4.帳が落ちる頃 -2-
キッカリ10分。
合流した僕と千尋は、一歩一歩ゆっくりと最後の仕事に入っていた。
「今まで向かってきた中に6部署の人はいる?」
「いるね、見覚えのある顔が何人か」
「これは友和も来るかな?」
「待ち構えてるんじゃないの?」
僕はそういって、千尋を手で制して待たせると、目の前に迫った扉のノブに数発撃ち込んで足で蹴飛ばした。
重厚な扉が開き、僕の視界に扉の奥の景色が入って来た。
その刹那、僕の体は数十発の銃弾によって風穴だらけになった。
「でしょ?」
倒れていく最中、珍しいほど呆れ顔を浮かべた千尋にそう言って、僕は意識を飛ばした。
「……」
最後に一つ…"ちょっとしたオマケ"を部屋に放り投げながら。
「……」
「……」
「!!」
僕は地面に倒れ伏した直後に目を覚まし、静まり返った部屋に千尋の手を引っ張って入っていく。
何人かの、床に伏せた関係ない政治家を撃ち抜いて…僕達2人の目当てである6部署の人間のみを残して…僕は投げ入れたものの効果が切れるのを待った。
「これは?…頭と耳が…痛い」
「スタングレネードってさ…強烈な光と音で相手を無力化する…今みたいに…千尋みたいに少ししか食らってないならすぐに動けるようになるけど…モロに食らえばこの通りさ」
僕は部屋の一番高い位置からHK33を構えて、何人かの6部署の人間を撃ち殺した。
至近距離で5.56mm弾を食らった人間は、一部を木っ端みじんにしながら吹き飛んで絶命している。
「君の上司を残しておこう…立場は何だかんだ彼が一番上だしね」
僕はそういって、それ以外を殺していく。
丁度、最後の1人を撃ち終えたとき、スタングレネードの効果が切れた。
「どうかな?君達もレコードを改変できるとはいえ未知の道具は持てないだろう?一応、この時代の物なのだがね!」
僕はそう語りかける。
サッサと撃って終わらせればいいのに、この小物じみた…映画なら返り討ちに遭いそうな役回りをしてしまう。
僕の悪い癖だ。
「お前ら…一誠…千尋…死んだんじゃなかったのか」
「まさか!レコードで僕達が来ていることくらい分かってたじゃないか?」
水野友和…千尋の元上司は、こちらを見上げると、両手を上げながら言った。
千尋は手にしていたハイパワーをかつての上司に向けて答える。
「私は死んでない。こっちの私は死んだみたいだけどね」
「そうか…お前は5軸の…」
「随分と趣味の悪いことしてるのね。こっちの世界の紳士的だった貴方とは大違い」
「よく知った風に言うぜ。向こうの俺とて大差はないさ」
水野が吐き捨てるように言った。
「さぁて、残りは君だけどさ何か言うことはあるかな?」
「は!爪が甘いんだよ一誠。俺が死んだくらいで終わるとでも思うのか?」
「思うね。水野サン。僕達が何者かわかってるかい?」
「レコードキーパーだろう?」
「ノー…佐村と同じことを言うね…あの下っ端と…」
思い描いた通りの返しが来たので、僕は思わずニヤリと笑う。
水野は、訝し気な顔をして僕を睨んだ。
「君達も随分と腕が立つ相手だったよ」
「……」
「どうやってレコードに悟られずに世界を改変する準備をしていたのかお教え願いたいくらいさ!」
僕はHK33をテーブルに置いて、ポケットに手を入れて肩を竦めて見せた。
「ま、ざっと1日仕事…最近退屈だったから、偶にはヒヤリとするスリルが欲しかったところだった…君達の下で過ごしたような生活は御免だけどね」
「……お前、お前はあの時死んだ…一誠なんだよな?」
「ああ、この世界で死んだ僕さ。ただね、水野サン。死んでから…その通りに時が流れてると思ってるのかい?」
「……どういう意味だ」
「君は少し僕をナメてかかった節がある。それが今の状況を招いてるのさ」
「……どういう意味だと言っている!」
思わずといった形で水野が叫んだ。
僕はニヤリと笑ってから真顔になる。
「僕はね、水野サン。この世界で死を迎えて、この役割について途方もない時を過ごしてきたんだ」
「……」
「いくつもの世界を行き来して、今回みたいな些細な問題を解決して回った…時間の概念はとっくに壊れてるから、何年、この生き方をしてきたのか分からない。100を超えてから年を数えてないんだ」
僕の言葉に、横にいた千尋が目を見開いてこちらを見た。
僕は下でギリギリと歯を食いしばる水野を見下ろした。
「今回の改変劇、僕達のいる5軸と6軸を使ってさ…5軸を犠牲にして、6軸…つまり君達にとって理想の世界を作り上げようとしたんだよね?合ってる?水野サン」
「……」
水野は何も言わずにこちらを睨む。
「無言は肯定ととろう。そんな行動をとったのは、ある日突然受けた天啓に近いもののせいじゃないかな?君たちは運よくレコード…この世の全てを記しているものの存在と、その使い方を知ったんだ」
「その、天啓ってのが気に入らないけどね」
千尋が小声で茶々を入れてきた。
僕は小さく笑って続ける。
「実際、僕達パラレルキーパーにもわからないのさ、それが来る仕組みがね…普通、人間はレコードをたどるだけなのに、何故かレコード違反が起きたり、目の前の男みたいな例外が起きる」
僕は大袈裟に言って彼を改めて見下ろした。
「そして、君たちが行動を起こした結果が今の状況さ。野望は砕かれ死ぬ寸前!そりゃそうさ。君たちはこの世界と5軸のレコードしか知らなかった。10ある軸の世界や、無数にある可能性世界のことも…僕達、パラレルキーパーの存在も知らなかったんだ」
僕はニヤリと笑う。
「君たちがどれだけ上手く5軸と6軸を崩壊させても…レコードはしっかりと君たちを監視する。僕達が君たちを見つけ出して動き出す…ナメてかかったら大火傷じゃ済まさない…不死身の体を振り回して文字通り消滅するまで追い込むのさ」
僕はそういって、彼に撃たれた部分をトントンと指で叩いて見せた。
「……チ!」
そういった刹那、両手を上げていた彼が素早く動き、放った弾丸が僕の横を通り抜けた。
直ぐに千尋が引き金を引き、彼の持っていた拳銃が手から弾かれる。
彼の放った弾丸は、僕の頬を掠めて行っただけで、壁に風穴を開けた。
「この距離も外すのは少し耄碌しすぎじゃない?」
そして、ポケットの中にあるものを右手に握った。
「結局はただの人間風情…これに立ち向かうには無力だってことさ」
そう吐き捨てて、僕はピンを抜いたそれを水野の方へと放り投げる。
「このレコードの前ではね!」
「な……!」
手から投げ落としたのは、丸い物体。
中には沢山の身が詰まった…所詮、手榴弾と呼ばれる単純な兵器だった。
「…く」
落ちてくるものを、目を見開いたまま見つめていた男は、やがて派手な爆発音とともに砕け散る。
「……」
「……」
「さて…終わった」
僕は机の上に置いたハイパワーを取って、ストックを外すと、その中に仕舞いこむ。
それを上着に入れると、ハイパワーを構えたままの千尋の顔の前で手をヒラヒラと振って見せた。
「…あっけない」
彼女は手にした拳銃を下すと、少し呆然とした表情で僕を見た。
「出よう。もうここの人間達は指揮者を失ってる。あとは僕達の処置があるまで歪なままさ」
僕はそういって議事堂を出る。
千尋が横についてきた。
「どうする?何か飲み物でも買うかい?」
「そんなことしてる暇あるの?」
「ああ、俊哲に言った時間まで、あと1時間半はるからね」
僕達は入ってきた入り口から外に出る。
未だに混乱は続いていて、けが人やら死者の収容やらで、人がごった返していた。
そんな人込みの横を、再び存在感のなくなった僕達が通り過ぎる。
僕が新たに作ったコードはしっかりと動作していた。
人々は、どんなことがあろうとも都度生成された最新のレコードに縛り付けられて動いている。
人込みをかき分けて進むと、そんな混乱はなかったかのように、普通の日常を送る人々の姿が見えてきた。
スーツ姿のサラリーマンが都心を行き…
車が通り過ぎていく。
一区画先では、救急車の音が響き渡っていても、こちらではそんなことを意に介さずに自分の人生を歩む人々の姿があった。
僕達は木陰のベンチに手にしていた突撃銃を立てかけて、どちらから言ったわけでもないのに近くの商店に入っていく。
「何買うの?」
「煙草」
「はい?」
僕は少しだけ錆びた商店の冷蔵庫からコーラ瓶を取り出しながら、千尋の方を見た。
彼女は銀色のジッポーライターと、外国製の煙草の箱を数箱、手に取って僕を見ている。
「吸えるの?」
「分からない。ただ、何となく」
唖然とする僕に、商品を押し付けた千尋はじっと僕を見つめると先に店を出ていった。
「あ、すいませんコレください」
少しだけ固まった後、僕は会計を済ませて店を出た。
千尋は銃を置いたベンチに座って…ジーっと見つめる先には、スズメが歩いていた。
「……」
僕が近づくと、スズメは飛び立ってしまう。
千尋は少しだけ不服そうな顔でこちらを見つめた。




