9話 / 黄金の心臓と、解けぬ氷の誓約
刻の魔王にライフポイントを吹き飛ばされたアリカ。彼女がリスポーンしたのは一枚の大型パネルのみが浮かぶ、ただただ広い草原の中だった。どこかで見たことあるような既視感、それが初めてシードオンラインに接続した際のキャラクター作成の時の空間だと思い出したアリカは、確かにこんなところでしたね、と一人呟いた。
あの時と変わらない、落ちそうだと錯覚するほどに透き通った青い空。そして柔らかい香りを放つ緑色の草原。先程の荒野とは段違いだ。引っかかっていたものがすとんと落ちたアリカは、続いて目の前に浮かび上がる大型のパネルに視線を移す。そこには先程まで自分が立っていた荒野が広がっており、イベント開催側である運営の、グラスというキャラクターが頬を引き攣らせながら、イベントをやり直すと伝えているシーンが移っていた。
「え、ちょ、ちょっと!? 私の景品はどうなるんですか景品! あれだけ悪目立ちしたのに、まさか貰えないだなんてことないですよね!?」
その可能性に辿り着くと、アリカはまるで感情の制御を知らない子供のように目の前の大型パネルに手を伸ばす。だがしかし、それはただのシステム的なウィンドウだ。触れたり叩いたりできる代物ではない。掌が擦り抜けていくところを見ると、むぅ、と頬を膨らませて草原に直接座り込む。顔を見られないよう被っていたフードが億劫だったので、装備ウィンドウを開いてフードを外した。システム上の制約がなくなったフードは、吹き抜ける爽やかな風に煽られて、すとんとアリカの頭からずれ落ちていく。
靡く銀の髪を抑えながら、仕方がない、とアリカは溜息を零すと、目の前の現在進行形で進んでいるイベントが中継されているウィンドウに視線を向ける。
「……やっぱり、私のスキルって激レアみたいですねぇ。刻の魔王様とかには負けましたけど……こうして俯瞰した視点で見てみると、皆さん分かりやすいスキルというか、そんな飛び抜けた効果がないスキルばっかりです」
スキルのレアリティは三つ。ノーマル、レア、リミテッド。普通にプレイを始めた初心者が手に入れられるのはレアクラスのスキルまでだ。それも、運と引きが良い、という前提が付いてくる。アリカは自らのリミテッドクラスのスキルである、尽きぬ焔の約定、そして黄金の心臓を手に入れた時のことを思い返す。
「なんだかチート使ってる気分ですよね。あのルーセントハートさんの挙動ってあからさまにバグっぽかったですし……ああ、いや、でもあのルーセントハートさんがそもそも否定してましたっけ。それにお問い合わせのメールに対して返信も頂けてないですし、何かしら突っ込まれたり、警告を頂いたりしたらごめんなさいしましょうか」
インベントリから取り出したのは食べ物――始まりの街で買った串焼きと、次の海辺の町であるアイゼンベルグで買った海鮮マリネとクラムチャウダー。元々アリカはそこまで食にこだわりは無かったが、銀座まではるばる三万円のランチを食べて以降、ある程度の自覚が生まれるくらいには食に対して譲れないものが生まれていた。
「そもそも、自分の身体を作るものですし、可能なら好きなものをいい感じに栄養バランス考えて食べるべきですよねー。いやー、ずっとコンビニのコーヒーとかサンドイッチで過ごしてた自分が恐ろしいです。……よくあれだけで倒れませんでしたね」
近頃はもっぱら出前に興味津々だ。両親が残した多額の金を思う存分に利用して、一人でピザを堪能してみたり、本格出前寿司や釜飯などを味わっている。それはさながら、生まれたての子供が初めて自分の好物を見つけたかのような光景だ。アリカ自身それを悪いことだとも思ってないし、そもそもお金も問題にならないので、その欲求を止められずにいる。
「このゲーム、本当にご飯美味しいですよねー」
そうしてアリカはしばらくの間、イベントの配信を見ながらもくもくと食事を続けていた。ポーションなどで埋まったインベントリの隙間に詰められた程度の食事は、イベントが終わる頃には当に無くなっている。配信も終わりを告げ、報酬受け取り口へ移動してください、の文字が画面に大きく映し出されていた。
なんとなくお腹をぽんぽんと叩きながら、アリカは――特に何を気にするでもなく、草原のど真ん中に現れた古き木製の扉を開いた。その先は先程まで自分が居た、どこまでも荒れた大地が続いてそうなイベント専用の荒野フィールドだ。すっきりとした顔で互いに何かを語り合うプレイヤーが辺りに数多くいる。その内の多くは突如として現れた扉、そこから出てきたアリカを見て、ぽかんとした顔をしていたが。
「……あっ」
慌ててフードを被ろうとする。だがそれよりも早く――アリカの視界に通知のウィンドウが浮かび上がった。
「――リミテッドクエスト、愛を語るべくを受領しました……?」
それは以前、ルーセントハートが口にしていたリミテッドクエストの名前。差出人は空白、そして報酬の欄には文字化けしたような読み解けない文字の並び。クリア条件は――一定時間の生存。どうするべきなんだろうか、という困惑。そして何で今このクエストが、という疑問。その二つで思考に蓋をされてしまったアリカ。
辺りのプレイヤーもそれは同じだ。各々が自らのつま先を見るような、浮かび上がったウィンドウを覗き込むような姿勢で硬直しており――中には、配信の設定が切断された、録画が出来ない、と悲鳴の如き叫び声をあげているものもいた。
そして、なんの前触れもなく、それはアリカの目の前に舞い降りる。
「……こんにちわ、こんばんわ、或いはおはようございます。皆さんが求めて止まないリミテッドクエストです、嬉しいでしょうか」
それは白い、いや、そんな言葉じゃ物足りない――純白のドレスを纏っていた。顔こそ、ドレスと半するような深い黒のフェイスアップ・ベールに隠されて見えないが、流れる黒髪と、僅かに膨らんだ胸元、響いた声色でそれが女性であることは伺い知れる。だがそれよりも――アリカはそれを見て、全身の鳥肌が立つような、不快とも、悍ましいとも言えるものを感じ取った。
決して邂逅してはいけない何か。自分が巡り合ってはいけない異形。
半ば自衛の為に。半ば反射で。咄嗟に右手を向けたアリカはその悍ましい感覚を振り払うかのように、最大火力を解き放つ。
「――アディクション!!」
「――やっぱり貴方は子供ですね。まずは会話からでしょうに……アディクション」
はっとした顔でアリカは対面する純白のドレスの女を見る。どうして、イベント上で現れたNPCが、アディクションだなんてプレイヤーに酷似したスキルを発動するのかと。だが、思考に耽るだなんて時間はない。
その直後、アリカの背後から生み出された極大――十メートルは超える紅蓮の炎に包まれた大剣と、純白のドレスに包まれた女の背後から生み出された、アリカの大剣と同サイズの触れたら芯まで凍り付きそうな冷気を纏う氷の大剣が衝突した。生まれた衝撃と、ぼしゅっという奇妙な氷が解け水が蒸発する音が辺りへ響き渡る。一瞬の鍔迫り合い、その結果は――互いのアディクションが打ち消された結果に終わる。
「まぁ、こんなものですよね。ちょっと懐かしいですよ、アリカさん――」
純白のドレスの女が一歩を踏み出した。前に足を出し、そして荒野の地面を踏みしめる。その度にぱきぱきと冷気が集い地面が凍り付く。さながら、彼女の存在は歩く冬至といったところか。冬を、冷気を、解けぬ凍土を与える絶対的な冷気。じりじりとアリカの神経が反応し、思わず一歩、後ずさんだ。刻の魔王が持っていた黒い短剣と似たような忌避感。確かに歩み寄ってくるその冬至には、自分が邂逅してはいけなかった、という悍ましい感覚。
「……この世界の方って、須らくご挨拶してくれませんよね。よくよく考えれば、刻の魔王さんにもお名前教えてもらっていませんし。こんな冗談みたいな始まり方で、あなたがいきなり訪れてきたんですから、せめてお名前くらい教えてくれてもいいんじゃないですか?」
「――」
虚を突かれたとでもいったところだ。
冷気を纏う純白の女は歩みを止めると、唐突に、されど呆れたように笑いだす。
「私はプレイヤーじゃないですし、そもそもイベントでもそこまで丁寧にする必要はないんですけどね。せっかく聞かれたので答えますよ」
白い指先が黒いフェイスアップ・ベールを摘まみ、捲り上げ、その下の素顔を晒す。
それを見てアリカは、まるで鏡を覗き込んだかのような気分になった。その素顔は、髪の色こそ違うが、余りにアリカに酷似していた。すっと、気が遠くなる感覚をアリカは覚える。視界の左下で、バイタルチェックのウィンドウがせかせかと点滅を繰り返しているが、それを確認する余裕すら奪われていた。激しく踊るように大きく跳ね上がるラインは黄色。正常な状態ではないと判定される赤色まで、あと少しという危険域。
「え……いや、なんで、そんな――」
「よろしくお願いします――リミテッドクエスト、愛を語るべくの進行を務めさせていただきます、シリカ・ルーセントハート、と申します。あぁ、進行っていっても私はそこまで丁寧ではないので、かなり荒っぽくですけどね。どうですか、これで足りていますか、尽きぬ焔の約定の、アリカ・ルーセントハートさん」
「し、シリカ……ルーセントハート?」
気味が悪い。気味が悪い。気味が悪い。気味が――。いつ、どこで、冬至をもたらす彼女、シリカ・ルーセントハートが生み出されたのか。現実世界の自分自身と鏡写しのように似通ったそのキャラクターは意図的に制作されたものなのか。理解が出来ないということがアリカに対して重く圧し掛かる。足を止め、思考を止め、引き攣った表情を見せるアリカに対して、シリカはつまらなそうに一つだけ溜息を零した。
「その反応は理解できますよ、人間というものは自分の思考が追い付かない事実に対して、素直に受け止めることが出来ないように設計されていますよね。でも、アリカさんが――うーん、なんだかやっぱり慣れませんね、対面して呼ぶのは。まぁ慣れることにしましょう、これが現実ですし――やり直しです」
気楽にシリカはぱん、と両手を叩いて軽い音を鳴らす。人間らしいその仕草を見て、ほんの僅かだが、アリカに圧し掛かっている忌避間が軽くなる。どこかピントが合わない視界の先、シリカの再びヴェールの下に隠された表情が、どんな色を浮かべているのかは窺い知ることが出来なかった。
「アリカさんがそれでいいなら、このリミテッドクエスト、愛を語るべくもここまでです。アリカさんはそこまで辿り着けなかった、アリカさんはそこに訪れるに値しなかった、アリカさんはそこに至る資格すらない生まれたばかりの赤ちゃんだった――愛も何も知らない、知る必要もないんですよ、あなたは」
シリカの手に生み出されたのは凍て付く鋭い氷柱。白い冷気を散らしながらそれがアリカへと放たれ――丁度心臓の位置に着弾する。大丈夫だ、これくらいじゃ自分は死なない。まだ震える脚、避けることを考えられないアリカの思考。そこには、今まで尽きぬ焔の約定が致命傷から自分自身を救い続けたという実績もあった。
だからこそ、体が吹き飛ばされ、一瞬で生存権利を剥奪された事実に対してアリカはこれまでの全てを吹き飛ばすほど、頭が真っ白になる。
「……無敵じゃないですよ、それ。炎化と同じく私も氷化で軽減は出来ますが、例外が二つあるんです。一つ目は――理滅属性、アリカさんも感じていましたよね、刻の魔王さんの持っている黒の短剣から感じていた、忌避する感情。理滅属性って正式にリリース発表されてませんし、知らないのも道理ですけど。あの短剣、実は先行リリースされてる理滅武器なんですよね、シードオンライン上に一本しか存在しない、リミテッドな武器ですよ」
視界がぐるぐると周り、浮遊感が全てを支配した。
撃ち抜かれたのは心臓、急速にグレーアウトしていく視界。そんな中、アリカは――これでここから逃げられる、だなんて思ってすらいない。寧ろ逆だった。どうして自分がこんな攻められるのか、値しないと奇妙なNPCに評価されなくちゃいけないのか、ましてや、なんでそんな――攻撃してくる瞬間に憐れむような声色になったのか。燃え盛るような憤慨で心中が満たされていた。
「二つ目は――私とあなたですよ。尽きぬ焔の約定、解けぬ氷の誓約、この二つは特別仕様なんです。ご理解いただけましたか? あぁ、もうアリカさんのリミテッドクエストは終わりでしたね。残念ながらもうお会いすることもないでしょうし、知ったところで今更なんですが」
やり直したい。今からならばシリカ・ルーセントハートが相手だったとしても、アリカは立ち向かえると確信をしていた。されど生存権利であるライフポイントは既に吹き飛ばされている。後はポリゴンとなって虚空へ散って、最後に訪れた街でリスポーンすることしかできない。力の入らない指先をぎゅっと握り締めようとしたところで――ぐるりと、視界が更に回転した。
そして、アリカにとっての世界が巻き戻る。
「……!」
巻き戻った世界、まだアリカのライフポイントが最大値で、シリカ・ルーセントハートと相対した状態の世界。そこでシリカは忌々しい表情で舌打ちをして、背後にある崖上――そこに立つ一つの影を見た。深い紺色のローブを風に踊らせて、自らの首筋に黒い短剣を当てて、獣の様な笑みを浮かべた刻の魔王を。
「忌々しい。どこまでも自己都合な方ですね、刻の魔王さんは。有象無象は置いておいて、先にアレを潰しましょうか」
刻の魔王とシリカ・ルーセントハートの間には決して短くはない距離があった。それでもシリカ・ルーセントハートは、初めからそこに刻の魔王がいることを知っていたかのように、彼女へと振り向いた。アリカは目の前の彼女の動作を見て、あれも時が巻き戻ったことを知っている、そう理解する。
アリカの視界の先の刻の魔王の姿が掻き消えた。点動による加速を利用してざっと砂埃を巻き上げながら、衝撃をやわらげる様に身体を獣のようにしならせて、荒れた大地へと着地。シードオンラインでは高所からの落下ダメージ、足の欠損判定も存在する。着した後にすんなりと立ち上がり、悠々と歩み寄ってくる彼女の姿を見るに、何かしら落下に対するスキルを備えているのだろう。
「随分とあなたには嫌われてるみたいね、私。酷いなぁ、いきなりイベントに巻き込んでおいて。あぁ、それでも私はあなたみたいなボスは倒したことないから、ちょっと楽しみかも? どれくらい強いのかな、あなたは」
頬の端を歪めるように笑う刻の魔王。構えられた黒の短剣からは、彼女を魔王たらしめんとばかりに歪な稲妻のエフェクトが迸っていた。アリカはそれ――威圧感を感じるその短剣、リミテッドクラスである理滅武器――を目の前にして、無意識の内に一歩、後ずさる。先程のシリカ・ルーセントの話が真実であればその短剣は自分自身を殺すに至るからだ。理滅属性を保持した武器を前に、アリカの炎化は意味をなさない。理滅の刃は炎を無視し、アリカの実体に傷を残す。
「刻の魔王、シャーロット・シルクス。……あなたを刻の魔王とさせているそのスキル、かなり不快です。木っ端は気付きさえしませんが、私くらいになると気づきますし、随分と動きにくくなるんですよね。一々、思考のリソースを割かなきゃいけないので」
「……よっぽど特殊なAIだね、あなたは。もしかして、AIとかじゃなくて、結構重大なクエストの管理者?」
本来、シードオンライン上ではプレイヤーネームはごくごく一部を除いて開示されることはない。フレンドを結ぶか、或いはシステム上のルールに反した場合など、ルールに反しない健全なプレイヤーの名前が開示される機会はほぼあり得ないのだ。だが、刻の魔王は自らのプレイヤーネームを当てられた。あまつさえ、他のプレイヤーのいる場所で口にした。本来であれば、AIとしては絶対にあり得てはいけない挙動だったのだ。
「その質問にはいいえ、と答える他ありませんね。愛を語るべく、は私が作成したものではないですし。……無駄話をしましたね、のこのこと近づいてきて良かったんですか? ――三回その場で回ってワン、その後は静かに地面に座って待っている。それが出来たら見逃してあげますよ、このリミテッドクエストのクリア判定を上げましょう」
「あぁ、なるほど。そういうタイプね、あなたは。……じゃあ私から質問だけど――どこぞのイベントのボスが生存をクリア条件として押し付けてきたんだよね。逆に、ボスがよわよわ過ぎて倒しちゃってもクリア判定にはなるのかな?」
「……ふふふ、なりますよ、もちろん。もっとも、倒せればの話ですけど」
「ならよかった。最近、随分と大層な口の割に手ごたえ無いのが多すぎてさ。気にしてるんだよね」
売り言葉に買い言葉。口を挟むことが出来ず、棒立ちで聞いていたアリカは思わず苦笑いを零す。私は逃げていいよね――そうこの場を離れるべく、点動を発動させようとした瞬間――目の前に一つの通知パネルが浮かび上がった。そこには、シャーロット・シルクスからパーティ勧誘を受けました、の文字列。
思わず引いた顔でアリカは刻の魔王――シャーロットへと視線を向けた。
「今、逃げようとしてたよね。せっかくだし私と遊ぼうよ、逃げ続けるより――どこかのつけ上がった態度のデカいポンコツAIを叩き直す方が楽しいんじゃない?」
「態度のデカい、つけ上がった、には同意しますけど」
随分とした言いぐさですね、とシリカ・ルーセントハートは両手を上げて呆れたようなポーズを取って見せる。振り切って逃げてしまおうのも手だが、確かにそうシャーロットに言われてみれば、なんだかむかむかとした気持ちがせり上がってくるのが分かる。ずけずけとプレイヤーネームを吐き出してよく分からない緊張感、不快感を与えてきたり、丁寧な言葉こそ一応使ってはいるが喋り方がどこか上から目線なものであったり。
それに落ち着いて考えればこれはゲームだ。あの理由なき忌避感にゲーム以上の何かがあるわけでもないし、所詮は遊びである。ならば、せっかく目の前に降りてきたリミテッドクラスのレアなイベントに対して、全力で立ち向かってみるのもいいと思えた。
「……シリカさんって性格曲がってそうですよね。悪役令嬢みたいというか」
「あなたがそれを言います? 精いっぱいの煽りとして受け止めてあげますね、あぁ、足が震えている子犬みたいで可愛らしいこと」
アリカの頬の端がひくついた。あれは完全にこちらを馬鹿にしてきている口調だ――感情が高ぶり、このVRの世界には存在しない筈の心臓がどくんと強く鼓動したかのように感じた。いわば、たがが外れる一歩前、だ。自分ってこんなに短気でしたっけ、と思いつつも右手は既にシリカ・ルーセントハートへと突き出され、アリカの背後には鋭い矛先を持ち赤く燃え盛る紅蓮の槍が十数本ほど現れ始める。
そして空いた左腕で――アリカはシャーロット・シルクスからのパーティ申請を許可した。視界の右端に新たなウィンドウが追加される。そこにはパーティ名と、それに属するメンバーの名前が刻まれていた。パーティ名、レアボスをボコり隊、メンバーは――シャーロット・シルクス、レイ・アークロイヤル、そして最後に、アリカ・ルーセントハート。
この世界に訪れてから初めて組んだパーティだ。それにアリカは感慨深いものを感じつつも、今は目の前のシリカをどう倒すかに集中する。知らない名前であるレイ・アークロイヤルに関しては突っ込む必要もなく、察しがついていた。刻の魔王であるシャーロットが先にパーティを組むメンバーといえば、あの極光の魔王以外にいないはずだから。
「……改めて、シャーロットだよ、アリカさん。さぁ、一緒に生意気な悪役令嬢でも退治しようか」
「絶対に泣かせて路頭に迷わせてあげましょうね、刻の魔王さん。そしたら十ダラーくらい恵んで、パンでも買っておいで、って慰めてあげましょう!」




