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期間限定の生徒会役員(キーパーソン)  作者: 今福シノ
第1章 会計の仕事は『鍵』を守ること!?
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第38話 俺の選択

 時間も時間だ、ということで、今回のパーティはお開きとなった。


 結局、秋人の最後の生徒会を辞める発言でなんともいえない雰囲気になったまま、終わりを迎えてしまった。


「じゃあ和真、また明日」

「おう」


 いつもの分かれ道まで見送りに来た俺に手を振りながら、自分の家の方向へと去っていく。


「それじゃあ、私も帰るね」


 みゆきも、無理やり作ったような笑顔で俺に手を振り、その場を去ろうとする。

 そんな後姿を見て、俺はどういうわけか声をかけた。


「待てよ」

「ふぇっ?」

「一応……送っていくよ」


 みゆきと俺の家はそこまで離れているわけではない。といっても、こんな時間だ。道路に街灯はあるとはいえ、暗いことに変わりはない。空が曇っているせいか残念なことに、今宵は夜を照らす月の姿も見当たらない。


「……」

「……」


 お互いさっきの雰囲気を引きずったまま、暗い夜道を歩く。


「せっかく仲直りできたと思ったのに、なんだかちょっとぎくしゃくしちゃったね」

「……そうだな」


 でも、仕方のないことなのかもしれない。

 秋人の意思は固かった。


 俺たちは、大人になっていくにつれて、自分が何をするかを、自分で考えて、決めるようになる。それは誰かが容易に変えられるものではないのだ。

 俺もみゆきも、秋人と本質的には何も変わらないのかもしれない。任された『鍵』を、どんな事情があってもしっかりと守り抜くと、決めたように。


 今回のことは、その始まりに過ぎないのだろう。こうして俺たちはこれから何人にも流されず、考えて考え抜いて、自分で歩んでいくんだ。


 そうやっていくうちに、今みたいな3人の関係も、離れていくのだろうか。知らない間に。


「ありがとね」

「なんだよ急に」


 別にお礼を言われるようなことをした覚えはないぞ。むしろ、秋人の計画を頓挫(とんざ)に追い込んだから糾弾されてもおかしくないのに。


「もしもの話だけど……カズくんがもし、『鍵』で私のために金庫の中のお金を使ってくれようとしたら……私、きっと受け取っちゃったと思う。カズくんの優しさに、甘えてたと思うの」


 一瞬たりとも目を離さず、俺の方を見据(みす)えて言う。


「でもカズくんは、何も言わずにいつも通り、私に接してくれた」

「そんなの……偶然だよ」

「偶然でも、私はうれしかったよ? 確かに私にとって部活はとても大切なものだけど、同じくらい……ううん、ずっと、ずっと、カズくんの方が大切だから」


 だから、カズくんとの関係が変になるのは嫌だったんだよ、と。彼女はうつむきがちになる。


 ここまで言われては、俺もひとつのことを考えてしまう。

 今まで一人の幼なじみとして接してきた人間が、それを越えようとしているのではないか、ということを。


「だからね、カズくん……」

「……」


 俺はごくり、と生唾を飲み込んで彼女の次の言葉を待つ。

 いや、正確には固まってしまって何も言えないだけだった。


「――」


 ~♪~♪~♪


「おわっ!」

「ふやぁっ!」


 その時、全く空気の読めていないような有名歌手の歌とメロディが鳴り響いた。


「わ、私の携帯……? で、電話? ごめんねカズくん」


 慌てながらも、ポケットから音の発生源を取り出して通話のスイッチを押す。


「お、お母さん? ……うん、うん……。もうそこまで来てるよ。うん、カズくんに送ってもらってる。……だから、もうすぐ帰るよ」


 どうやら電話の主はみゆきのおばさんのようだ。まあいくら行き先がわかっていたとしてもこんな時間なら電話のひとつもしたくはなるだろう。娘大好きな人だし。


「ごめんねー和真君。邪魔しちゃって」

「いえいえ、そんなことは」

「みゆきもごめんね?」

「本当にそうだよ……。お母さん空気読めてないよ……」


 ……んん?


 …………。


「「ってええええええ!?」」


 みゆきと俺が、シンクロして声を上げた。

 それもそのはず。みゆきのおばさんが、目の前の家の窓から電話を片手にこっちを見ていたからだ。


「お、お、お母さん、いつの間に……」

「あらー、いつ帰ってくるかと思って電話しようと思ったら、外から声が聞こえてきたんだもの。こんな時間に外から声がしたら、気になって見に行くのは当然でしょ?」


 これ以上ないんじゃないかというほどに、満面の笑みで話すおばさん。


「それで電話してみたら、外で喋ってるのがあなたたちだったのよ。カズくん、本当にごめんなさいね? すごおおお~くお邪魔なことしちゃったみたいで」

「あ、いえ……」


 どこから見られていたのかはわからないが、これはかなり恥ずかしいぞ。


「も、もーお母さん!」

「ふふふ、ごめんごめん。もうここまで帰ってきてるなら安心したわ。あんまり遅くならないようにね」


 最後まで微笑み(若干からかいを含んでいるよな、絶対)を絶やさないまま、おばさんは窓を閉め、カーテンを閉めて家の中へと入っていった。


「……」

「……」


 訪れる沈黙。思わぬ人物の登場とによって、この場の雰囲気はぐちゃぐちゃになってしまった。

 まったく、あの人もかき回すだけかき回して帰っていくなんて……。


「はあ……」


 盛大にため息をつくみゆき。そんな彼女と、思わず目が合う。


「おい、みゆ――」

「じゃ、じゃあカズくん。私、帰るね」


 さすがにさっきの話の続き、という気持ちにはなれなかったのだろう。俺だって今からテイク2なんていわれてもどうしていいかわからない。


「おう……また明日な」


 だから、余計なことは何も言わず、彼女を見送る。


 この話は、おしまい。ひとまず、今は。


「うん……また明日」


 みゆきもそれをわかっているようで、温かな笑みを向ける。そして小さくかわいらしく手を振ると、家へと帰っていった。


「……ふう」


 さっきまでの騒がしさが嘘のように、暗い夜道に静寂が戻る。夜の道は、そうであるべきだと主張するように。


 ……帰るか。


 俺はおもむろにポケットに手を突っ込む。制服ではなく私服なのだから、当然その中には何もない。

 涼やかな風が火照った顔を、頭を冷やす。徐々に冷却されてきた脳内で俺は考える。

 あの時みゆきのおばさんからの電話がなかったら、どうなっていたのだろうか。

 みゆきが俺に言おうとしていたことは。告げようとしていたことは。

 わかるような気もするが、わからない。そもそも、彼女の未来の言葉なんて、彼女自身しか知らないのだから。


 いや、本当はわかっている。俺は理解している。

 未来がどうなるかわからないなんてありふれた言葉だが、果たしてどうなるかなんて、己の選択次第だ。その時何をするかで、この先何が起こるか、おおよそのことはわかってしまう。


 俺たちは、ありえたかもしれない未来に目をつむり、ありえそうな現実へと突き進んでいく。


 さて、明日はどうしてやろうか。


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