、まだまだ幼いアリカには分からなかったが、そのままの言葉を素直に受け止めることに決める。とんでもないですよ、そう返してアリカがラインハルトに視線を向けると――その彼は、思いつめたような表情を浮かべながら悩んでいた。


「僕も、ギルドに入っているので断りを入れるのが正しいのですが――」


 初心者を支援するギルド、王道。それは歩くべき道筋も分からない初心者達を、王道に乗せるが如くサポートするためのギルドだった。それだけではなく、誰かが助けを求めていれば手を差し伸べるし、困っていれば自ら手を差し伸べる、それを掲げてこれまで活動を進めてきたのだ。


 数か月前、丁度アリカがリインカーネーションの森から転移した直後にラインハルトがミコの陣営と共に領地戦を戦っていたのも、ミコのギルドが王道に助けを求めたからである。彼女のギルドが持つ森の土地を、他のギルドが狙って戦を仕掛けたのだ。人、主に前衛が足りずに困っていたところを、王道が助けた形となる。


 そして――ラインハルト自体も、初心者だった頃に王道に助けられ、それに感化されて彼自身もそのギルドに所属することを決めた。ギルド中で沢山のサポート受けたり、サポートをしたり、ラインハルトとギルドの関係性は悪くはない。いや、最良とも言うべき形で関係が作られているだろう。


 オフ会もしたし、王道のギルドマスターにもプライベートの事情で相談に乗ってもらったりしたこともあった。だからこそ、相談の場で言われた――君が君の目的を達成する為に必要であれば抜けても構わない。出来れば、居て欲しいんだけどね――そんな言葉がラインハルトの脳内で反芻される。


「(……ここで、僕がアリカさんのギルドに入れば。サポートに割いている時間をダラー稼ぎに当てられるし、そこには今や魔王のアリカさんと、刻のシャーロットさん、加えてシャーロットさんに勝ち越してるっていうオニギリさんまで居る)」


 ――ラインハルトの本来の目的はサポートをし続けることではない。シード・オンラインの通貨であり、仮想通貨でもあるダラーを稼ぐ事、だ。


 これまで王道にいたのは恩を返す為、という事情もあった。ギルドの土地に建てられた鍛冶屋で修理も安く済んだし、既にレベルがカンストしているプレイヤーとレイドボスに挑み、時にはラインハルトにとっては高額な武器やアイテムを譲ってもらったこともある。多少ではあったが、ダラーを稼ぐ事は出来ていたのだ。


 恩義の為と頭では思いつつ、初心者のサポートに時間を割かなければまだ稼げるチャンスがある――そう思う事が多々あった。それでも迷わずに王道に所属していたのは、彼にとって切っ掛けとなる転機が無かっただけに過ぎない。ところが今は、シード・オンラインを代表すると言ってもおかしく無い魔王の中でも、過去に例を見ない最大火力を誇る紅蓮の冠を持つ少女――アリカ・ルーセントハートがその手を差し伸べている。


「(いや、それでも僕は……恩義があって、それを返さなくちゃいけなくて……)」


 だが、いや、しかし――。後ろ髪を引かれる思いが消えてくれなかった。


 それでも、今ここで伸ばされた手を受け止めれば間違いなく一歩先の狩場で高額ドロップを狙える。慣例としてパーティで戦ったドロップ報酬は、九十九面のダイス・ロールで分配を決めることが多い。誰が一番貢献したか、誰が一番ダメージを出したか、そんなことは関係ないのだ。全ては賽の目次第、大きい数字を出すかどうかで受け取れるかが決まる。それであれば、ラインハルト自身にもチャンスは幾らでもあるだろう。


 止まっていたレベリングも再開できる。彼女たちに付いていくことをせずとも、メインクエストを進めることが出来る時間は大幅に増えるだろう。それに始まりの街付近という辺境に何度も何度も移動しなくても良い。効率の良い狩場で、効率の良いレベリングが出来る。そうすれば自らのキャラクターステータスを稼ぐ事も出来て、さらに上を――。


 アリカの誘いに乗れば、これまで通り王道に所属し続けているよりも、ダラーを稼ぐことが出来る機会が多くなるのは間違いないだろう。そんな泥沼の思考の中、ラインハルトは結論へと辿り着く。


「――やっぱり、僕も気になるので、参加させていただけると嬉しいです。王道で色々とサポート出来るのも楽しかったんですけど、結構多めに時間は摂られちゃってて。それに、先のステージはやっぱり気になっていたんですよ、いい切っ掛けでした」


 ラインハルトは、アリカの誘いを受けることにした。つらつらと感謝の言葉を告げるが、そこにダラーを稼ぐ為という理由は一切出さずに伏せたままで。そうだ、これでいい。元々、僕はダラーを稼ぐことが目的でシード・オンラインを始めたのだ――自らにそう言い聞かせながら、ラインハルトは作ったような苦笑を浮かべて見せる。


 肯定が返ってくるとは思わなかったアリカは、少しばかり呆けた後、改めてラインハルトの差し出された手を片手で握り、握手を交わす。自らのギルドに参加しませんか、その提案が受け入れられたことが、彼女にとってはただひたすら嬉しいものだったから、多少の恥ずかしさだなんて無いようなものだった。


 だからこそアリカはラインハルトの言葉を表面通り受け止めてしまう。ラインハルトが何の裏もなく、好意だけで自らの提案を受け入れてくれたのだ、と。日付も変わらない今日、午前の時間帯にログインして、自らと瓜二つのアバターを持った存在であるシリカ・ルーセントに言われた言葉――物事を素直に教えてくれる人はいません――ということさえも思い出せない。


 アリカは、いや、篠原里香はまだ生まれたばかりの子供の様なものだった。それでも、例えばラインハルトが自らにとって都合の良い取引などを持ちかけてきたら、多少は疑うことが出来ただろう。しかし今回は自らの提案をそのまま飲んでくれた、それだけなのだ。


 ある程度親しい仲で、受け入れられたら嬉しい提案を、受け入れてくれただけ――。だからこそ、アリカはそのラインハルトの言葉に対して疑いの余地さえも残さず、言葉尻通りで受け止めてしまう。何の裏もないと、純粋な行為だけでギルドに参加してくれた、と。

 

「……あはは、まさか参加してくれるとは思いませんでした。いや、普通に嬉しいものですね、これ」


 にやけてしまいそうになる顔を見られたくなる、ちょっとだけそっぽを向くアリカ。


「そんな顔背ける程でもないと思うけど――改めて、ラインハルト・ユーフィール。出来るのはタンクと、一応程度だけど大剣スキルでのアタッカーです、よろしく」


 驚いたような顔をしていたミコだが、それを口には出さずにそのやり取りを見ていた――。そうして暫くギルドを成長させるとどうなるのか、ラインハルトやミコから色々と教えてもらっていたアリカ。

 そして三人の湯飲みに入っていたお茶も無くなった頃、あの二人はどうしたんですかね、というラインハルトの問いかけで一度屋敷を出て更にその奥、まだまだ何もない雑木林が広がっているエリアへ三人で足を踏み入れていく。


 こんな広い領域に何を建てればいいんですか、そう苦笑しつつ少し開けた空間に出ると、その場でシャーロットとオニギリは未だに戦い続けていた。辺りの木々は真ん中でへし折られたり地面は抉れていたり、この場だけ台風でも通り過ぎたかのような酷い有様だ。アリカはぽつりと、ここ私の土地のはずなんですけど、とがくっと肩を落とす。一瞬だけ二人を止めよう、そんな考えが頭を過ぎったが、目の前の戦い――シャーロットとオニギリのPvPを見ていると、そんな気も失せてしまった。


「――いい加減、一発くらい、直撃させてよ脳筋……ッ!」


「う、うるせぇ黙れ……! お前、理滅武器や体術、短剣スキルで俺に敵わないって分かったら、今度はそれかよ……!?」


 深いグレーのコートを翻し、シャーロットは文字通り次々と武器を切り替え手段を切り替え、攻撃の手を緩めずスキルを連打し続けていた。それを見たラインハルトは、目の前で繰り広げられているシャーロットと超絶技巧と言っても遜色ないだろう技に、開いた口が塞がらない。短剣スキルを連続で放ったと思えばそのままバックステップで距離を取り、それと同時に弓に武器を持ち替えてスキルを発動させる。そして放った直後にまた槍へ持ち替えたと思えば、一瞬も止まることなくスキルを発動させて接近戦へと持ち込んだ。


「い、いやいや、なんだ……あれ……。短剣でも槍でも、同枠のスキルって共通のクールタイムの筈なのに……」


 それぞれのスキルツリーには同枠という概念が存在する。例えば短剣ツリーの二連撃スキル、ツインエッジ。これは片手剣ツリーの二連撃スキル、ツインブレイドと同枠だ。どのスキルが同枠判定になるか、はスキル取得時に確認できる各種武器や属性のスキルツリーを見るのが一番早い。左から右へ樹形図のように伸びていくスキル群の中、同じ位置に存在するスキルが同枠判定となる。武器を持ち替えることにより、上位スキルの連続使用を防止する為の仕様だった。


 しかしシャーロットはそれを技術でねじ伏せる。スキル同士を連続して発動させるシード・オンラインの裏技術、これは二回目以降に発動させるスキルのクールタイムを無視させることが出来るのだ。ただ、それは非常に難易度が高い――スキルを打ち込んだ後の体勢を、連携させる後撃ちのスキルの始動に近い体勢まで変えなくてはいけない。そこから更に、タイミングが指定されたごくごく短い受付時間にスキルを発動させる必要がある。


 ――短剣、弓、槍、片手剣、投擲ナイフ、そしてまた短剣。それらのスキルを一寸の狂いもなく連結させスキルを発動させ続けているシャーロットは、ラインハルトの目から見れば、ただの化け物でしかない。そして、それを体術スキルと真芯打ちだけで全て打ち落とし直撃を避けているオニギリも、それは同じだ。一体どんな才能と、どれだけの時間を費やせばあの二人のいるところまで辿り着けるのだろうか。


 思わず一歩後ずさるラインハルトに対して、アリカは――じっと、シャーロットの連撃を見ていた後、まるで思いついたかのように紅蓮の槍を顕現させる。オニギリのPvPをした時の、まるで他人事のような自分の記憶を辿れば、それくらいのことは造作もなかった。寧ろ、それを辿れば――無意識の内に使っていたスキルが、全て自分のものになるかのような感覚さえある。


 そしてシャーロットと同じようにアリカが槍を構えてみれば――その紅蓮の槍を、赤いライトエフェクトが包み込む。ばちっと稲妻のように弾けるエフェクト、一度も使ったことはないし、そもそも取得すらしていない筈の槍スキルであったが、あの記憶を辿ったアリカからしてみれば発動して当然のものだった。違和感も、疑問も何もない。何せ、自分は一度それを発動させて、オニギリを下したのだ。使えて当然、使えない理由はない。そんな、無意識下のアリカの確信。


 そして繰り出されるのは――強く大地を踏み込んだ鋭く、重い紅蓮の槍の一突き。手早く槍を引いたアリカはそのまま虚空へ向かい、続け様に次のスキルを発動。全ては記憶が教えてくれる、どんなタイミングで体勢を整えて、どのタイミングでスキル発動をすればいいのか。再度、深紅のライトエフェクトに包まれた槍が今度は目でも終えぬ速度の三連突きを放った。そして最後に――クールタイムを無視して、最初に繰り出した一突きを繰り出す。


 ごっ、と穂先から火の粉を撒き散らして止まった槍を見て、アリカは案外難しくないですね――事も無げにそう呟くと、紅蓮の槍の顕現を解除する。すると、槍は初めからそこになかったかのように宙へと溶けていった。他のスキルもなんだかんだ出来そうだけど持ち替え挟むとどうだろうか――試してみたい欲に駆られつつ、今じゃない、と結論づけてアリカがラインハルトの方を振り返ると、彼の――どこかネガティブな感情を内包した視線と交錯する。


 嫉妬か。或いは羨望、渇望か。アリカにそれを見抜くような力はなく――どうしたんですか、と銀の髪を揺らしながら問いかけることしかできない。ラインハルトは、少し驚いただけですよ、そう返事を返すことしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ