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世界征服step 1   作者: kiri
1/1

復活!大魔道士

その時俺が誓ったことは、いつか必ず復讐してやるということだった。



俺はあの時、間違いなく死んだ。

今思い出してもぞっとするが、自分で自分の心臓を貫いた感覚をはっきりと覚えている。

ろくな事のない人生だったから、いつか生まれ変わって幸せになりたい。

そう思って俺は静かに眠りに…

つくはずだったのに!

本気でむかつく。

そりゃ俺の素行は悪かった!

実際いくつかの国をつぶしたし、世界征服の野望の元、ちょっぴりやんちゃした事もある。

っつーか、男の夢だろ?

世界を握って綺麗なねーちゃんはべらかすってのは。

それなのに、俺が生まれ変わることを恐れた魔道師どもが俺に封印をかけやがった。

おかげで俺は死んでも死にきれず、魂を結界に囚われたまま過ごすはめになっちまった。

屈辱だ!

魔王とまで恐れられたこの俺が封印されるなんて…

くそっ。覚えてやがれ、人間ども!

天才魔道師ルーカス様を怒らせたこと、必ず後悔させてやるぜ!



…そう思いたって早二百年。

お願い誰か助けてプリーズ… 

 

「イェーイ!ふっかぁぁぁつ!」

魔方陣から湧き上がる煙も収まらぬうちに、俺は空に向かってガッツポーズ。

あぁぁぁ!二百年ぶりの土の匂い、草の匂い、空気の香り!

嫌だ嫌だと思っていた人間世界も今はただ懐かしい。

くぅぅぅ!

太陽が眩しいぜ。

俺は二、三度飛び跳ねて、首をぐるっと回す。

うん。体に異常なし。元気元気。

ああっ!

生きてるってすばらしい!

「よっしゃ!とうとう俺の時代だ!今こそ我が野望果たす時。俺こそが世界の支配者だ!あーははははは… 

「でもその前に、僕に感謝してね♡」

ふいに背後から声がかかる。

ギクリとして振り返ると木の陰に、黒のローブを引きずった少年が一人。

十六、七ってとこか。

目にかかるほどの長すぎる前髪がうざったい。

口調こそ明るいものの、見かけはいかにも森の奥にひっそりと住んでそうな魔道師って感じ。

っつーか、真昼間の森に黒髪黒服はあまりにも不釣合い…

こいつが俺を甦らせた術者か。

…ふむ…どうしたもんか。

実は死体甦生の術には、ひとつ大きな欠点がある。

甦らせた術者に絶対服従ということだ。

…もともと死霊術者がゾンビを作る術から編み出しただけあって、自由が利かないんだよな。

俺には世界を阿鼻叫喚の地獄絵図にするっていう崇高な目的があるし。

俺はニコリとできるだけ友好的な笑顔を作った。

「やぁ、少年。お前が俺を甦らせたのか?」

「そうでーす」

「そっかそっか。いや、心から礼を言うぜ。まさか俺を甦らせるような物好きがいるとはねぇ。それじゃ、お礼と言っちゃなんだけど…」

俺笑みを浮かべたまま大きく手を広げた。

俺様的結論。

邪魔者はさっさと排除する。

命令を下される前に術者を葬り去る。

これなら俺は自由の身。

俺ぐらいの魔力があれば余裕で瞬殺!

俺は小さく呪文を唱え…

くらえ!

俺の十八番!

「雷撃!」

バチバチバチッッ

瞬間、おかしなことが起こった。

確かに少年に向けて放ったはずの呪文が俺自身に撥ね返ったのだ。

「な…に…?」

手加減なしの雷の直撃を受け、その場に倒れる俺。

うぅ…体が動かん。

「あははは。悪い事はできないもんだよねー」

能天気な口調で言いながら、少年は俺の横に腰を下ろす。

「あのね、君。ちょっと礼儀知らずじゃない?飼い犬に手をかまれるってまさにこのことだよね」

少年はニコニコしながら俺の隣に座り、スッとローブの下からナイフを取り出した。

はっ。

ヤな予感…

「神は言われました。やられる前にやれと。」

「おわぁぁぁ!どこの神じゃぁぁぁ!悪い!俺が悪かった!謝るから!」

少年はフッと息をついた。

「解ればいいんだけどね」

くっ…なんかムカつく。

「痛つっ…てめぇ…」

少し痺れが取れ、俺は何とか身を起こす。

「俺の呪文を防ぐとは…おまえ、なかやるじゃねーか…さすがは俺を甦生させた術者というべきか…」

俺の言葉に少年はキョトンと首を傾げる。

「ねぇ、君。なんか勘違いしてない?僕が使ったのは召喚術だよ?」

「はっ…?」

「ちょっとオリジナルのアレンジ加えてね、術者は攻撃できないようにしたの。召喚術ならその手のアレンジは簡単でしょ?」

「しょうかん…じゅつ…?」

召喚術―それはその名の通り、肉体、もしくは魂を離れた場所から召還する術。

ってことは、俺は死んでるんだからの肉体と魂どちらかが召還されるかと言えば常識的に考えて魂のほうな訳で…だとするとこの体はいったい誰のものかと言うことになる訳で…

そう言えば、目線がやけに低い…

慌てて顔を撫で回す。プニプニの頬に小さな手のひら。

これってもしや…

「子供…?」

「うん」

しばし流れる静かな空気。

「死にたての遺体を使っておもしろく仕上げて見ました」

…………

「ノォォォォォー!」

「ああっ!落ち着いて!」

「これが落ち着いてられるか!おもしろくってなんなんだよ!」

「焦っても現状は変わらないよ」

「落ち着いて言うなぁぁぁぁ!」

俺は思わずその場にへたり込む。

マジかよ…やっと生き返ったと思ったら…

そりゃ、こいつの召喚術の腕は認めるよ。

封印されてたはずの俺の魂を開放した上、他人の体を媒介に召喚するなんて、かなり高度な技だ。

でも…でも…

「ねぇ、君?どうしたの?」

こいつはこいつでのんきだし…

…なるほど。それで呪文の威力も落ちてたのか。

じゃなきゃ、いくら自分ではなった呪文とはいえ、俺様の雷撃を受けて無事でいられるはずがねぇ…

「ねー。だいじょーぶ?」

俺のこの怒りはいったいどこへぶつければいいのか…

うーん…本気でこいつ殺したい。

しかし、俺がこいつを傷つける事はおそらく不可能。

…… 

…………

ちっ。

ここはやっぱり…

「三十六系逃げるにしかず!」

言うなり俺は駆け出した。

手が出せないなら関わらぬのみ!

「さらばだ少年!この恩は二週間ぐらいは忘れな…ぶはっ!」

いきなりすっ転び、まともに顔面を打つ俺。

ああっ!

いつの間にか足にロープが!

もちろんその端を少年が握り締める。

「逃がさないから♡」

怖っ!

って言うか、いつの間にロープを!

こいつ、なかなかやるな。

「生き返れて嬉しい?」

「まぁな」

そっぽを向いたまま答える俺。

すねてる訳ではない。

まともに鼻打ったから正面向けません。

「そう。それなら…」

そこで少年はニコッと微笑む。

「恩返しぐらいしてもらいたいんだけど」

「恩返しぃ?」

なんてヤな性格!

はっきり言って、俺は人の為に働くのはだいっ嫌いだ。

もちろん人を働かせるのは好きだけど。

しかし、こいつしつこそうだしなぁ…

俺はしぶしぶ口を開く。

「…金が欲しいなら、いくつか盗賊団潰してやるよ。国落とすなら二つまでな。まだあんまり目立ちたくねーから…」

「やだなぁ。そんな物騒なこと考えてないってば」

少年はパタパタと手を振って否定する。

金と地位以外に欲しいもの?

俺にはちょっと考え付かんぞ?

「僕に友達を作って欲しいんだ。」

「は?友達?」

「うん」

俺は思わず眉をひそめる。

「おい。俺は子供相談所じゃねーんだぜ?そーゆー個人的な問題は自分で解決しやがれ!」

「人生の先輩として引き受けてくれてもいいじゃない?」

「お前…俺が誰だか知ってるのか?偉大なる大魔道師ルーカス様だぞ!」

「…誰、それ?」

少年はコクンと首を傾げる。

何…?

まさか俺、自分で思ってたほど有名じゃないわけですか!

「えと…知らないの?俺のこと?」

「うん」

うぁ…すげぇショック。

「と…とりあえず!断固として断る!」

「…引き受けてくれないの?」

「はっ。冗談じゃねぇ」

「そっか。残念」

そこで彼はわざとらしくため息をつき、

「この手だけは使いたくなかったんだけど…」

いきなりナイフを取り出し、自分の腕を切りつける。

何ぃ?

止める間もあらばこそ。

赤い血が滴り落ち…

「いっってぇぇぇぇ!」

叫んだのは俺。

腕に激痛が走り、少年と同じ傷が現れる。

「こんな事もあろうかと、召喚するときに僕の血を使ってみました」

…!

くそっ!

血の契約か!

魔方陣を書く時に自分の血を用いることで、術者と召喚した魔物とを一身同体にする術がある。 

術者が傷つけば自分も危ないので、魔物は仕方なく術者を守ることになる。

しかも魔物が傷ついても術者には影響しないというなんとも便利な術。

ただし、かなりマイナー。

主に自分より力のある魔物などを呼び出すときに使う術だが、それ以外に利用価値がほとんどないから。

まさかこんな術を知ってようとは…

こいつ、頭いいじゃねーか…  

ナイフを手にしたまま、少年はニコッと微笑む。

「友達できなきゃ僕死んじゃう♡」

うっ…見事な脅迫。

嫌だ…こいつと心中なんて嫌だ…

「わかった!俺が友達になってやるから!な。それでいーだろ!」

しかし、少年は両手に顔をうずめ、泣きまねを始める。

「僕にだって選ぶ権利が…」

シクシクシクシク

「な…なんだとぉ!俺のどこが悪いって言うんだよ!」

「世界征服を夢見るような危ない人はちょっと…」

「てめぇに危ないとか言われたかないわ!」

シクシクシクシク

あー!

うっとうしい!

「わかった!俺が責任もって友達探してやるよ!」

「本当?」

少年がパッと顔を上げ、手を差し出す。

「よろしくね。僕はカシス。ちょっと内気な十七歳♡」

「ルーカスだ…」

何だか釈然としないものを感じつつ、俺は仕方なく、その手を握り返したのだった。

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