第42話 生徒会長VS幼なじみ!?
「おかえり、和真」
生徒会室に戻ってきた俺を出迎えてくれたのは、親友にして生徒会副会長、財津秋人だった。
「おう、書類は職員室に届けてきたし、『鍵』も無事だぞ」
「ふふ。会計の仕事も、もう慣れたものだな」
生徒会長こと国分寺香穂が、生徒会室の最奥からほほ笑んでくる。
仮の会計として1週間を過ごし、『鍵』の「紛失」騒動を経てからさらに1週間。狙われることも多いけど、こうして無事に日々を過ごせているんだから、会計も板についてきたってことだろう。
「今日は剣道部だったけど、うまく逃げ切ってやったよ」
「ふむ。例のあれ、が役に立ってるようで何よりだよ」
「例のあれって?」
秋人が訊いてくるので、
「ああ、会長からもらった『部活連合』の資料だよ」
『部活連合』――私立鐘山高校の部で構成される連合で、予算要望や活動報告の場となっている。その資料なので、当然それぞれの部についての情報が事細かに記されている。
「つまり、資料から各部活の弱点を洗い出してるってこと?」
「そういうこと」
さっき逃げてきた剣道部なんかは顧問の先生がそれにあたる。これを知っているのと知らないのでは大違いだ。
「戻ってきてたんですね、大倉先輩」
と、隣の給湯室から書記の貝塚日菜子さんがトレーを持ってやってくる。上には人数分の紅茶が、いれたての湯気を漂わせていた。
「大倉先輩も戻ってきたことですし、少し休憩にしませんか? 会長」
「む、そうだな。貝塚君がせっかく紅茶を用意してくれたことだし、お言葉に甘えるとしよう」
会長の言葉を聞いた秋人が、目を落としていたファイルを閉じる。貝塚さんが入れてくれた紅茶に舌鼓を打――とうとしたところで、
「――で、なんでお前までここにいるんだ? みゆき」
俺は首を横に向け、隣のパイプ椅子を向く。本来なら空席であるそこには、俺と秋人の幼なじみ、金元みゆきの姿があった。
しかもちゃっかり紅茶まで飲んでるし。
「なによー、カズ君は私がいちゃまずいっていうの?」
「まずいもなにも、生徒会室は基本、部外者は立ち入り禁止だろ」
加えていえば、みゆきは放送部の部長。『鍵』を狙う立場にあるのだから、れっきとした「敵」になる。
「ふーんだ。カズ君が入れてくれなくても、秋ちゃんが入れてくれるもんねー」
「おい、秋人」
親友に苦言を呈すると、
「まあまあ。みーちゃんとこの放送部はしばらく部費が必要な活動もないっていうし、別にいいんじゃないかな」
「ったく」
相変わらず秋人はみゆきに甘い。
といっても、俺自身、みゆきに負い目がないわけじゃない。放送部は部費不足で全国大会に出場できず、『鍵』を持っている俺はそれを知りながらみゆきを助けなかった。
だが、その件は一応、片がついた。過ぎた話だし、お互いそれを蒸し返そうとは思っていない。
「それに、私だってなんの目的もなくここに来たりしないもん」
「目的?」
訊くと、みゆきはじっとある一方向を見つめる。
一方向――会長の席を。
「おや、私か?」
悠然とほほ笑む。だがみゆきにはその態度がさらに気に入らなかったようで、
「むー! とぼけたふりしてもムダなんだから!」
ふんす、を息を吐いて立ち上がる。
「またカズ君にちょっかいかけようとしてるんでしょ!」
「ちょっかいとは心外だな。私はただ、好いた男の子に振り向いてほしいと思っているだけだが?」
「それがちょっかいだっていうの!」
まさに一触即発。だがそれも致し方ない。
『鍵』の「紛失」騒動が収まったころ、会長は俺に好意を伝えてきた。さらには、それを見たみゆきが俺の頬に、その……キスをしてきた。
まずいな、思い出すと頬に当たった柔らかい唇の感触がよみがえってくる。
そんな俺を放っておいて、ふたりは言い合っている。主にみゆきの言葉を会長があしらっているだけだが。
スタイル抜群の黒髪ロングに、低身長のふわふわショートカット。
まさに対照的なふたりの戦いといったところか。取り合っているのが俺、ということには違和感しかないけど。
「和真も大変だね」
「秋人お前、他人事だと思って」
「いいじゃない。モテ期なんてそうそうくるものじゃないよ」
「そうは言ってもなあ」
いきなりふたりの女の子から好意を寄せられても、正直どうしていいかわからない。隣で優雅に紅茶を飲んでる貝塚さんから落ち着きを少し分けてほしいくらいだ。
「あまりジロジロ見ないでくれませんか、大倉先輩」
「ああ、悪い」
「それと、私は信じていますよ」
「何が?」
訊くと、貝塚さんは銀縁メガネの奥の瞳を輝かせて、
「大倉先輩は財津副会長と結ばれることを、です」
「「結ばれないから!」」
男ふたりのツッコミがユニゾン。貝塚さんは少しだけ不満げな表情になった。まったく、なにが悲しくてホモにならんといけないのだ。
……ともあれ。
俺はふたりの気持ちに、ちゃんと向き合わないといけないんだろう。
それは男としての、最低限の務めだ。
まあ、すぐには無理かもしれないけど。
しょうがないだろ、女の子に好きだと言われたことなんて生まれてこの方なかったんだし!
「……ま、ぼちぼちやるか」
生徒会の仕事にも慣れてきたし。
『鍵』の守り方も心得てきた。
この日常を続けて、気長に答えを出せばいい。
この時、俺はそんな風に考えていた。
数日と経たず、それが甘いことを、思い知らされるとも知らずに。




