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プロローグ
その日、俺は校舎内を走り回っていた。
「うおおおおお! 待てえええええい!」
「待ちなさあああいっ!」
「おとなしく捕まれええええ!」
全力疾走する俺の背後には、これまた力の限り走って追いかけてくる男女が数人。
制服姿に、野球のユニフォーム。果てはチア衣装。まさに十人十色
人間、追われるには必ず理由がある。
俺が悪いことをした、なんてことはなく。
俺が男女関係なく追われるほどのモテ男、というわけでもない。
「「「『鍵』を渡せええええ!」」」
そう。
俺がこうして逃げ回っているのは。
『鍵』を持っているから。
生徒会役員だから、だ。
「くそっ」
力の限り床を蹴り、走る。彼らから、逃げる。捕まったら、その時点で終わり。
「あー、もう!」
こんな仕事、引き受けるんじゃなかった!
そんな悲痛な叫びを聞いてくれる人は、誰もいるはずがなく。
俺はただ、逃げ回って廊下を走るだけ。
これは、俺とお金と――そして少しの友情の物語。
愛? 愛は、うーん……たぶんない、んじゃないかなあ。